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謝辞

黄身に箸を押し付けてぷっつりと決壊したかのような、とろやかで愛しい、少しアクのある恋をしよう。
松葉風に祖父の竹蜻蛉を思い出したあの日のような、遠い記憶の分岐点で沈んでいる、セピアを絡めたわたしのわたしの愛し子よ。
ささくれよりも、枝毛よりも、割れた踵のどのヒビよりもぬるく突き刺さる、
愛を思い出させてくれてありがとう。
破れてしまったカーディガンの隙間から覗いていたかのこ編みの根元へと、
わたしを編み込んでくれてありがとう。

欲しかったのは、和紙に垂れた墨汁の染みだ。
紐のちぎれたスニーカーだ。
貯めすぎて忘れられている紙袋だ。
眠たくてつけっぱなしにしてしまった2日目のコンタクトレンズだ。
そして、息をするのもままならない恋ではなく、
ぱちぱちと爆ぜる焚き火を囲んだ、目を伏せ口を結ぶきみの横顔だ。

青さを輝きと思い違っていたあの頃に語りかけた貝殻は、からからと鳴く野の花へと変わった。
わたしは、優しく種を落としてゆこう。

卵の黄身は、四つ目が一番に心地よい。

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