西城秀樹「かぎりなき夏」が連れてきた“海辺の悪戯”。42年ぶりに発見された作曲家・滝沢洋一の筆による一枚の楽譜

text:都鳥流星

2015年に初CD化された唯一作『レオニズの彼方に』(1978/東芝EMI)が「シティ・ポップの名盤」「奇跡の一枚」と高く評価されているシンガー・ソングライター、作曲家の滝沢洋一(2006年に56歳で逝去)。

前回、滝沢が90年代に起業する音楽制作会社ハウス・ティーでカラオケ事業を手伝ったり、作曲・編曲を共同でおこなっていた高校時代からの「悪友」でキーボード奏者の越智洋一郎へのインタビューをご紹介した。

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その越智へ、滝沢の自宅から発見された未発表曲を中心に、知られざる過去の音源を送付した。そして、滝沢の楽曲について何か覚えていることはないか聞いてみたが、なに分40年以上も前のことゆえ、記憶していることはほとんどないという。

越智は、滝沢が亡くなったときに葬儀の参列者へ配られたCD音源の中に、かつて共同で作曲した曲が含まれていたことを記憶している、と語った。しかし、具体的な曲名などは分からず、その曲が後に発表されたものかどうかもわからないという。

そんなやり取りを越智と続けていた矢先、西城秀樹への提供曲「かぎりなき夏」の作詞家ありそのみから一通のメールが届いた。

ありとは、42年前に発売予定もお蔵入りとなった滝沢の幻の2ndアルバム『BOY』の収録予定曲であり、84年に西城秀樹へ提供されたアルバム収録曲「かぎりなき夏」についてインタビューをおこなったあと、しばらく連絡を取っていなかった。

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不意の連絡に驚きつつも、私は恐る恐るメールを開いた。そこには一枚の画像とともに、やや興奮気味な文面が綴られていた。

「近々、転居をするのでいろいろと引っ掻き回していたところ、古い作品の下書きやらメモなどの束の中に<かぎりなき夏>のメロ譜がありました! 自分でもビックリです。どなたが書いたのかはわかりませんが…。とりあえず写メ送ってみます」

そこには一枚の楽譜が写っていた。

タイトルの横に書かれた「トクちゃんへ」とは、おそらく同曲のアレンジを担当した、日本を代表するカントリーギターの名手・徳武弘文へ宛てた楽譜だったことを示している。

その他「ニース、カンヌ、女の子にふられる」というメモ書きもある。これは、外国の風景や世界観をイメージしながら、詞よりも先に作曲をすることの多い滝沢が書いた「かぎりなき夏」の楽譜に違いない。

そのように直感した私は、滝沢のご遺族へ連絡し、これが滝沢の自筆による楽譜かどうかをたずねた。数日後に届いたご遺族からのメールにはこう書かれていた。

「滝沢の書いた楽譜に間違いありません」

作詞家ありそのみの自宅から、期せずして発見された「かぎりなき夏」の楽譜。これは、この曲が曲先であることを示しているばかりでなく、滝沢がどんなイメージを膨らませながら作曲していたかについても教えてくれた。

2ndアルバム『BOY』がお蔵入りになって西城秀樹へ曲が提供された経緯、当時の担当ディレクターおよび作詞家から得た数々の証言、世界的シティ・ポップブームを作ったDJヴァン・ポーガムと同曲の邂逅、そして今回の楽譜の発見…。

この曲をめぐる「数々の奇跡」は、いったい何を意味するのだろうか。

(つづく)