ALFA+アルファ〜リアル・クロスオーヴァー進化論
①カシオペア
Text:金澤寿和
79年にアルファ・レコードからデビューし、人気絶頂で80年代を駆け抜けたフュージョン・グループ、カシオペア。いく度かのメンバー・チェンジや活動休止期間を経て、現在もカシオペアP4として活動している。ただ日本にいるとあまり気づかないが、J-フュージョン・バンドとして同列で語られるT-スクエア、ディメンションあたりに比べ、より大きな存在感を誇っていると感じるのだ。特に音楽好きの外国人、ヨーロッパや英国での認知度がひと際高い。筆者はこの10年近く、北欧やヨーロッパのジャズ・ファンクやAOR系の若手ミュージシャンと数多く交流してきた。彼らとのやりとりの中で、カシオペアの名が結構な頻度で登場する。
「アース・ウインド&ファイアーやスティーリー・ダン、スティーヴィー・ワンダー、レヴェル42なんかが好きなんだ。カシオペアもね」
「ウェザー・リポートやチック・コリアをよく聴いていた。それと日本のカシオペアだね」
「メゾフォルテ(アイスランドのジャズ・ファンク・グループ)が大好きなんだ。それにカシオペア。ライヴ盤の『MINT JAMS』が大好きで、特に<Domino Line>と<朝焼け>がお気に入りだ」
そんな話がポンポン飛び出してくる。当時からデュラン・デュランやカジャグーグーなど、一部の英国ミュージシャンがカシオペアを聴いていたことは知られているし、レヴェル42やシャカタクあたりは同じジャズ・ファンク系として語られた。レヴェル42とは実際にジョイント・ライヴも行なっている。
……とはいえ、いまカシオペア愛を語るミュージシャンの多くは20〜30歳代。カシオペアが頻繁に海外ツアーへ出ていた時期のリアルタイム・ファンではない。
「家にレコードがあったんだ。親が若い頃に聴いてたらしいよ」
「オヤジがジャズ・フェスでカシオペアを観て気に入り、レコードを買ってきたんだ」
近年では、超絶技巧を武器にしたスウェーデン出身の人気バンド:ダーティ・ループスが、来日時にTV出演した際、カヴァーしたい曲を尋ねられ、「カシオペア(の曲)をやりたい」と言ったとか。彼らはデビューに先駆けて、アデルやブリトニー・スピアーズ、ジャスティン・ビーバー、レディ・ガガといった人気歌手のヒット曲を斬新にカヴァーして、YouTubeに動画をアップ。累計2000万ビューを稼いで自らの売り出しに成功し、大物プロデューサー:デヴィッド・フォスターの目に止まってレコード会社との契約を獲得した。そんな彼らが策略抜きで、カシオペアをカヴァーしたいと言ったのだ。もちろん多少のリップ・サーヴィスがあったにしても、この言及は注目に値しよう。
80年代のカシオペアは、英欧のみならず、米国進出にも積極的だった。ボブ・ジェームス、ハーヴィー・メイソンらにプロデュースを仰ぎ、歌モノにチャレンジした時には、デヴィッド・ボウイの参謀役カルロス・アロマーをサウンド・プロデュースに、<Missing You>のヒットを持つジョン・ウェイト(ベイビーズ、バッド・イングリッシュ)をゲスト・シンガーに起用したりも。しかしミュージシャンや音楽関係者たちの評価の高さとは裏腹に、英欧ほどの成果は残せていない。最大の理由は、米国だと国土が広すぎて、なかなか浸透しないことだろう。それにニューヨークとL.A.に代表されるように、各エリアごとに音楽ファンの嗜好が大きく異なる難しさがある。その点、カシオペアのソリッドなジャズ・ファンク、緻密に構築されたアレンジやスリリングな演奏は、英欧のファンにジャスト・フィットした。だからこそ、現在も英欧の若いミュージシャンの間では、リスペクトを持って語り継がれている。
近年、日本でも有能な若手ミュージシャンが急増しているのはご存知の通り。その彼らにルーツを聞くと、「子供の頃から親のクルマでスティーリー・ダンや山下達郎を耳にしていた」とか、「親が音楽好きで、家ではいつもユーミンが流れていた」と返ってくる。幼少期からそうした質の高い音楽に接していたら、一般家庭のZ世代のようにアイドルには向かわない。そもそもDNAが違うのだ。そうしたジェネレーションが成長期に、いわゆるブルーノ・マーズやダフト・パンクのような“80'sブギー”と呼ばれるダンス・サウンドに洗礼を受けたり、ジャズに開眼した。その結果として、彼らは自分たちのあるべき姿を80年代のカシオペア・サウンドに重ね合わせる。スナーキー・パピーやハイエイタス・カイヨーテと言ったニュー・ジャズ系グループの人気も、それに連動していると言っていい。80年代は、電子楽器や録音技術の目覚ましい革新と音楽の進化が絶妙にリンクしていたことも、理想的な点だろう。
今はバラけてしまったカシオペア全盛期のメンバーたちも、彼らに熱狂したリアル・タイムのファンたちも、さすがに相応に歳を重ねた。でも一番重要なポイントは、音楽性や演奏スキル云々より、あの頃の彼らの周りに充満していた熱気やスピリットなのかも? それを感じられるから、心ある若手ミュージシャンやリスナーたちが、今も80年代カシオペアを崇拝する。そしてその向上心や気概は、アルファ・ミュージック本体の有り様と通底するものと思うのだ。