アルファ・オールタイム・ベスト #9 ―わたしのこの1曲―

金澤寿和+

金澤寿和(音楽ライター)

1960年、埼玉県大宮市(現さいたま市)生まれ。AORを中心に、ロック、ソウル、ジャズ・フュージョンにシティ・ポップスなど、70〜80年代の都会派サウンドに愛情を注ぐ。40歳目前に会社を辞して執筆活動に専念し、音楽専門誌やCDの解説などに寄稿する傍ら、邦・洋ライトメロウ・シリーズほか、多くのCD再発シリーズの監修、コンピレーションCDの選曲・監修などを手掛けている。代表作に『AOR Light Mellow』『AOR Light Mellow Remaster Plus』『Light Mellow 和モノ669』『Light Mellow 和モノSpecial』『ブラック・コンテンポラリー・ミュージック・ガイド』『角松敏生』他。現在、ライフワークである洋楽AORのディスクガイドの新装版『AOR Light Mellow Premium』シリーズが進行しており、『Premium 01〜 Legends & Pre-AOR』に続く2冊目を制作中。
ほぼ毎日更新のブログは、http://lightmellow.livedoor.biz

金澤寿和によるアルファ・オールタイム・ベスト
( )内は発売・公開年/月

このコラムを書くにあたり、ALFAの出版管理リストを見せてもらったところ、意外にも自分は相当早く、村井邦彦作品に触れていたことが確認できた。68年にヒットしたザ・テンプターズ「エメラルドの伝説」。自分はまだ小学校低学年で、いわゆるGS世代ではなかったが、ザ・テンプターズが地元出身だったこと、お兄さんの影響でGSを聴いているマセた同級生がいたのが原因だった。高学年になると、クラス対抗の学校音楽会で「翼をください」を歌ったり、音楽の授業の歌唱テストでは、自分でトワ・エ・モワ「虹と雪のバラード」を選んで歌ったり……。歌謡曲ばかり耳に入る一般家庭の環境で、このあたりの洋楽センスの曲を好んだというのは、やはり現在の自分の根底にはALFAに育まれた感性が息づいているのかもしれない。もっともその後もっとシッカリしたカタチでALFAの看板を意識するのは、ユーミンやGAROになっていくのだが……。
 選曲にあたっては、“オールタイム・ベスト”というお題目とは知りつつ、それは他の選者の方にお任せし、自分は己の得意分野であるシティ・ポップ周辺に特化しようと。個人的にはALFAが和製ジャズ・フュージョンに与えた影響も小さくないと考えるが、とにかく今はシティ・ポップ再評価ブームの真っ只中。しかもその再評価の潮流が、世代交代やクラブ方面からのフォーカス、海外からの一方的解釈によって、あらぬ方向へ書き換えられてしまうことに強い危惧を抱いている。だからこそ、その大きな発信源であったALFAのシティ・ポップをまとめて掘ることによって、その存在意義をアピールしたい。もちろん若い世代の新しい目線、今の時代だからこその評価軸は不可欠なのだが、それは歴史の書き換えとは異なると思うのだ。
 しがない音楽ライター歴ながら、シティ・ポップ作品の再発や編集盤の制作に携わってきた関係で、自ずとALFA原盤およびALFA Recordリリースの作品を扱わせていただく機会は多かった。2014〜2015年にレコード会社十数社共同で30枚以上の編集盤を選曲・監修した【Light Mellow 和モノ】シリーズには、アルファ音源だけをコンパイルした『Light Mellow Wave』もある。もっとも現在は入手困難なので、そことの重複も認めつつ、セレクトした15曲。70年代中盤からのワン・ディケイドが如何にスペシャルな時代だったか、それを実感していただければ幸いである。

1. さざ波 / 荒井由実
作詞:荒井由実  作曲:荒井由実(1976年11月)

2. これで準備OK / 南 佳孝
作詞:南 佳孝  作曲:南 佳孝(1976年9月)

3. ムーヴィング / サーカス
作詞:福永ひろみ  作曲:小川よしあき(1979年5月)

4. Je Mennuie / ハイ・ファイ・セット
作詞:荒井由実  作曲:渡辺としゆき(1976年6月)

5. レオニズの彼方へ / 滝沢洋一
作詞:滝沢洋一  作曲:滝沢洋一 (1978年10月)

6. メニュー / 野口五郎
作詞:藤公之介  作曲:深町 純(1978年8月)

7. 心のままに / 朝比奈マリア
作詞:星野貢一  作曲:嶋 健 (1979年6月)

8. 地上からBon voyage! / 広谷順子
作詞:竜真知子  作曲:広谷順子(1983年2月)

9. タバコロード20 / ブレッド&バター
作詞:呉田軽穂  作曲:岩沢幸矢(1979年6月)

10.愛してると言って / 斎藤 誠
作詞:斎藤 誠 作曲:斎藤 誠(1990年10月)

11.TAKE ME / 大野方栄
作詞:大野方栄 作曲:野呂一生(1983年8月)

12.Mon Amour / 山本達彦
作詞:松尾由紀夫 作曲:山本達彦(1985年3月)

13.あとは LA LA LA / 麻上冬目
作詞:伊達歩・鈴木隆治 作曲:大野克夫 (1981年)

14. I CAN’T WAIT / 佐藤 博
作詞:Lorraine Feather 作曲:佐藤 博(1982年6月)

15. 頰に夜の灯 / 吉田美奈子
作詞:吉田美奈子  作曲:吉田美奈子(1982年9月)

● さざ波 / 荒井由実
荒井姓での最後のアルバム『14番目の月』のオープニング・トラック。ザ・セクションのリー・スクラー(b)を含むL.A.のリズム・セクションに、松任谷正隆、鈴木茂、松原正樹ら日本勢、そして風を巻き上げるかのような山下達郎、大貫妙子、吉田美奈子、尾崎亜美らのコーラス。ユーミンの名曲数々あれど、自分にはコレがジャストな1曲。

● これで準備OK / 南佳孝
佳孝さんというと、デビュー・アルバム『摩天楼のヒロイン』か、ヒット曲を多く出したCBSソニー時代、というイメージだけれど、その橋渡し的な移籍第1弾『忘れられた夏』を忘れちゃいけない。桑名正博も取り上げたこのラテン・ファンクなノリ、サイコーです。

● ムーヴィング / サーカス
「ミスター・サマータイム」や「アメリカン・フィーリング」のサーカスしか知らないで、シティ・ポップ好きを名乗ってはイケません。アレンジには坂本龍一も尽力。赤い鳥〜ハイ・ファイ・セット〜クレスト・フォー・シンガーズ、ALFAのコーラス・グループ好き系譜。

● Je Mennuie / ハイ・ファイ・セット
2枚目のアルバム『ファッショナブル・ラヴァー』から、和製ボサノヴァの逸品。キモはブラジル直輸入ではなく、L.A.経由だったこと。マニアな方はハース・マルチネスを間に置けば、ハハン!と納得できるでしょう。遠くで歌っているだけでも、山本潤子はやっぱり美声。

● レオニズの彼方へ / 滝沢洋一
拙監修のシティ・ポップ系ディスク・ガイド『Light Mellow 和モノ669』に於いて、“職人による知られざる奇跡の名盤”なる冠を掲げた3枚のうち1枚が、滝沢洋一のワン&オンリー作『レオニズの彼方に』。ほか2枚は程なくCD再発が叶って陽の目を見たが、コレだけは2015年にようやく初CD化。ガイド本の増補改訂版『Light Mellow 和モノSPECIAL』(2013年)発行が寄与したとしたら、とても嬉しい。初CD化が決まって解説を依頼された時は、心の中でガッツポーズしたのを思い出す。それが今ではサブスクリプションでも気軽に。イイ時代になったなぁ。

● メニュー / 野口五郎
フュージョン好きでギターも上手い五郎さん。歌謡界向けのシングルとは違って、アルバムにはかなりマニアックなシティ・ポップ作やギター・インストまであることは、今のDJ世代にはお馴染みだろう。その中でも特に人気なのが、故・深町純のプロデュース&アレンジでL.A.録音の『L.A. EXPRESS〜ロスアンゼルス通信』。デヴィッド・サンボーン(sax)、デヴィッド・T・ウォーカー/リー・リトナー(g)、リック・マロッタ(ds)なんて参加陣を知れば、好事家ならずとも食指が動く。

● 心のままに / 朝比奈マリア
モデル兼女優、最近は画家としての顔も持つ朝比奈マリアの唯一作『MARIA』から。母親の雪村いずみは大御所歌手として知られるが、荒井由実の初期名曲「ひこうき雲」は、もともと雪村のために書き下ろされた。ALFAとはそれだけ縁が深い人なのだ。また『MARIA』には、YMO勢、ティン・パン・アレー勢に山下達郎までアレンジ参加。摩天楼ディスコ系のこの曲は、やはりALFAと縁深いドラマーのハーヴィー・メイソンがアレンジを担当したL.A.録音。

 ● 地上からBon voyage! / 広谷順子
セッション・シンガーとして大活躍した故・広谷順子(2020年没)は、元々アルファ・ミュージック制作のアルバム『その愛に』(79年/発売はポニーキャニオン)でデビューしている。この曲はサード・アルバム『ENOUGH』収録曲。松任谷正隆のアレンジは、この頃に得意としていたアーベインなAORスタイル。まだまだ歌って欲しかったのだが…。R.I.P.

● タバコロード20 / ブレッド&バター
ALFA代表作『LATE LATE SUMMER』には、ユーミン提供「あの頃のまま」やメロウな「Summer Blue」といった名曲がひしめくが、湘南をテーマにしたアルバムで、もっともブレバタらしい爽やかさを運んでくるのがコレ。アレンジは細野晴臣と鈴木茂。

● TAKE ME / 大野方栄
ALFA Recordから世界に飛び出したフュージョン・バンド:カシオペアの名曲に歌詞をつけて歌った、画期的なナンバー。大野さんは“CMソングの女王”として数百のCMやTV主題歌のヴォーカルを担当。83年にアルバム『MASAE A LA MODE』でソロ・デビューした。そうした実力と個性を兼ね備えているからこその、ナイス・カヴァー。

● 愛してると言って / 斎藤誠
最近は、大学の先輩である桑田佳祐のバンドや、サザンオールスターズのサポート・ギタリストとしてお馴染みであろう斎藤誠は、来年でソロ・デビュー40周年を迎える。コロムビアで3枚のアルバムを出した後 ALFAに移籍して4作。その最後の作が、このドライヴ・チューンを収めた『笑顔に御注意。』だった。気のいい、永遠の兄貴みたいな好漢ぶりが、音にも表れて。

● Mon Amour / 山本達彦
人気絶頂期の1枚『メディテラネ〜地中海』から。フィリップスから登場して東芝EMI在籍時に花開いた感があるが、実は初期作品はALFA MUSIC制作だった。スティーリー・ダン愛好家の顔を持つが、この曲はいわゆるオリジナル・サヴァンナ・バンド〜エルボウ・ボーンズ&ラケッティアーズの流れを汲むファンカラティーナ風の無国籍ビッグ・バンド・アレンジで。編曲は鷺巣詩郎。

● あとは LA LA LA / 麻上冬目
往年のロック・ファンには、トメ北川の名で知られるヒト。G.S.のザ・ハプニングス・フォーやトランザム、その後はソロ活動を行なっていたが、時節がら洒脱にイメージ・チェンジを狙ったのだろう。レゲエ・アレンジはドナルド・フェイゲンあたりのインスパイアか。プロデュースはミッキー・カーティス。アルバム『誘惑』は祈CD化。

● I CAN’T WAIT / 佐藤 博
現在の海外発信によるシティ・ポップ・ブーム襲来以前、ゼロ年代の国内クラブ・シーンでシティ・ポップ人気がジンワリ盛り上がりつつあった頃に再評価が進んだ故・佐藤博。その代表作『awakening』の人気曲のひとつ。デュエット・パートナー:ウェンディ・マシューズの透明感溢れる歌声と、シンプルながら普遍性を持った打ち込み手法が素晴らしい。

● 頰に夜の灯 / 吉田美奈子
名曲が多い吉田美奈子。今回はALFA Recordsからの4作目(通算9作目)『LIGHT’N UP』所収のこの豊潤なバラードでエピローグとしたい。その表現力は今も健在である。