ALFA+アルファ〜アルファ・インターナョナル

①ルル

Text:金澤寿和

 ここ何ヶ月か、アルファ・ミュージックが制作した外国人アーティストを立て続けにご紹介してきた。ベナード・アイグナー、ハーヴィー・メイソン、そして長きに渡ってお蔵入りし、先日ようやく日の目を浴びたリンダ・キャリエール。そのそもそもの前提は、創始者である村井邦彦が、日本から世界的ヒットを送り出したい、と望んだのが発端である。そのステップアップのプロセスとして、1978年にアメリカのレコード会社A&Mの日本販売権を獲得。ハーブ・アルパートやセルジオ・メンセス、カーペンターズ、クインシー・ジョーンズ、ザ・ポリスなどを日本に流通させるようになった(現在は世界的にユニバーサル傘下)。

 そして80年には、L.A.に現地法人アルファ・アメリカを設立。稼働したのは83年までと短い間だったが、カシオペアや横倉裕らのUS盤はここからリリースしている。更にそこを拠点に、数組の洋楽アーティストと契約を結んだ。今回はその中から、60年代から活躍していたベテラン・シンガー、ルルのアルバム『思い出のかけら』を紹介しよう。

ルル「思い出のかけら」(1981年)

 ルルは1948年、スコットランドのグラスゴー生まれ。まだ15歳だった1964年に、ルル&ザ・ラヴァーズとしてプロ・デビューし、アイズレー・ブラザーズのカヴァー「シャウト」を全英チャート7位のヒットにしている。そしてこれを機に一躍人気アイドルとなり、TVやラジオに引っ張りだこの存在に。66年にはバンドから独立してソロ活動をスタート。UKチャートの常連となった。67年に映画『いつも心に太陽を(To Sir, with Love)』に初出演。自らが歌った主題歌が全米1位を記録している。その後も英国で人気が高く、68〜75年は彼女自身のTV番組を持つなどして好評を維持。ビージーズの三男モーリス・ギブと結婚していた時期もある。

 その後も映画の人気シリーズ『007黄金銃を持つ男』のテーマを歌ったり、デヴィッド・ボウイの『世界を売った男 (The Man Who Sold the World)』をボウイ自身のプロデュースでカヴァーしたりと、いろいろ話題を振り撒いた。しかし70年代終盤は、再婚・出産でしばし活動をペースダウン。そこからの復活を期す中で、新生アルファ・アメリカと契約。ワールドワイドにリリースされたのが、81年作『思い出のかけら(原題:LULU)』だった。

 アルファ・アメリカ発といっても、ルル自身は英国在住。だからレコーディングもロンドンで行われ、エルトン・ジョンやクリフ・リチャードらを支えた現地トップ・セッション・ミュージシャンが多数バックアップに参加している。収録曲にはエルヴィス・プレスリーやローリング・ストーンズ、ボビー・ブランドらのカヴァーなどが選ばれ、とりわけシングルになった<思い出のかけら(I Could Never Miss You)>は全米18位を記録するヒットに。これは米国では<いつも心に太陽を>以来のビッグ・ヒットになった。後続シングル<熱いときめき (If I Were You)>は、テキサスのポップ・ロック・バンドであるトビー・ボーの80年のスマッシュ・ヒットを取り上げたもので、これも本人ヴァージョンを上回る全米44位にランクさせている。

 アルバムをプロデュースしたのは、「いつも心に太陽を」のソングライターであるマーク・ロンドン。ロンドンはルルが79年にエルトン・ジョン主宰のロケット・レコードからリリースした『あまくみないで (DON'T TAKE LOVE FOR GRANTED)』でもタイトル曲をプロデュースしていて。そして興味深いことに、その前作『あまくみないで』から、タイトル曲「Don't Take Love For Granted」を「ドント・テイク・ラブ」として、「I Could Never Miss You」を「思い出のかけら」として、更にもう1曲の都合3曲を本作に再収録している。この辺りの事情は、今となっては知る由もない。が、ロケット・レコードは80年頃を境にほとんど機能しなくなっており、主催者エルトン・ジョンだけが居残る形になっていたので、ロンドンが自作曲を含むお気に入り楽曲をアルファに持参してきたのかもしれない。

 そしてそれが好評を得たことから、ルル=ロンドンのコンビは、アルファでもう1枚、『愛は限りなく (TAKE ME TO YOUR HEART AGAIN)』を制作。日英豪で発売するも、米国ではリリースが叶わずに終わっている。内容は決して悪くなかっただけに、これは残念な結果であった。