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【広島商人】知られざる戦後復興の立役者(20)新しい糸口

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20 新しい糸口

 苦難は姿を変えて、またも私を襲ってきた。

 年度末の決算書を税務署に出しておいた関係で、私が東京への
陳情出張から帰ってくると間もなく、税務署から調査に見えた。
税務署のお役人は、熱心に帳簿その他を調べておったが、
やがて次のように言った。
 
 「帳簿にはさしたる欠点は見当たらないが、闇行為は現今じゃあね、
  どうしてもつき物です。だから当所からの申告書は承認できませんよ」
 
 「納得がゆくまで説明は致しますけん。
  この事業所は、不幸に見舞われた人たちが集って、そして罹災者用の
  ものを製作し配給しておる実情ですから、公認価格で販売しておる
  関係で、物品の出入はすべて統制ルートによっているんです。
  しっかり調べて、どうか申告をお認めください」
 
 「いろいろの情報を受けておる。
  税務署の方じゃあ何もかも判っておるんですけえ。
  帳面の方は、どうにも記帳ができるもんでしてね。
  あんたんところあ、うまいことをやって・・・・・・」
 
 「そりゃあ、違います」
 
 私はあわてて抗弁した。
 
 「新聞でもいうているじゃあないですか」
 
 「そいつあ違いますぞ」

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4,806字
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この文章は昭和31年11月に発行された「広島商人」(久保辰雄著)の冒頭です。(原文のまま、改行を適宜挿入) 広島は原爆が投下された約一か…

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