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旅に出よう。青春18切符と文庫本を携えて。(房総半島 3)

上総一ノ宮に着く。乗り換えまで一時間程度あった。次の駅まで歩いたらどれくらいかかるだろう。google mapで調べると徒歩で40分くらいかかるようだった。座りっぱなしだったこともあったので、少し歩きたい気分だった。僕は次の駅に向けて歩き始めた。

少し道を進むと歩道のない、細い道路の脇をあるかねばらななかった。車は少なくない。頻繁にすれ違ってゆく。僕は面白くなくなって駅に引き返した。散歩に適した道にはいくつかの条件がある。
1. 人通りが少ないこと。
2. 道が広いこと。
3. 信号が少ないこと。
4. 静かなこと

この道はこのうちの1しか満たしていなかった。

駅に引き返し電車を待つ。お腹が減ったのでカロリーメイトを食べた。腹が減っているときはなんでも美味しい。せっかく旅行に来たのだから、その土地のものを食べればいいのに、なんて言ってはいけない。それは正しい。でも食べなくてはいけないわけではない。僕もその土地のものを食べた方が良いとは思う。でもカロリーメイトを頬張る。なぜなら腹が減っているときはなんでも美味しいから。

木更津行きに乗る。これで房州半島をぐるっと一回りする。3時間の道のりだった。ホームに入ってきた電車の一番前のフラットシートに僕は乗った。ここからが一番楽しい区間だ。海に沿って電車は走ってゆく。

前におじさんが乗っている。電車に乗ることを目的としているかどうかは、僕くらいになると見ればわかる。態度でわかるのである。それが日常に過ぎない場合、人は何にも注意を払わない。それはありきたりな、繰り返された日常の瞬間に過ぎないから。だいたいスマホを眺めている。ところが旅行者は違う。窓に張り付き、景色を食い入るように眺める。そのおじさんもそうだった。張り付くのはいいが、あっちに行ったりこっちに行ったりして忙しない。リュックを座席に置いたまま、ホームに降りてみたりする。それをみていたら、僕までソワソワしてきた。おじさん越しに海を見るのはやめて、僕はおとなしく本を読むことにした。

途中でボックスシートが空いたので、僕は心の中でおじさんに別れを告げ、席を移動した。フラットシートからパノラマで景色を見るのも楽しいが、ボックスシートで窓に張り付いて景色を見るのも楽しい。僕は本を開いては閉じ、景色を眺め、本を開いては閉じを繰り返し、それに飽きたら寝た。

寝ている間に、車内が混んできた。まだ道のりは長い。もう少し寝よう。海を見るのにも飽きた。


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