花相の読書紀行№.79『正欲』
生き延びるために、手を組みませんか。
【正欲】/朝井リュウ
<あさすじと解説>
第19回 本屋大賞ノミネート!
【第34回柴田錬三郎賞受賞作】
あってはならない感情なんて、この世にない。
それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ。
息子が不登校になった検事・啓喜。
初めての恋に気づいた女子大生・八重子。
ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。
ある人物の事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり合う。
しかしその繋がりは、"多様性を尊重する時代"にとって、
ひどく不都合なものだった――。
「自分が想像できる"多様性"だけ礼賛して、秩序整えた気になって、
そりゃ気持ちいいよな」
これは共感を呼ぶ傑作か?
目を背けたくなる問題作か?
作家生活10周年記念作品・黒版。
あなたの想像力の外側を行く、気迫の書下ろし長篇。
★感想
この小説は性欲がテーマとなっていますが、隠れたキーワードは“繋がる”と言うことでしょう。
各章は、登場人物各々を主人公として設定しながら、文章の一部を“しりとり”のように繋げていく設定もまた面白かったです。
物語の入りは、ある人物のメッセージと小児性愛者の週刊誌の記事。
さて此処からどのように進めていくのか期待しながら読みました。
ポルノ映像を見るように“吹き出す水”に身も心も熱くなるという不思議な衝動には少し驚きましたが、何となく解るかも。
ストーリーにミステリの要素を含んで、終盤部分には意外な展開を見せてくれます。
“フェチ”と呼ばれるものが、私にもあります。
私は、男の人の大きな掌が好きです。
勿論、大きいだけではなく贅肉のない逞しい掌でなくてはいけません。
学生のころ、テレビに映る芸能人やミュージシャンの手ばかり観ていました。特にギターリストの手にはドキドキします。
お気に入りが見つかると、その手を観たくてチャンネルを合わせたり…。
人の数だけ人の嗜好が有るように性欲についても同様。
それを特殊と言ってしまえば、きっと誰でもそうなのでは無いのかと思ってしまいます。
特に肉体の一部や形に感じてしまう人が、性犯罪になるようなもので無ければ、それは異常でも何度もない事ととらえられます。
しかし、まったく違う対象物に欲情を抱いた場合、異常性癖とみられ、“変な奴”“気持ち悪い奴”、特別なものでも見るように陰口を叩かれる。
情報過多のネット社会において、誹謗中傷は当たり前のように蔓延していることを考えれば、その性衝動を表に出せぬまま、孤独に生きてしまう。その本人にとって生きずらい世の中となってしまうことが、“今”のように思うのです。
さて、登場人物の佳道と大也は決して小児性愛者では無い。にも関わらず、送られてきた画像を所持していたことで犯罪者となってしまう。
彼らは、釈明もできぬまま有罪となるのでしょうか?
生きるために“繋がり”を解きながら、一方でその“繋がり”の危険性も語っています。
SNSを使えば、本人が望む望まざるに関わらず、繋がっていれば勝手に動画や画像が送られてくる。
通常は、行為そのものは別に危険でも何でもなく受け入れていますが、その事を怖いと感じた作品でした。
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