絵描きとしてみるNFT界隈の問題と所感

はじめに

※この記事は、一個人のクリエイターが、ここ二ヶ月程度NFT界隈の方々と交流をし、そこで個人的に感じた問題点や、NFTクリエイターから聞いた話などを元に書いたものです。
私個人は暗号資産・Web3.0・世界情勢に疎く、またコレクターでも投資家でも、コンサルタントでもありません。個人の経験に基づくエッセイ程度のものとしてお読みください。

テレビやネット上でNFTというものがよく取り上げられるようになってからしばらく経ちました。現状の皆さんのNFTに対する印象は様々です。
暗号資産界隈内ですら、賛成派と反対派で意見はハッキリ分かれています。

では実際にNFTクリエイターとなった絵描きたちはどうでしょう。
プロたちの成功例はよく聞きます。でもプロから離れるほど失敗する人もいるのではないか?NFTで失敗した人がいるなら、どうして失敗したのか?

この記事では、「NFTクリエイターの苦悩」「NFTや界隈の問題点」といった部分を取り上げ、現状のNFTに手を出すべきか否かを考えていきます。

ちなみに、NFTとはを知らない人にめちゃくちゃざっくり言うと
「暗号通貨はブロックチェーンという、すべての情報が繋がった改竄が困難な台帳で売買の記録をとってるよ。」
「じゃあこの台帳に情報が刻まれるシステムを利用してデジタルアートの売買行ったら、そこに特別な価値が生まれたり面白いことができるのでは?」
みたいな概念で生まれたもので、よく言われる「唯一無二性」とかそういうのは、試行錯誤してる「面白いこと」のひとつみたいなものです。
詳しくは各自で調べてほしいのですが、一般によく言われるNFTアートの価値とはこの売買記録、つまり「レシート」と、それに付随する情報や歴史等の特別性によって決められます。

クリエイターの苦悩、NFTを始めて起こる問題

・フォロワーが(若干)減る

海外フォロワーは高確率で減ります。
外国人が元から多い絵描きからすればけっこう痛手になると思いますし、リムーブ際に「Sad…Goodbye」とか「NFT is scam」みたいなリプライが大量に送られる例も見受けられますので、気分的にあまりよろしくありません。

日本はそこまで過敏ではないかとは思いますが、それでもNFT関係のツイートが増えればフォローを外す人も多少はいるでしょう。
とはいえNFT用アカウントとかで分けておけば、こちらはそこまで問題じゃないかなとは思います。

・海外からの信用がかなり減る

海外ではずっとNFTの良し悪しで議論が続いており、それこそ日本以上に、反対派のNFTに対する忌避感は強いようです。
なので場合によってはフォロワーが減るだけでなく、「NFTやってる人はちょっとイメージ悪くて……」と海外からの依頼が減ったり、最悪、進めてる最中の依頼を取り下げられる可能性すらあります。
当然、NFT界隈の人からは依頼が来るかもしれないわけで、金銭的な面だけ見ればどちらが良いとも悪いとも言い難いのですが……。

・良い作品が売れるわけじゃない

NFTは投機……なんてよく言われますが、この”投機”は「このクリエイターは人気が出て売れるだろうから買っておこう!」みたいな生易しいもの(?)ばかりではありません。
「これだけ元から影響力ある人のNFTが高く売れれば界隈の新規参入者が増えて経済が潤ってアレコレの価値が上がる!」といったものも多いので、結局のところ、売り手か買い手、どちらかの影響力が高いものばかりが売れ、殆どのクリエイターは安値でチマチマ……ということが多いです。

小学生クリエイターの作品が、有名な人に買われた瞬間に大人気になった例があるほどです。売るために「知名度」と「運」の要素がどれだけ多いか、なんとなくわかるのではないかと思います。

・売れるために考えることが多い

「通貨はEthereumがいいかPolygonがいいか」
「イラスト単体じゃだめで、音楽や映像としてあったほうがいい」
「NFTで出すだけの理由が作品に必要」
「もっとコレクターをフォローして交流を」
「外国人ともコミュニケーションをとって」
「今後することはロードマップで発表して」

こうしたことを、ひたすら情報収集してマーケティングを考えなければなりませんし、その内容も発展途中のNFTでは目まぐるしく変化します。
この「マーケティングを考える」が楽しいと思えればいいのですが、これが苦痛で、絵を描く時間も減る……と苦しむクリエイターはかなりいました。

・最初に聞いた話と違う

そもそも日本でNFTをはじめたクリエイターの多くは、先行して成功したクリエイターの話から参入を決めた人が多いと思います。
その最たる例はさいとうなおきさんでしょう。彼はNFTで見事に成功し、NFTについて「全ての表現者が、自分らしく伸び伸びと表現できる世界」と語りました。

NFTは自分が作品を出品するものであり、たいていは企業から依頼されて描くものではありませんから、この発言は何も間違っていません。

しかし、「自分らしい表現で作品を売る」と言うならば、別に同人やSkeb、Boothといったものもそれには該当します。

ではNFTでやる意味は何かというと、それは「一枚の絵でも売れること」「海外の人の目に留まること」「資産家により高値で取引されること」といった部分があり、実際、多くのコレクターは「デジタル作品に唯一無二の価値がつく時代になった」「NFTの波が今来ている」「NFTバブルで作品を売るチャンス」とクリエイターを呼び込みます。

これを聞いていざNFTをはじめてみれば、今までここで書いてきたような様々な壁にぶち当たるわけです。
「自由な表現で売れると聞いたのに、気づけば絵を描く時間よりもマーケティングに頭を悩ませる時間が増えてるし、描いてる絵も自分が描きたい絵というよりは、外国人や投資家が気に入りそうな絵ばかりになっている……」

それに対して、また別の投資家やコンサルタント等の人々はこう言います。
「出せば売れる時代はもうとっくに過ぎた」
「売るためにマーケティングに時間を費やすのは当たり前、できない人よりできる人のほうが売れるという差が出るのは当然」
「既存のファン離れを気にしてアカウントを分けるのは中途半端、NFTをやる覚悟が足りていない」

当然、NFTを勧めた人とは別の人が言ってるわけですが、クリエイターにとっては誰に言われようが思うことは変わりません。
「最初に聞いた話と違う!」


このように、「自分らしい表現で作った作品に今まで以上の価値がつく理想郷」とは言い難いのが今のNFT界隈であり、大多数の人は、今までやってる以上の努力をしなければなりません。
当然、努力しただけの成果は帰ってくるのですが、最初にNFTに期待をしすぎてしまうと、そのギャップに苦しみ、自分の表現を見失ってしまう危険性があることに注意しておいたほうが良いかもしれません。

逆に言えば、最初に「NFTはそんな甘くないぞ」と知っておけば、NFTをはじめたときのギャップで苦しむことはないですし、自分でどういうスタンスにするかをちゃんと構えておけます。
別にNFTは大金で売れるためにやらなくとも良いわけですから、自分のメンタルを優先して楽しく活動できるようにしましょう。

NFTそのものの問題点

NFTは主にそれを利用している人達の治安の悪さとか、投資家に対するイメージの悪さによって印象が悪くなりがちですが、実際には、そもそものNFTについてもまだ不確定な部分が多いです。

これについては以下の内容に詳しいですが、文章量が4万字以上とかなり多いので、お時間のあるときにお読みください。

今ここで問題点について幾つか挙げるとするならば、以下のようなものがあります。

・NFTは永久じゃない

「NFTはブロックチェーンという暗号通貨の台帳に刻まれる」「これは分散型で管理されているのでサイバー攻撃に強く、消える心配がない」とよく言われ、これがあるからNFTは消えることのない特別な価値として存在できます。
しかし、そもそも暗号通貨の代表であるビットコイン自体、まだ生まれて十数年、NFTで使われるイーサリアムは5年と少ししか歴史がありません。
暗号通貨そのものが衰退し、ブロックチェーンそのものが消えてしまえば、当然永久であるはずのトークンは消滅してしまうでしょう。

・唯一性の曖昧さ

イラストそのものが唯一無二になるわけでないことはだいぶ周知されてきました。NFTはあくまでも売買記録であり、唯一性を証明するものでも、下手したら作者を証明するものですらありません。
(トークンの発行者であることと、作品の作者であることは結びつかず、ブロックチェーンが調べられるのは発行者が誰かという部分だけ)
「たとえNFTがこの世に一つの記録でも、画像を転載して海賊版を量産できる事実はNFT外の市場と変わらない」ということは、言われ尽くされている言葉ではありますが、それほど重要で、よく考えねばならない部分です。

・NFT所有者は別にアートでどうこう出来ない

NFTは所有権を売買する……みたいな誤解も最近は解かれつつあります。
NFTを買ったからといって別に法的に所有権が移るわけじゃないですし、そこにあるのは「売買の取引記録」という、レシートのようなものです。
当然、何の権利も譲渡してないので、たとえ買ってもSNSアイコンに使用することすら著作権的には出来ません。
(NFTクリエイターの多くは、NFT所有者のアイコン使用に寛容なので、多くの人はアイコンにしてますし、それで問題が起きた例は聞きませんが。)

上に挙げた問題点のほかにも
「分散型だから安心と言われてるIPFSデータへのリンクが記載されてるメタデータも、理論上はDNSハイジャックされてリンクを書き換えられてしまうみたいなことはできるんじゃないか?」
みたいなことが言われていますが、これに関しては上記記事でその具体的な詳細が書いておらず、またIPFSやDNSハイジャックについてざっくり調べただけだと全然知識が足りず、否定も肯定もできませんでした……。
もし詳しい方がおられたら教えていただけると助かります。

このように、「唯一無二性があり、セキュリティに強く、永久的に残るNFT」と喧伝されていたものが、実はそこまで唯一無二でも永久に残るわけでもなく、衰退すればセキュリティ的にも脆いのではないか……?
という意見があり、現状はこれらの議論が有耶無耶のまま、NFTが活性化し続けてしまっているという状態のようです。


NFT界隈それぞれの立場

それではNFTそのものではなく、それを利用する人たちはどうでしょうか。
日本におけるNFTに対する印象は、少なくともまだ良くはないでしょう。
界隈にいる内側からしてみればNFTは「未来ある経済的な土壌」ですが、界隈の外側からしてみれば「投資家だらけの怪しい場所」です。
そして、界隈を知ったうえで反対する人達にとっては「ネット犯罪者と環境破壊者の温床」とまで思っているかもしれません。

反対派から見て

これまでにも言ってきたように、NFTにはそれ自体の問題点が数多くあり、また詐欺や無断転載など、犯罪的な行為がかなり多い状態でもあります。
当然、反対派はNFTの問題点をしっかりと解決してほしいわけですが、その意図とは裏腹に、一部の投資家やメディアはNFTを素晴らしい場所であると広め、日本のクリエイターが続々と参入してしまい、NFTの議論が有耶無耶のままどんどん界隈が活発化してしまいます。

当然、反対派はそれを止めたいわけですが、反対派でも正しくNFTの実情を把握できている人は少なく、また言語の壁があることも分かっているので、「NFTは詐欺(ねずみ講)」「NFTは環境破壊」と簡略的に伝えがちです。
また、日本人や、日本語ができる反対派の人々はよく「NFTアートには手を出すな!」の記事を貼りますが、多くはこの記事を貼る"だけ"で、やはりNFTの批判には説明不足ですし、この記事には反駁の記事も出ているので、傍から見ればどちらが正解か判断するのが難しいです。

結果、「何が」の部分が抜けてしまい、反対派の言葉のほうが大雑把で過激な、感情的な文章に見えてしまうので、賛成派の意見のほうが理性的に感じ取れてしまいます。

賛成派から見て

反対派が「NFTはまず問題を解決してから、界隈を発展させるか判断すべき」と考える一方で、賛成派は逆に「問題よりもまず市場を活性化させ、一般に浸透すれば自然と問題点を解決するだけの人材も資金も出てくる」というような動きに進んでいます。

例えば、ClibNFT CEOのジェイソン・ベイリー氏は、現状のNFTマーケットが発行するNFTデータの多くが、そのマーケットのサーバーに依存している問題について、以下のように語っています。
(誤字がありおかしな文章になっているが、調べた限りサイト等に正誤表がなかったため原文ママ)

(中略)これはマーケットプレイスが廃業して、サーバーが無くなった場合、データも一緒に消えてしまうことを意味します。この問題は非常に深刻ですが、いまのブームに水を差すので、誰も議論したΩ誰かが取り組まないといけない問題なので、今後5年ぐらいをこの課題に捧げるつもりで、最近「ClubNFT」という会社を立ち上げたところです。

『美術手帖2021年12月号 「NFTアート」ってなんなんだ?!』より引用

("誰も議論したΩ"のところは、「誰も議論したがりませんが、誰かが~」みたいな感じだと思います。)

「NFTクリエイターの苦悩」や「NFTそのものの問題点」などで語ったように、NFTは宣伝されているイメージと実情とで大きなギャップがあります。
とはいえ、NFTを活性化させたい側からしてみれば、わざわざ「NFTには問題が多くあり、解決されるまで触れるべきでない」とも言えません。

結果的に、「NFTはアートに価値がつくわけではない」「所有権が移るわけではない」ということを念押ししつつ、「NFTで成功した例がある、今NFTのコミュニティで連携すれば誰もが成功するチャンスをつかめる」「NFTは今後必ず一般化する、今先行してやることが有利になる」と、メリットを喧伝する方向に進んでいます。
しかし、結局成功する人はほんの一部ですし、将来の話も不確定すぎます。

外側から見て

前提として、ある程度ネットリテラシーがある人にとって、そもそも「投資家」「資産運用」「オンラインサロン」というような情報商材的な要素が絡んでくる界隈は、それだけで警戒対象となります。
儲け話が出てきたとき、尤も儲けるのはその話を持ってきた人であることは、例え詐欺じゃなかったとしても変わりません。
(でなければ、儲け話を他所に話すメリットがないので)

そして何より、「反対派」すらもNFTに対する忌避感の要因になります。
誰だって、バチバチに争っている場所に足を踏み入れたくはないでしょう。
(そういう意味では、NFTを始めた人に大量の反発リプを送る外国人の活動は、NFTクリエイターの抑制にいくらか効果が出てるでしょう。)

↑メチャクチャに批判されてる例

このような現状、コミュニティ内で独自の文化や交流が形成されるNFT賛成派は、一種宗教的集団に見えてしまい、逆にNFTに対して過剰に批判を行う反対派のひとたちも、過激的な団体のように見えてしまうのです。

逆に、クリエイターがNFTに手を出す要因は何があるのでしょうか。
一番大きいのはやはり「成功例」でしょう。
好きなクリエイターや有名なクリエイターが成功したとき……これらはただ「成功した人がいる」だけでなく、「私が知っている人・職業が成功した」という、一種の信用が生まれます。
「経験豊富であろうこの人が参加したなら」と、界隈に対する警戒心が減るでしょう……しかし、それはあくまで「成功体験」です。
多くの、(特に元からトップクリエイターでなかった人による)失敗体験は表に上がりません。発言したとしても拡散されにくいですし、またそもそも本人がまだ頑張っている最中だからです。

また、大手企業にもNFTを積極的に検討しているところがあります。
先ほどのUbisoftのように反感を買うことも多いのですが、クリエイター界隈であればAdobe、ゲーム界隈であればスクウェア・エニックス、ファッション界隈であればNikeというように、意外にも大手企業は積極的にNFT事業への参入を進めています。

当然大企業がやるなら安心だろう……とは言えないにしても、大企業なりに検討や議論を進めたうえでの展開ではあるはずなので、こういったニュースが目に入れば「NFT自体は案外良いものなのか……?」と感じる人も多いかもしれません。

NFT界隈の問題点

・環境問題

いわゆる「NFTが活発になる→暗号資産取引が増える→マイニング需要が高まる→消費電力が増える→CO2の増加につながる」という流れです。
これは日本人的にはあまりピンとこないというか、正直環境問題よりも絵で食っていくお金のほうが大切だという人も多いのではないかと思います。
しかし、海外ではNFTの問題と言えばまず環境破壊が上がるくらい、重要な問題のようです。
とはいえ「世の中のマイニングでどれだけ実際に電力が消費されてるか」の見積もり自体が各所でバラバラで、実情はイマイチつかめていません。
ここらへんは結局、個々がどれくらい環境問題について意識してるかの差が大きく、どんなに否定派がここを起点に訴えたところで、それで止めるような人はそもそもNFTに手を出そうとしないでしょう。

ところで、クリエイターはじめ日本における暗号資産に対する嫌悪感で言うならば、環境問題よりもむしろ「マイニング」そのものに対するネガティブイメージが大きいのではないかという意見もあります。
マイニングのために多くの高性能なグラフィックボードが買い占められて、これらが高騰してしまったことで、高性能なパソコンを手にすることが難しくなっているためです。
もしあなたがNFT反対派で日本人の参入をやめさせたいなら、環境問題を言うよりも「NFTが活性化してマイニング需要が増えればもっとグラボが高くなるぞ!」と言ったほうが効果的かもしれませんね。

・詐欺

「NFTは詐欺」と一言で言っても、何が詐欺なのかは様々です。

・「~払えば~してあげる」という典型的な詐欺を行う人がいる
・クリエイターに安価で絵を描かせ、それを高値で売る人がいる
・NFTの構造自体が詐欺的である
・ロイヤリティのシステムがねずみ講である
・クリエイターへの謳い文句は投資家の金稼ぎのための嘘である

このように、「NFTと詐欺」という関係ひとつとっても、無数の問題があるため、これらを解決しなければ治安が良くならない一方、詐欺を批判する側はこれらの問題をひとまとめにしてしまって議論が混乱しがちです。

例えば「NFTはねずみ講」という言葉ひとつでも、誤解や混乱があります。
まずロイヤリティのシステムとは、OpenSeaやFoundationにおける「NFTが転売されるたび、クリエイターに転売価格の数%がロイヤリティとして振り込まれる」というものです。
批判されるなかには、この部分がねずみ講に近いと指摘する人もいます。
しかしこれはねずみ講というよりは、ロイヤリティの文字通り、印税システムに近いものでしょう。

ではNFTにねずみ講が無いかというと、そういうわけでもありません。
ロイヤリティ含め、NFTの金銭システムはスマートコントラクトという、取引時に実行するプログラムのようなもので組まれているのですが、これはクリエイター側(NFT発行者)が独自に組むこともできます。
つまり、悪意ある人は文字通りのねずみ講システムを組んだNFTによって、詐欺的なビジネスをやることも可能なわけです。

こうした「必ずしもそうではないが、悪用自体はできる」という例が無数にあるのがNFTで、「詐欺」はその代表的なものです。
「マネーロンダリング」なんかも、そうした「悪用できてしまう」ものであり、NFTをやったからといって自分が知らぬ間にそうした悪事に該当してしまうものでもありませんが、その「やりやすさ」が詐欺・犯罪者の多さに繋がっていることは確かです。
無断転載が横行してるのも「それで金稼ぎができるから」であり、ゲーセンプライズ品やグッズ制作通販サイトでも似た事例は多くあります。
あなたがNFTをやっていようがやっていまいが、これらは起こるのです。

NFT一般化の壁

NFTのはじめ難さ

NFTで精力的に活動する投資家や事業家の多くは、「NFTは近い将来一般化し、当たり前のものになる」と語ります。

しかし、既に話したように、NFTが浸透してそうな海外ですら反対派が多く、2021年時点で暗号資産利用者が多いロシア等の国でも、人口比で言えばおよそ10%前後。殆どのヨーロッパ諸国は5%以下です。

そして日本は未だ1.6%ほどしか暗号資産に手を出していません。
日本でも電子書籍・音楽ストリーミングサービス・電子マネーといった電子化は進んではおりますが、未だ現金・現物が基本です。
クレジットカードですら時折個人情報流出などが問題になっているわけですから、暗号資産に対する警戒心はより一層強いものでしょう。

そもそもNFTは、スタートまでに多くの手順が必要になります。
・暗号資産取引所・交換所に口座を作る
・ウォレットを登録。シードフレーズは絶対に他人に知られてはいけない
・日本円を銀行口座等から取引所に入金
・入金した日本円で暗号資産を購入
・購入した暗号資産をウォレットに送金
……と、かなり面倒です。
さらに、EthereumをPolygonにブリッジするとかまで考えるとさらに手間が増えてくるので、よほど興味が無ければなかなか手が出ないと思います。

日本でNFTを浸透させるなら、クレカやPaypal、コンビニ支払い、電子マネーと連携させて支払いを簡略化することが必須になるでしょう。
(実際、そうした支払いができるようなシステムを考えている方々も現れはじめています。)

Web3.0の難解さ

何より、NFTはじめ暗号資産界隈らが掲げるWeb3.0の「分散型」という概念がまず一般向けな解説やサービスとして浸透していません。

実際、「そもそもなんでNFTというただの取引情報に価値がつくの?」という部分からして、この「分散型(=非中央集権型)」が関わっている部分もあるので、「分散型の理屈を学び、知り、理解し、共感する」という過程が必要です。
ちなみに、NFTにおける価値と分散型の関係性は、ねこますさんによる以下の記事が分かりやすいかと思います。
(難しそうな文字が出て目が泳ぐという人もいるかと思いますが、少なくともここまでこの記事を読める方ならゆっくり読めば分かるはずです。)

実際"「NFTによってデジタルアートに唯一無二の価値を」という謳い文句は暗号資産界隈が言うWeb3.0における「非中央集権的」に対して二律背反的になっているのでは"と考えている人もいます。

すなわち、「なんで分散や共有の新時代を目指してるのに、デジタル以前の"唯一の本物の価値"みたいな概念を復活させてるの?」という矛盾です。
Web3.0とは、それを語る人たちの中でもまだ"それが何か"を考え合っている最中で、全然まとまっていないまま進んでいるのです。

こうした現在の状況をみて、本当に「もうすぐNFTは一般に浸透し、当たり前のものとなる」と言えるのでしょうか。

当然、Nikeやスクエニなどの大手企業がNFT事業に参入したり、TwitterなどがNFTをアイコンに表示する機能を検討してるみたいな噂もあるくらいですから、案外本当に数年のうちに当たり前になる可能性も否定派できません。

ただ、資産家たちが自信をもって「もうすぐ」と語るのは、むしろそう言うことでNFTの浸透を加速させるためなのではないかと思います。
実際のところ、NFTが世間に浸透するのは数年か、数十年か、数百年か、あるいは浸透せずに滅びるのか……誰にも分かりはしないでしょう。

今NFTをやる意味はあるのか

まずNFTを特別なものと考えない

NFTはまだまだ問題が山積みで、それに対する議論も改善案も曖昧です。
そんななかNFTをはじめるとするならば、「もしもNFTで謳われていることが間違いだったら」を想定する必要があります。

もしNFTアートが唯一無二でもなく永久でもなく、バブルでもなく高値で売れるわけでもなく、環境問題に影響もあって詐欺だらけだったら?

こう考えたとき、NFTをやる価値はあるのでしょうか。
私は、まだやる価値は残っているとは思います。
その価値は大きくふたつ、
「誰でも閲覧できる一枚絵や動画でも売れること」
「海外の人たちに見てもらえること」

です。

「最初に聞いた話と違う」の部分でも少し言いましたが、前からクリエイターが自由に作品を売れる環境は既にあります。
しかしそれはグッズなど物理的な制作費がかかるか、あるいは同人誌など、表紙と別に中身があり、金を払わないと見れないものがあるものが殆どで、既存の価値観では、絵を一枚商品ページに貼っただけのもので買ってくれることは稀でしょう。
しかし、NFTではそれができます。

重要なのは、これを「コレクターたちの投機」で終わらせないことです。
日本のNFT界隈では、クリエイターが別の好きなクリエイターを応援する目的でNFTを買ったり、またファンの人が買ったりします。
これはBoothなどの自家通販サイト、Skebなどのコミッションサイト、そしてpixivFANBOXなどのパトロンサイトと共通する、「ファンが応援し、クリエイターがファンを認知、コンテンツを提供する」というシンプルな利益の相互関係です。
もちろん、一枚の絵に数百万出してくれる人はそう居ないでしょうが、残念ながらそれは元からそうです。
資産家の少ない日本で勝負するよりは、純粋にファンと交流する活動としてNFTを始めたほうがストレスなく楽しむことができるでしょう。

他方、「海外の人たちに見てもらえる」という部分は、もとのNFTをやる理由からそこまで脱線しない考え方です。
当然、TwitterやPixivでも多くの外国人はいるのですが、もっと規模を増やしたい・所謂animeオタク意外にも知ってほしい・もっといろんな人に見てもらいたい……そう思ったなら、NFT界隈ほど良い環境はそう無いでしょう。
そこにいる多くの人は、私達が普段いる場所とはあまりにもかけ離れた生活をしている人々です。価値観も時間の使い方も、何もかもが違います。

ただし、「海外からの信用がかなり減る」で言ったように、NFTに反発してる人には逆効果であることも忘れないようにしてください。
特に世界的にいろんな人と仕事をしたい場合、世界人口の数%しかいない暗号資産保有者相手にチャンスを急ぐ必要はないかもしれません。
投資家は「今やらないと乗り遅れる、稼ぐことはできない」と言い続けるかもしれませんが、ご安心ください。
多くの人はいつやっても投資家が言うほど稼ぐことはできません。
それならば、本当にNFTが一般化するまで待っても問題ないと思います。

もしNFTに手を出すなら

今回の記事は殆どネガティブな内容を語りました。
しかしこれはNFTを真っ向から否定しているわけでなく、始める前にNFTや界隈がどういう場所かをしっかり知っておく必要があると思ったからです。

投資家や事業家、コレクターといった人を悪者のように表現することが多々ありましたが、実際のところ、暗号資産界隈に精通しているひとたちが彼らであることも確かです。

もしも今からNFTを始めるのなら、彼らと交流し、コミュニティに参加することを警戒しすぎず、クリエイターとコレクターが共存してる場所を見つけると安心できると思います。
実際、怪しいメールだとか詐欺か分からないメッセージなどがあったとき、相談する相手は多いほうが良いです。

そのうえでしっかり情報を見極め……もし見極めるのが難しければとにかく「急かす」ような情報には無理に飛び込まず、自分に本当に必要な情報だけを考えておくようにしていきましょう。

この記事を読んで「今はまだNFTは手を出すべきでないな」「把握できたからやってみよう」「こんなガタガタな場所はこの先も触れないほうが良い」どう感じるかは人それぞれだと思いますが、そう思ったままにNFTを捉えて問題ないと思います。

記事を読んでくれてありがとうございました。 よろしければご支援いただけると励みになります。