「うつくしくて難しくておもしろい」(2023年9月20日の日記)
・短歌。最近はうつくしいものについて考えることが多くなっている。ジャズはうつくしい。うつくしいものは難しい。短歌も難しい。難しいとおもしろい。数学も美しい。難しくておもしろい。
・青松輝の歌集『4』を購入した。読んですぐに感じたが、これは、すごい。ほとんど魔法だと言っていい。これは、僕がまだ“しかけ”について理解していないからそう感じるのであって、青松輝本人にとっては欠伸が出るほど退屈なものに感じられるかもしれないけれど。
・まだよく分かっていないから、頑張って言葉にするけど、要するに緩急なんじゃないかと思う。柔らかくゆったりとしていて安定している部分と、猛スピードで駆け降りて「飛距離」の出る単語を組み合わせて刺激を与える部分を、しっかり作り分けている。
・「性行為を縁起しているきみの世界」の部分では「きみ」の周りのどろっとしていて淡い、退屈で倦怠感の伴う日常をゆっくりとなぞり、「世界にあるすべてのペプシ缶」で一気に地球全体へギュイ〜〜ッとズームアウトする。ペプシ缶という言葉の響きも、これらの缶が同時に爆発したかのような爽快感を後味に残す。
・「選ぶのを泣きながら待ってくれていた」においても、「待って」いるわけだから時間はゆっくり流れている。泣きながら、選ばれないかもしれないと思いながら、無限にも感じられる時の流れを味わう。そんな相手がまさか「マイ・フェイバリット・アイスクリーム・フレイバー」だったのだから、ここで驚きが生まれる。すべてカタカナであることで、滑り降りるような勢いが生まれている。
・いい短歌のいい部分を見つめるためには、改悪するといいと思う。例えば、2つめの短歌が「会えるのを泣きながら待ってくれていた 僕のひとりだけの恋人」なんかだったらどうだろう。つまらないね。恋人というからには一人なのは普通だし、泣きながら待ってくれている対象が人間なのもガッカリだ。勢いもない。
・青松輝は、ゆるりとした色気と突き刺すような鋭い表現を巧みに使い分けるところが魅力だと思う。褒めるための形容詞はたくさんあるけれど、「クール」という感じが似合う。
・青松輝には短歌を続けてほしい。僕が、もっとたくさん、いい気分になりたいから。
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