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マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の事例紹介

前回の記事では、化学業界で話題になっているマテリアルズインフォマティクス(MI)の概要を簡単に解説しました。

ざっくり説明すると、「AIやビッグデータの技術を利用して、材料開発を効率化させる」といったものです。
今回は、そのMIに取り組む企業や団体の具体的事例を、海外も含めてご紹介します。

MIの事例:日本の大学・独立行政法人

まず、材料関係で有力な独立行政法人である国立研究開発法人、物質・材料研究機構(NIMS)は、愛媛大学と連携して、超電導物質の新規物質発見を達成しました。
莫大な材料候補から選定を行う超電導の分野において、MIは非常に相性が良かったと言えます。

また、東北大学はNECと連携してスピン熱電材料の熱電性能向上の実証に成功しました。

逆に情報工学寄りの機関では、情報・システム研究機構の統計数理研究所(ISM)が大手化学メーカーの三菱ケミカルグループと連携しています。

MIに取り組む企業

昨今の化学業界では、マテリアルズインフォマティクス(MI)に注目して積極的に取り組む企業が増えています。
一方で、それらの化学メーカー単独でMIを活用して成果を出す事例はほとんどありません。そのため、現実的にはIT分野に強いメーカーがMIの導入をサポートするケースが増えています。

現在、MIの導入企業のメインプレーヤーはNEC、日立、富士通の3社です。

また、パナソニックもMI導入事業を始めており、自社内でも全固体電池の開発に活用しています。

ベンチャー企業ですと、MI-6株式会社があります(多分、他はないと思います)。

また、ここには挙げていませんが、多くの化学メーカーがMIに力を入れる、関連部門を社内に設置する、などの様々なプレスリリースを発表しています。しかしながら、実際に成果に結びついた事例はほとんどありません。
これは、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む意思はあるものの、実現するための社内リソースが不足している現状の課題を表しています。

MIの事例:海外

海外、特にアメリカでは2000年代には既にMIに取り組んでおり、日本よりも進んでいます。オバマ政権時には国家レベルでMIに注力する動きがとられていました。
早い段階で取り組んでいた機関としては、米国国立標準技術研究所(NIST)が有名です。

そういった意味では、アメリカではマテリアルズインフォマティクス単独で注目を浴びることは既になくなっており、他のデジタル・トランスフォーメーションの関連技術と併せて取り組まれています。

従って、欧州含め、海外でのMIでの成功事例はあまり表に出ていないのが現状です(大手企業ではMIを使うことが当たり前すぎて、わざわざアピールするものでもない、といったところでしょうか)。

一応、ドイツのメーカーであるBASFについては、触媒開発にMIを活用します、といったプレスリリースがあったのでご紹介します。

ここでBASF社が利用しているCitrine Informaticsというプラットフォームは昭和電工やAGCなどの日本企業も利用しているようです。

まとめ

いかがでしたでしょうか?
これはどのIT技術にも言えることですが、MIは課題を解決する「手段」に過ぎず、あまりMIだけにこだわりすぎないことが大事なのかなと思います。
材料開発でどんな課題があるのか、それを解決するにはどんな手段があるのか、を広い知識や視野を持った上で検討し、費用対効果で適切な解決手段を選択することが今後さらに求められるようになるでしょう。

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