『ま』の使い方  

何事も距離感って大事よね
見誤る事って超怖いよね


お互い距離を詰められず、膠着状態。落ちて舞う葉に気をとられ、刹那に僅かな隙ありと、渾身で穿つ槍使い。思考の先に本能ありて、かわしたその間は紙一重、踏み込み懐に潜り込めば、いざ抜刀の太刀使い。空に獲物を検知の目あり、高台より二兎、追う利を得たり、ここに在るのは悟らせぬ、時は満ちたと弓使い。


いつもは意図的に秘密にしている、私の素性の話をしよう。高層ビルのエレベーターを上昇させながら、ある人物との面談に向かっている。役員フロアのさらに上層、フロアのすべてが彼のための設備である。開いたエレベーターの扉から足を踏み出し歩いてゆくと、重厚感ただよう大きな扉が構え立つ。それを眼前に立ち止まり、一呼吸置くと、静かに扉は開かれた。すると、威厳の染みついた、どこまでも行き届きそうな、領域を支配せんとばかりに響き渡る、その声が、私の鼓膜にも明確にその存在感を示した。

「よく来たね」

そこには巨大なスクリーン、多くのトレーニング器具、サンドバッグ、世界中の嗜好品が集められたラック、あらゆる分野を網羅する、何冊もの本が並ぶシェルフ、希少価値のともなう、多様な美術品を飾るキャビネット、仮眠用の寝具等が、ある種の規則性を維持したまま常置されており、複雑な区画整理を役目とする可動式のウォールはすべて収納されたまま空間の奥行きを際立たせていた。大いに広がるその空間の最奥の椅子に座る人物を、巨大な一文字をモチーフとしたシンボルマークが背後から見下ろしている。私は扉を背にしたまま動線をまっすぐ歩き、そこに近づいていった。

「久しぶりだねアルチ君」

昨日、たこ焼き屋の行列に並ぶ姿を見かけた事には触れないでおいた。

「君を呼んだのは他でもない。我らの牙城を崩すまいとサンシャが躍起になっておるようだ」

サンシャとは私の所属する組織と同じ業界に君臨する四大企業のその他を、彼はそう呼んでいた。その業績のトップの座は一度たりとも譲った事はない。彼は私のボス、つまり、この組織の社長である。

「その動向は私の望まぬ方向へと事が進んでいる」

渡された一枚の書類に書かれた内容に目を通して、意思を伝えると、私はそこに自筆のサインを加え、その場を後にした。

「頼んだぞアルチ君」


的を得ぬ矢は、その手の中に。禍々しい紫色の煙が、その領域を支配した。それは私だけに見える景色。距離と距離とに間を見つけたり、時と時とに間を見つけたり、問うて意志なる心技を磨き、鬼気、誇るなら、その間を掴め。有る物として魔を築けたり、在る者として魔と気付けたり、酔うて機知なる真理を抱き、生き残るなら、この魔を使え。ここでは私が掟のすべて。身動きとれず静かに天を仰ぐ三人の手練れ、手には刃、目には涙。我が詠唱の最中での、深い眠りの彼方へと……

幻覚魔法『白昼夢』

小鳥のさえずりに目覚めると、三人は自宅のベッドに仰向けでいた。身にはパジャマ、目には文字が。今にもしたたり落ちてきそうな天井の禍々しい真紅の書体、その掲示の既読を確認した後、私は静かに『全知の目』を閉じ、帰還するかのごとく、この目をゆっくりと開いた。任務完了の一報を自らの足で入れようか。

「アルチよ、どこへゆく?」

自主的に集まった幹部たちのその一人の言葉には隠しきれぬ嫉妬心が宿っているように思えた。それでも私は誉められたいのだ。彼女におどけた表情だけ見せて、私は最上階のフロアへと向かった。役員フロアでは複数のネコ科らしき猛獣が絨毯の上でじゃれあっている。度を越えて血を流すような戯れ事は、君たちのアルジが許さないだろう。

『みんな仲良く!』

日常と非日常とのその間には、均衡を保つ者の暗躍がある。白となく白に、黒となく黒に、誰かがそれに気づかぬように、義を見て策を講じよう。誰かがそこに至らぬように、機を見て柵を設けよう。もしもソナタが望むのならば、その先の或るモノを教えよう。深い闇夜の中でこそ、際立つモノの正体を。全てのまやかしを見極めんと、価値ある壺を与えよう。今ならお安くしとくから。迷えるカモ……いや子羊よ、光の儀式へ誘おう。そこで対価を差し出したまえ。信じる者は救われる。洗礼とともにいざ


真に受けん



            

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