IN THE RED〈後編〉

バス停を通り過ぎ、交通量の多い広い道路までしばらく歩き続け、タクシーをつかまえて乗り込むと、運転手に自宅の住所を告げ、私は後部座席に深くもたれかかった。料金メーターの数字をゆるやかに上昇させながら、目的地までの最短経路をたどる車の中で、割に合わないことばかりと自分以外の誰かへの皮肉な言葉が思いついては止まらなかった。そしてタクシーは黄色信号でも止まらなかった。まさに時は金なりである。

ダイジョばないからといって、人に対して過度に嫌悪感を抱くかといえば、そうとは限らない。だからといって何ものをも共有できるかといえば、そうでもない。適度な距離感を保ちつつも友好、平穏であり続けるための道筋にも数多の経路が存在し、人の信頼度には分野と段階が存在する。敬意を払うべきは払い、感謝すべきは感謝する。人生に関わる事物、えてして皮肉と軽蔑は別物である。カレーは食べ物である。それは味わい、噛みしめるべき種の物である。

……注意……禁止……厳禁、廃車、窓の外を流れては、他よりも際立つ同種の存在感を放つそれらが、私の視界をかすめた後、浪費させた何ものかのように残らず消えていった。支払いを済ませてタクシーのドアから踏み出すと、私は待ち合わせ場所であった電柱の前に戻っていた。溜め息を吐いた先には張り紙があり、そこには警戒心を煽るように、不審者に注意と書かれてあった。私はそれを知っている。筆を選ばぬ者だとしても、その時々で好まぬ色ならあるだろう。くだらないことばかり着目させられては、どうでもいいことばかり思いつかされる。昇りゆく太陽の下で、あらゆる世界線に落ちてゆく影……その時、私は思い出した。賞味期限の過ぎた冷凍庫の中の食材と、その下の空っぽの冷蔵庫の存在を。私は自宅に背を向け、この飢えを満たす何かを求めて、また歩き出した。まだ午前だが、酒でも飲みたい気分だ。現実と理想の幸福度は比例しない。まごうことなき


赤字である

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