ワクチンの副反応は強い方がいいのだろうか?
「これからですか?」
出勤すると事務長につかまった。なぜかにやにやしていた。前回のワクチン接種の時に、私がふらふらになったことを覚えているに違いない。私はもう半年前のことなので忘れかけていたのに。
「もう3回目のワクチン受けたんですよね。副反応どうでした?」
事務部長は先週3回目のワクチン接種を終わらせていた。
「とってもしんどかったです。1日休みをもらいました。きっとしんどいですよ」
ワクチン接種の会場は隣の病院の会議室だった。そこにはすでに行列ができていた検温とアルコール消毒をした。
「最近体調不良とかないですよね。いつも自転車通勤で元気そうですし」と医師の診察は一瞬で終わり、すぐ横に置いてある席に坐ると、看護師が左腕に筋肉内注射をしてくれた。すこしも痛くはなかった。ちょうど9時だった。
「15分間こちらで問題ないか待ってください」そう言われて並んだ椅子の一つに坐った。そこにはタイマーが置いてあり、タイマーに触ると、自動的に目盛りが動き始めた。振動を加えるだけで15分タイマーが動き出すタイプのようだ。
暇つぶしに持ってきていた料理雑誌の挽肉の特集を見ていると15分は直ぐだった。席を立ち、再びタイマーを椅子の上におくと、タイマーは自動的に15分を表示して静止した。きっとワクチン接種のためだけに開発されたタイマーだろう。
職場である老人保健施設に戻ると、すでにワクチンを打った数人から「副反応が出るのはこれからですよ」と言いたげな目つきでこちらを見た。
どうしてみんな、副反応が強いことが「良いこと」なんだろう。たしかにそっちの方が効果が強いような気がするから「良いこと」なんだろうけど、本当だろうか。
さっそく調べてみると、どうやらファイザー社のワクチンに限って言えば、副反応の強さと、抗体価の上がり方は無関係らしい。むしろ関係があるのは、すでにある抗体価らしい。
ということは、既に免疫がある程度ある人にワクチンを打つと、苦しむ可能性が高いということ? それって打たれ損?ということにはなるまいか。
その日は通常の業務をしていると夕方ぐらいからすこし体がフワフワした感じになってきた。
「先生、お顔、赤いですよ」
「朝から飲んだからね」
と言ってみたが、ワクチンのバイアルは1.8ミリリットルの生理食塩水で溶解するだけなので、アルコールはまったく入っていない。
その日の仕事はふらつきながらも終えた。明日も新規の利用者が来るからから、絶対出勤してくださいね、と念を押されて帰った。
家に帰ると左腕が少し痛かったが、軽い食事をつくって、お酒はやめて風呂に入って出た20時頃から、体がとてもだるくなり、横になった。しばらく本を読みながら寝るつもりだった。
その夜は眠ろうとしたが、体が痛くて眠れない、というのが何度も繰り返された。
副反応ってこんなにつらかったっけ?身の置き所がない痛みで苦しめられた。
それでも夜の3,4時には体力の限界だったのだろうか、6時のいつもの目覚ましに起こされた。朝起きると今度は頭痛がひどくなってきた。
なんとか出勤して、回診、新規入所の方々への説明を終わらせて、もう一つ、オンラインの会議をひとつ済ませた。しかし頭痛はひどくなるばかりで、改善する感じもなかった。
「ごめん、今日は帰る」
家についたら着替える気力を振り絞ってなんとかスウェットに着替えた。寒気が止まらないので、コートを着て、ソファーに横になってそのままダウン。しばらくそこでじっとしていた。
夕食も食べられなかったので栄養ゼリーで補給した。
夜になって2階のベッドに行って寝た。今度は汗でぐっしょりスウェットが濡れてしまった。着替えるときの左腕が痛かった。
夜中に何度も目を覚ましたが、朝起きてみると、体の痛みはないが、頭痛は続いていた。土曜日だったので家でゆっくりすることにした。
同業の知人がフェイスブックで、「3回目が一番つらかった、1年に一回ならまだしも、1年に2回これをするのは尋常ではない」と言っていた。本当にそのとおりだと思う。最初の2回つづけて打った時の副反応は、これよりも弱かったのかもしれない。あるいは同じぐらいだったのかもしれない。喉元すぎれば忘れる、というのはこのことだろう。しかし3回目はこれまで以上だ。
要介護状態にある高齢者は若い人に比べると悪化率は圧倒的に高い。私の施設ではすでに2回クラスターを経験した。1回目はだれもまだワクチンを打っていない時で、その時は26名が感染し、計7名がお亡くなりになった。2回目は16名が感染し、ワクチンを打っていない1名のみがお亡くなりになった。ワクチンの効果は身をもって感じた。私は高齢者施設の施設長として「入所中の利用者に悪影響を及ぼすことを避ける」ためにワクチンを積極的に打ち、そして打たれる側でもある。
それでも何か腑に落ちないものを感じている。
こんなにつらい思いをしてもこれからもワクチンを打ち続けるのだろうか?
最初にワクチンを打った時にはすでに、次回は8か月後だろうという情報はあった。しかし、それが半年後となり、これからのウイルス感染症の状況次第では年に2回ワクチンを必要とする状況が起こり得る。
施設長としてではなく、一般の施設に勤める職員の側からみたらどうだろうか。あるいは他の人と頻繁に接触する他のサービス業の方々にとっては?半年に1回、24時間から36時間続く倦怠感や頭痛に耐えることは許容範囲なのだろうか?インフルエンザワクチンは、さすがにここまでの副反応は出ない。
ワクチンの効果は確かにある。一方それは1回打つごとにその方の人生を1日か2日ぐらい奪う。それは当然なのか、当然でないのか。もちろん感染すれば14日間、濃厚接触者だって相当の期間、自分の時間が奪われることになる。
コロナウイルス感染症の蔓延がしばらく続くとなると、ワクチン接種もしばらく続くということになる。一方ワクチン接種の副反応が問題にならなくなる事態を期待したい。それはまず、コロナウイルス感染症の軽症化。
オミクロン株はこれまでと比べて、感染力は強くなったが、軽症となった。今後コロナウイルスは軽症化が進むと予想している研究者は多い。本当にそうであればワクチン接種もいつかは中止できるだろう。ぜひこの選択肢になって欲しいものだ。
そして、ワクチンの副作用が減ること。例えばワクチンの種類が豊富になり副作用も出にくくなること。ただしこれは次善の策だ。
最後に、コロナウイルスに完全敗北すること。
さらに症状や感染力が強い株ができて、ワクチンを打つのが当然の社会になること。全くこうなって欲しくない。
あるいは、免疫力を抗原量で測って、それに合わせてワクチンを打つのも一つの方策ではある。ただ、そこまで医療に依存しなければいけないのだろうかという疑問が残る。
副反応に苦しむ身になってみれば、ワクチンの副反応が強いこと、これは全く良いことではない。そんなことを考えなくてもいい時代が来てほしいものだ。
それでも私は医療従事者で、基本的な考え方は「ワクチンは自分のために打つのではない」ということ。私が軽症か無症状で済むことで、ベッドが一つ他の病気のために使うことができる。これが私がワクチンを打つ理由であることには変わりはない。
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