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お酒が飲めるようになったわけ

昨日は飲みすぎた。今朝は二日酔いだ。頭が痛い。

そもそも私は何故お酒を飲むのだろう。

美味しいから?酔うから? もちろんそういうことを期待して飲むから当然である。


だけどもう一つ根本的な要素がある。それは私たちが先祖から頂いたアルコールを分解する酵素のおかげである。


人類の祖先はかなり昔に、飲酒できる体を手に入れた。お酒を飲めるのは有難いけど、二日酔いは迷惑であるから、有難迷惑な話である。


まず、有難い方の話。

アルコール自体は、生き物にとっては有害である。だから消毒薬にも使われる。コロナウイルス禍では、アルコール消毒液があちこちに置かれて、ウイルスや細菌などアルコールを分解できない生き物を抹殺しまくった。


アルコールを分解する酵素を持ったのはいつ頃だろう。

それはオランウータンが、人間の祖先から分かれた頃だと考えられている。なぜなら、オランウータンはこの酵素の遺伝子を持っておらず、ゴリラ、チンパンジー、そして人類はこの遺伝子を持っているから。

オランウータンと我々の共通祖先が分岐したのは1000万年ぐらい前。どうしてアルコールを分解する酵素を持つようになったのだろう?

ある科学者は気候変動などで食物が少なくなった時、地面に落ちて腐った食料を食べざるを得なくなった時、自然発酵でアルコールが入っていても酔わない祖先だけが生き残った、という仮説を提唱している。まじめでごもっともな説である。


でも、それだけではないような気がする。人類、チンパンジー、ゴリラともども、私たちの仲間は好奇心が強いし、悪だくみもする。

当時、果物が発酵した素晴らしい香りに気が付いた祖先もいただろう。

そのいい香りは、アルコールが飲めても飲めなくても、誘惑だったのではないか。

好奇心のあまり、その香りの誘惑に負けることも、必要な要素だったのではないか。


アルコールを含む食べ物は美味しい。そしてつい沢山食べてしまう。すると夜安全な木の上の寝床に帰れなくなる。困ったことに夜には動き回る大きなネコ達がいて、地面にいると食べられてしまうのだった。


まだ言葉はなかった。言葉にはならないが、あのいい匂いのする地面に落ちた果物を食べていい? いやダメ! といった親子や仲間どうしのやり取りが何万年と続いたはずだ。

そしてある時ついに掟破りの祖先が現われた。酒を飲むことに挑戦した祖先たちだ。この際名前をつけておこう。お酒を最初に飲んだ祖先だからバッカスでどうだろう。


ある時バッカスは、発酵していい匂いがする果物を食べても、なんとか無事に木の上に戻って来れる自分に気づいた。

それを見た他の仲間もバッカスの真似をし、アルコールたっぷりの果物を取って食べてみた。しかし手足はふらふらになり、木に登れない。そして夜は当然、大きなネコ達の餌食になってしまった。

しばらくして、木の上の寝床に横たわりながら、バッカスは悪だくみを思いつき実行した。他の仲間に禁断の果実を差し上げて酔わせたのだ。すると大型ネコが食べてくれた。自分の手を汚す必要はなかった。そしていつの間にか群れの頂点にいて、まんまと群れの異性を独占したのだ。


ゆっくりバッカスの子孫の集団が作られていき、アルコールを代謝する酵素の遺伝子を持った子供達が群れの中に広がっていった。


バッカスの子孫は、大型ネコ達に食われる可能性が低いだけでなく、発酵した食物も食べるから栄養も豊富になって遠征する体力もついた。

旅に出た。そして他の集団のオスにアルコールのいい香りがする果物を差し上げた。それを食べたほかの部族は、大きなネコたちが始末してくれた。

その集団の異性を独占できた。こうやって、アルコールを代謝できる集団は広がっていった。


ということは、アルコールを飲むことは人類の起源なのだ。


まあ、こんな話はバーで酔いながら若い人を相手にするものだ。

ただ、そんなに上手くは行かない。私は酒に弱いし二日酔いにもなる。これはどういうことなのか。


さて、これからは迷惑な話である。

中国南方から日本にかけて、アジアの人々にはヨーロッパと比べてお酒が強くない人達がいる。実は最近、といっても今から7000年ぐらい前、中国南部のどこかで、アルコールの代謝があまりできない突然変異が起きたらしい。

私を含めて、この変異を持った人は血中のアルコール代謝物が残ったままとなるから酔いやすく、顔が赤くなる。


せっかく手に入れた酵素の力を失うなんて、いったいどうしてだろう?


もっともらしいのは、アルコールやその代謝産物が分解されずに血中に残ることで、ある種の感染症に強くなったという説である。ちょうど中国の南の方で米作りが始まったころであるから、沼地のアメーバが、血中のアルコールで殺菌された、という説である。

私の職場の同僚も、時々風邪をひいたからアルコール消毒してくる、とか言い出すことがある。ただし、そんな効果は人類一人ひとりのレベルでは期待しない方がよい。


私はこう思う。ほろ酔いの女の子の頬っぺが赤くなって可愛いく見えるから。


まあ、お酒が少なくても酔えるのは言いことだ、と自分の体質に感謝して、深酒はほどほどにしておこう。

<終わり>

#ほろ酔い文学

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