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ロロ『ちかくに2つのたのしい窓』~新シリーズ『窓辺』第1作~

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ロロが今年の1月にこまばアゴラ劇場で上演した10周年記念公演『四角い2つのさみしい窓』は、透明な何かで分断された境界線を溶かそうとする物語だった。現実と非現実、死と生、客席と舞台、離れているものそれぞれを出現させて皆合する物語は、ロロの三浦さんがこれまで書いてきた作品い通じる作品だった。
そして、配布されたチラシに表記された6月の次回作のタイトルは『ロマンティックコメディー』記憶や思い出に紐づいた土地を巡り、歌をうたい、現在が過去を再現して未来へ思いを馳せるロロらしい作品群の次なる一歩になるのではないかと期待を膨らませていたものの、上演される日は果たして……

そんなおり、ビデオ電話で交流する人々を描く連作短編通話劇シリーズ『窓辺』が発表された。4月から三カ月連続で生配信限定(アーカイブなし)上映される作品であり、第一作『ちかくに2つのたのしい窓』が4月25日までの3日間で6公演を完遂した。

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『ちかくに2つのたのしい窓』は、架空のアニメ『魔法使いミント』の主題歌から始まる。

Zoomうつるのは2つの画面。
地元仙台で働く村田秋乃(亀島)と、上京してレコ屋でアルバイトをする川岸風太(大悟)の回線がつながる直前、川岸は懐かしいアニメ主題歌を歌っていた。

変身するわ スターダストジュエリー
あなた好みのピンクじゃなくて
あたし好みのブルーに染まる

23時にネクタイを緩めながらゼリーを食べる村田と、発泡酒のロング缶を傾ける川岸。
最近の近況を伝え合う会話のなかで、川岸がその日に(きっと女性と)別れたことを明かす。
怒った相手にスマホを投げられたせいで、ひび割れた画面に映る村田の顔は傷ついている。
額から顎までぱっくり割れて、頬から目、唇も、と画面をなぞりながら説明する川岸の指は村田の唇で制止する。このとき、川岸から見える相手の画面の下半分は、村田の指で肌色だらけになった。
「画面越しでいいから触ってみて」と促された川岸もまた、カメラ(村田の指)に自分の指をくっつけて互いの画面は暗くなる。画面越しに指先が触れ合った二人はその状況をETじゃんと笑いながら「ト~~モ~ダ~チ~」とふざけあう。

そこから、二人は自分たちの関係に名前を付けようと姿勢を正す。
友達・恋人・パートナー…
亀島一徳と篠崎大悟がカップルへと転じていく様子は『BGM』を見た人なら思い起こしてニヤついてしまう場面であるはずだ。直接会えていない二人の、間を開けないように言葉を選びながら想いを口に出していくラリーは、会えていなかったからこそ型にはめずに持ち越してきた関係性に少しずつ輪郭をもたせていく。

別れ→スマホが割れる→画面に映る顔もヒビ→ヒビの先の唇→ET→“友達”→友達?
この流れの必然性が何回見てもたまらなかった。
「触れてはいけない手を 重ねてはいけない唇を あぁ知ってしまった」と歌い出すaikoの『青空』が脳裏を過る。会えていないのにいっぺんに両方とも成している!

気軽に新幹線に乗れる裕福さを持ちあわせていない川岸がついに
「一口欲しいときに一口くれる場所にいたい」
と素直に言葉にできるようになってその夜はお開きになる。

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二人の関係性のきっかけは、離れ離れの二人が会えない現状を踏まえたうえで村田が最初に言った言葉だ。

「会いたいってのが最初にあって、『会える』のは二の次なんだ」

この芝居はおそらく、あえて新型コロナウイルスが流行している世界を描いていない。
自宅から出られず「おうち時間」を過ごす人もいれば、働かざるを得ない状態の人もいるなかで、みんなに共通しているのは会いたい人に会えないむず痒さだ。ZoomやLINEで繋がってはいるけれど、そこには画面と言う壁があるし、コンビニや役所窓口で一年するときも必ず薄いシートによって僕たちは隔てられていまを耐えている。

テレポーテーションは使えないけど、いつか透明の壁よりも目に見えない小さな障害を克服して、会いたい人に会える日が来くときまで。『窓辺』シリーズは、現在から過去へ発信する愛や物語を描くロロからのエールとなる作品群になるだろう。

20分という短時間で覗くことができる、言葉通りの『ちかくに2つのたのしい窓』の続編は、5月中旬上演予定。

【今週のテーマは #本当なら でした】

<オケタニ>

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