歴史サイクル/コン王の息子アートの冒険とモルガーンの娘デルブハイヴの結婚2

前回

 それからベクヴァは緑地に出かける機会があって、そこでコンの息子がフィズヘル※をしているのを見かけた。アート王子は仇を見たくないと思っていた。
「あれがコン王の息子ですか」
彼女が言うと、人々は答えた。
「その通りです」
「彼が私と賭けのフィズヘルをしなければ、禁忌ゲッシュを課します」
 この言葉がコンの息子のアート王子に伝えられた。そしてフィズヘルが持ってこられると彼らは勝負して、アート王子が最初に勝った。
「これでお前に勝ったぞ」
「そうですね」
「クーロイ・マクダーレ※が世界を支配していた時に持っていた戦士の杖を得て、ここにいる私のところに持ってくるまでアイルランドの食べ物を食べることを禁ずる」
 それからその女は、露に濡れて輝くブルーに進んできた。その中にはアンガスがいて、そのそばには彼の愛妻でラブラズの娘のヌアヴァイシがいた。しかしアイルランドのほとんどの妖精の塚を探しても杖の行方は知れず、とうとうエオガバルの妖精の塚に来た。そしてエオガバルの娘であるアーニャから歓迎を受けた。なぜなら彼女は里子姉妹だったからだ。
「お探しのものはここで見つかるでしょう」
 彼女は言った。
「あそこにいる150人の青年たちを連れて、ミーシュ山の頂上にあるクーロイの砦に行ってください」
 そして彼らはクーロイの杖を見つけ、彼女はその場で歓喜した。
 その後、彼女はタラに行って、アートにそれを渡して彼の膝の上に置いた。フィズヘルが持ってこられて彼らは勝負したが、妖精の塚の者たちが駒を盗み始めた。アート王子はそれを見て言った。
「我々の駒を妖精の塚の者たちが盗んでいるぞ。この勝負に勝ったのはお前ではなく、彼らなのだ」
「でもこれであなたの負けですわ」
「その通りだ。要求を言え」
「こうしましょう。モルガーンの娘のデルブハイヴを連れて来るまで、あなたはアイルランドで食事をしてはならない」
「彼女はどこにいる」
アート王子は言った。
「海のまっただなかにある島に。あなたの得る情報はこれが全てです」
 アートはインヴィル・コルブサ※に向かって出発した。そこで彼は岸辺により抜きの装備が設えられた革船があるのを見つけた。彼は革船を進めて、島から島へと航海して、ついに見知らぬ美しい島に到着した。島の様相は華やかで、いっぱいの野の林檎や、可愛らしい鳥たちに、花々の花弁にえもいわれぬほど美しい小さな蜂がいた。島の真ん中には白と紫の鳥の羽根で屋根を葺いた高貴で快適そうな屋敷があり、その中には絶世の美女の一団がいて、彼女らの中にはフィデハ・フォルタヴァルの娘のクレディ・フィラランがいた。
 彼は暖かく迎え入れられ、料理を提供され、話しを訊ねられた。彼はアイルランドから来たアイルランド上王の息子で、アートという名前なのだと名乗った。
「本当のことです」
 彼女はそう言うと手を差し出して、アラビアの磨かれた金の装飾が施された様々な色のマントを渡した。彼が身に着けるとそれは満足のいくものだった。それからまた彼女は言った。
「本当に、あなたはコン王の息子のアートで、あなたがここに来ると予言されてから久しいのです」
 そして彼女は彼に親しみを込めて三度接吻をして言った。
「水晶の部屋を見てください」
 その部屋は美しく、水晶の扉があり、空になったとしもすぐに再び満ちるという尽きることのない桶があった。
 彼はその島に二週間と一か月いた後にその女性に別れを告げて、彼の使命を伝えた。
「本当に、それはあなたの使命です。その乙女には間もなく会えるでしょう。あちらは険阻で、あなたと乙女の間に海と陸がありますので、たどり着いたとしても通り過ぎてしまうということはないでしょう。あなたと死の狭間に碧海と暗闇があり、その道行きには悪意があります。なぜなら、人々の足の下にある森の木の葉の如く、あたかも戦いの槍の切っ先が人の足の下にあるかのようにして木々が立ちはだかっているのですから。そして大きな森のこちら側には、口のきけない獣がたむろする不吉な海の入り江があります。山の前には刺々しく鬱蒼とした大きな樫の森があり、そこを狭い一本道が通っていて、その道の端にある不思議な森の暗い家の中で、七人の魔女と鉛の風呂があなたを待ち構えています。なぜなら、あなたの到来は運命なのですから。そしてもっと最悪なことに、モンガーン・ミンスコサハの息子のアリル・ドゥブデーダハがいます。彼には武器が通用しません。そしてそこにはフィデハ・フォルタヴァルの娘のフィンスコスとアイヴという名前の私の二人の姉妹がいます。彼女たちはそれぞれ手に杯を持っていて、一方の杯には毒が、もう一方にはワインが満たされています。そしてあなたは右手にある杯から、好きな時に飲めます。それで、手近なところに乙女の砦があります。周りには青銅の柵がめぐらされていて、コンヘンによって殺害された者の首が一本を除く全ての杭に串刺しにされています。コンヘン※の王女であるコンヘンが、まさにモルガーンの娘のデルヴハイヴという乙女の母親なのです」
 アート王子はその女性に教えを受けた後に出発して、しまいには見たこともない獣で一杯の海の入り江に到着した。四方八方から獣や海の大きな怪物が革船の周りにあらわれて、コンの息子のアート王子は戦いのための衣服を身に着けると慎重に戦った。彼は切り刻み、屠り始めるとついにそれらを倒したのだった。
 その後、アート王子が原生林にやってくると、そこにはコンクリンと邪悪で意地悪な魔女たちがいて、アート王子と魔女が遭遇した。しかしそれはアート王子にとって不利な戦いであり、彼は朝まで貫かれたり斬られたりした。しかしそうであるにもかかわらず、武具に身を固めたその若者が不吉な人々に勝利したのだ。そしてアート王子はおのれを恃みにして道を進むと凍れる毒々しい山にやって来た。切り立つ崖の谷間には毒蛙がたくさんいて、そこを通る人を待ち構えていた。彼はそこを通って向かいのスリアヴ・サイヴに行った。そこは世界中の獣を待ち構えている長いたてがみのライオンがたくさんいた。
 それからアート王子は凍った川に来たが、そこには細く狭い橋がかかっていて、戦士が石柱をもって歯を磨いていた。その名をクルナン・クリアブサラハといった。しかし、それでもなお彼らは出会い、クルナン・クリアブサラハは斃れ、アート王子はその巨人に打ち勝った。彼はそれからモンガーンの息子のアリル・ドゥブデーダハがいるところに行った。彼は武器で傷つけることができず、火で燃やすことも出来ず、水で溺れさせることもできないという恐ろしい勇者だった。そして彼らは取っ組み合い、雄々しく激しく英雄的に互角の勝負を繰り広げた。アリル・ドゥブデータハはアート王子を口汚く罵り、彼らは互いに罵声を交わした。しかしアート王子は巨人に打ち勝ち、胴体から首を落とした。その後、アート王子は砦を打ちこわし、巨人の妻を捕らえてモルガーンの砦と不思議の島への道を白状するまで痛めつけた。
 そこにはモルガーンの妻、コンヘン・ケンファーダ長い首がいた。彼女は戦いとなれば百人力であり、コンヘンの王であるコンフルスの娘だった。ドルイドたちは彼女の娘が言い寄られたら、その時に彼女は死ぬだろうと予言していた。それゆえ彼女は娘を口説きに来た男たちを皆殺しにしていた。アート王子が魔女と鉛の風呂、そしてモルガーンの屋敷の門番であるドゥスカドの息子のクルナン・クリアブサラハに出くわすように企んだのは彼女だった。アート・マックコンが行く道にアリル・ドゥブデータハを配置していたのも彼女だった。なぜなら、予言されていた通りに彼が娘に求婚するために旅に出るからだった。毒の馬、氷の橋、コンクリンのいる暗い森、……蛙、ライオンがたくさんいる山、不吉な湾も彼女の仕業だった。
 このようにしてアート王子はモルガーンの城にたどり着いたのだが、そこは素晴らしいところだった。美しい青銅の柵が周りに巡らされていて、その真ん中には気前の良さそうな広々とした家々と堂々たる宮殿があった。その場の上には技巧を凝らされている明るく輝く小部屋が一本の柱の上に設置されていて、その頂上には乙女がいた。彼女は緑一色の外套を身にまとい、胸の上のピンで留めていて、最高に美しく長い金髪をたくわえていた。そして黒く陰のある眉毛にきらめく灰色の瞳の顔立ちに雪のような白い体をしていた。知性と美貌、刺繍の腕前、貞潔さ、気品の全てにおいて乙女は申し分なかった。そして乙女は喋った。
「今日ここにいらした戦士さまほど立派で、名声を博した戦士は世界にいませんわ」
彼女は続けて言った。
「まことに、彼はアート王子です。私たちはずっと彼を待っていました。私はもう一つの屋敷に参りますから、あなたはアート王子をその部屋にお連れしてください。あのコンヘンが彼を殺してしまって、城の前の空きがある杭に首を串刺しにしておかないか、恐ろしいものですから」
 そうしてアート王子がその部屋に入ると、女性たちは彼を見るや歓迎して彼の足を洗った。その後、コンヘンとフィデハの二人娘、アイヴとフィンスコスがアート王子に毒とワインを注ぐためにあらわれた。
 コンヘンはというと、この女戦士は立ち上がって戦闘用の衣服を身に着けるとアート王子に戦いを挑んだ。アート王子はこれまで決闘を断ったことがなかった。そして彼は戦装束を身にまとい、ほどなくして武具に身を固めた若者がコンヘンに勝利した。彼女の首が胴体から離れ、城の前にある空いた杭に刺された。
 さて、コンの息子のアートとモルガーンの娘のデルヴハイヴはというと、彼らは隅々まで城を掌握し、高揚した気分で体を横たえた。しかしそれは不思議の島の王であるモルガーンが帰ってくるまでのことだった。なぜならその時彼はそこにいなかったのである。しかしモルガーンが激怒して、彼の城と善き妻コンヘンの仇のアート・マックコンを討たんとして帰って来た。彼はアート王子に戦いを挑んだ。若者は立ち上がり戦装束に身を固め、肌触りの良いサテンの上着を着て、磨かれた金の輝かしい前垂れを正面につけ、頭には暗く赤い金の立派な兜をかぶった。紫色の浮彫が施された立派な楯を背負い、青い柄の幅広の溝が彫られた剣と二本の太い柄のサフラン色の槍を手に取った。そして彼ら、アート王子とモルガーンは二頭の巨大な牡鹿の如く、獅子の如く、破壊をもたらす波の如く戦った。そしてアート王子はモルガーンに勝利して彼の首を切り離してから立ち去った。その後、アート王子はモルガーンの民から人質を取って、不思議の島を自らのものにした。彼は島の金銀を集めて、乙女、モルガーンの娘のデルヴハイヴにそれを全て贈った。
 そして執事と監督官を従えて、彼は乙女をアイルランドに連れて行った。
彼らはホウス岬に到着し、港湾に来た時に乙女が言った。
「タラに、急いでください。オーエンの娘ベクウァにそこにとどまらず、直ちに出発するように言うのです。もし彼女がタラを去るように命じられたのなら、それは災いの始まりなのですから」
 アート王子はタラに向かい、歓迎を受けた。彼の到来を喜ばぬ者は、悲し気でふしだらなベクウァだけだった。しかしアート王子は罪深い女にタラを去るように告げた。そして彼女は別れの言葉もなく、アイルランドの人々の前で嘆きながら真っすぐに立ち去って、ホウス岬に行った。
 乙女デルヴハイヴはというと、占い師や賢人や首長たちが歓迎のために遣わされて幸せそうにタラに来た。そしてアイルランドの貴族たちはアート王子に冒険のことを訊ねた。彼は応えて、詩を作った。
 以上がコンの息子アートの冒険とモルガーンの娘デルヴハイヴの結婚である。

※1
フィズヘル。ボードゲームの一種。他の翻訳ではチェスなどと言及されている。クリファン・ニア・ナルのボードゲーム盤とはフィズヘルのこと。
※2
古代のマンスター王。英雄クーフーリンの好敵手。
※3
ボイン川河口。
※4
コンヘン(Coinchend)とは、犬の頭という意味。犬の頭を持った異形の集団である。そしてもう一つ、コンヘンは女性の名前として使用される場合がある。


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