フィアナ伝説:ロッホラン王マグヌス

ムレアルタッハの話

【第一部】
フィアナ騎士団はロッホラン(スカンジナビア)から王国を守り続けていた。フィンは彼らのリーダーだった。そして、アイルランドのドゥン・キンコリーで彼らとマグヌス(ロッホランの王)は戦った。
マグヌスが故郷に帰ると、彼の養母、ムレアルタッハは彼女がフィンと戦いに行き、勝利のカップを彼から奪うつもりだと言った。それから飲み物を飲むとフィアナ騎士団は常に勝利を得るというと言われる土器だった。
マグヌスは彼女と一緒に兵士たちを送ろうと言ったが、彼女は断った。彼女は鉄の輪を携えて夫である海の鍛冶、小峰のクルッチのみを連れて、全速力でドゥン・キルコリーへ行った。
フィアナ騎士団はなにか大きく異様なものが迫っているのを見つけた。そしてフィンは言った。
「もしあれが世界を旅して一周した者ならば、それはマグヌスの養母だ。彼女はなにか特別なものを欲している」
そしてフィアナ騎士団は屋敷に行って八十一人が背中を扉に押し付けて、九本の鎖で内側を緊く結びつけた。
(彼女は木を引き抜いて枝を払ってそれを棒にした。海の鍛冶は船にとどまっていた。彼らは九本の木の棒を閂にして、石と石灰で九フィートを置き、九倍の九人が背を扉に押し付けた。)
フィンが外を見張っていると、彼女がやって来て低い声で言った。

>彼女
わたしゃ、みじめなみじめな老いぼれおんな、
そいつが追いかけてきたのさ。
あたしゃアイルランドの五大地方を旅した。
あたしを入れさせなかった家は見たことがない。

>フィン
そなたがそれら全てを旅してきたというのなら、
それは悪人の足跡というもの。
そなたの爪が下で緑になろうとも、
私に開けさせることはできないだろう。

>彼女
王の息子には似つかわしくない慣わしだねぇ。
英雄らしさや、勲を見せるべき者にしては。
お前さんは王の息子と呼ばれるべきというのに、
老婆に一夜の宿場を与えないのかい。

>フィン
もしも慣わしや食事(肉)やもてなしというものを
そなたがお望みならば、老婆よ!
百人の戦士の肉を送ろう。
それで私に話しかけるのを止めてもらおう、老婆よ!

>彼女
お前さんたちのちんけな肉なんてお呼びじゃない、
それにお前さんたちが悲しもうが知ったことではないよ。
あたしゃ、お前さんのところで暖を取って、
犬と一緒にご相伴に預かりたいねぇ。

>フィン
そなたの息が吹きかけられるところで、
自分のために灯をともすことはできないのか。
恰幅の良い体に油をたっぷりとつけて、
[異伝:そなたの背のこぶにぶつけて小枝を折って]
それで上手に暖を取れるのではないか?

>彼女
フィアナ騎士団の六人の最も勇敢な英雄たち、
彼らを芝生の上に出て来させておくれよ。
彼らの腰まで雪で埋もれた日にゃ、
灯をともすことなんてできやしないだろうさ。
[異伝:
茅葺屋根と枝細工の壁の間にいる
九人の九倍、
彼らの腰帯に雪が達するだろう、
彼らは灯をともすことができないだろう]

最も激しい戦いぶりの老婆は、
扉を蹴った。
足裏を引き戻す前に
緊結された九本の鉄の鎖を砕いたのだった。
(そして彼女は英雄たちを投げて床に背をつけさせた。)
フィンは彼女を避けた。そして彼女は宝箱のところへ行って勝利のカップを持ち出した。
男たちは立ち上がった―
痩せっぽち(カイールテのこと)が立ち上がって、残りも立ち上がった。
そして櫂の漕ぎ手たちも立ち上がった。
老婆を追いかけるために。

彼らは彼女に追いつくことができなかった。フィアナ騎士団で最も強いオスカーが彼女を追いかけて行った。ホウスの丘の崖の麓で彼女を捕まえた。彼女の灰色の髪が背中に垂れていて、オスカーはそれを掴んだのだった。オスカーは跳んで、老婆のみすぼらしい灰色の髪の房を三つ手にした。
彼女を何らかの方法で調べる前に、彼らは雪で腰まで埋まった。
「ほ、ほ」
彼女は言った。
「若いの、あたしを傷つけてしまったねぇ。食べ物か飲み物が欲しければ、船に行くと手に入れられるだろうさ」
[異伝:海の鍛冶師のところに行って、それを手に入れるだろうさ]
「そんなものは欲しくない、ただ、お前の灰色の髪を俺の祖父のところに持っていくだけでいい」
「ほ、ほ、お前さんはそんな者なのかい?」
彼女は灰色の髪を左手で引っ張り上げ、彼に手で優しく触れた。彼は自分の全身の骨という骨が砕ける音を聞いた。
「おうちに帰れる元気があるなら、勝利のカップはもらったとフィンに伝えるんだよ」
彼は戻り、彼女はロッホランに行った。マグヌスはフィンと戦うことを決心した。彼の部下を集め、ドゥン・キルコリーにフィンと戦いに行った。彼らは会敵し、戦い始めた。ロッホラン人は全て殺され、勝利のカップは取り戻されたのだった。マグヌスは捕虜となり、誓約させられた。それからコナンは言った。
「剣のマグヌスのところに俺を行かせてくれんか、
胴体から首を切り離せるように」
マグヌスは言った。
「フィン、そなたに些細な手向かいをした。そなたにしたことを悔い改めておる」

【第一部後半異伝】
凄まじく怒った老婆が
扉を蹴る時、
九つの止め金具を壊した、
最高速度に達する前に。
そして彼女はフィンの住居に押し入り、
フィンのカップを鉤爪で掴まえた。
彼女は櫂の漕ぎ分ける波を越えて跳んだ、
右手にフィンのカップを持って。
フィンは速く速く跳んだ。
老婆の足取りを追って、
カップを掴んだ。
その徳と力は彼のものだったからである。
ロイン(ローナーンのこと)の息子の痩せっぽちが
巨大な剣と二振りの槍を掴んだ。
活動的で若いオスカーが彼女の刺繍入りのスカートを掴んだ。
彼らはみすぼらしい人から林檎を獲った。
戦うことなくそうしていなかったのなら、
彼女の首が別の胴体の上に載っていたのなら、
彼女の魂は決して慈悲を得られなかっただろう。
彼女の身位は高く、弥栄なり、
年月(?)への帆は高らかなり。
彼女の下の金梃子、
開いた口から西のほうへ二つの歯。
このように暗い老婆は、
クーフーリンの時代から見られなかった。

【第二部】
彼(マグヌス)は手に何も持たずに故郷に帰った。彼の養母は彼の部下たちのことを聞いた。彼らは死んだ、と彼は言った。
「陛下!」
彼女は言った。
「あなた様がフィンを殺せなかった時に、彼奴が双子の一人であるからには、あたしは肉体の精をあなたに差し上げたのです」
「あたしが今から行って、あなた様が失ったのと同じ数だけ、二十四時間でフィアナ騎士団から捕らえてきましょう」
「船を集め、」
マグヌスは言った。
「そなたと行こう」
彼女はこれを聞きいれようとせず、鍛冶師と一緒に行くと言った。彼は話を伝えることが得意で、故郷に帰って来れた時には全てを話すことができただろう。フィンの話を聞いただけで、その鍛冶師は行きたがらなかった。しかし彼女は彼を捕まえて、船に投げ込んだ。彼らは船旅に出た。丘の葉や柳や、根本から若い芽を取り払ってしまうように、丘の麓や木々の方からささやかな優しい風が吹いてきた。最も大きな獣が最も小さな獣を食べてなお最も小さな獣は最善を尽くすように、彼らは海をかき分け始めると、古い石の黒さや巨礫の漆黒やに対比して、飛沫がきらめき波が泡立った。小さな海鳥が休息したり避難するために帆柱に留まった。硬い芯の櫂を漕ぎ手が立派に漕いで、船首は波を切って進んだ。
「見なよ」
彼女は海の鍛冶師に言った。
「試しに陸地を眺めるんだよ」
彼は周囲を眺めて、陸地を見つけて言った。
「ありゃあ、陸地にしては小さいし、カラスにしては大きい」
「本当だねぇ、あんた」
彼女は言った。
「船にも船なりの速さってものがあったねぇ」
彼女たちは小さく幅広な鋭い峰の櫂を押し出して、背を伸ばすたびに船べりから海水を浸入させていた。悪意とともに精一杯船を漕いだので、彼らは陸地に到着して小船を岸辺に引き上げた。そこは町の子供たちが遊んだり、物笑いの種にできないようなところだった。
彼女は海の鍛冶師に風上で太陽を背にする丘状の塚の背後に回るように言った。そこは全てを見ることができて、なおかつ誰からも見つからない場所だった。彼がこのようにして、彼女は行った。
不幸にもフィアナ騎士団が腕を枕に寝ていて、そのうちの二十四人は胸を枕にしていた。彼女は鉄の輪で彼らを殺し始めた。

彼女はフィアナ騎士団の二十四人を殺した、
いの一番にアルヴィン、
激しい戦いの手によって殺された、
戦士たちが宿舎に近づく前に。

それからフィアナ騎士たちとカーリン夫人※が斬り合った。
(※カーリン夫人……フィアナ騎士団と敵対する巨人の妻で化物の母親。)
彼女は炎が上がり下がりするように彼らを迎撃した。彼女の背は高かった。
オスカーが彼女に立ち向かうように要求されたが、彼女に強かに何度も打擲されて追いやられ、フィンは勇気を失った。
彼は彼らに鋤を持って彼女の下を切り崩し、後ろに追いやって一気呵成に叩く好機を作るように言った。彼らは穴を掘って、彼女を後ろに追いやってついに落とした。そして未だ炎のように立ちふさがろうとしていたが、彼らは憎悪を受けたにもかかわらず止められる前にその老婆を殺したのだった。そうして彼らは喜びの勝鬨を上げて、それを聞いたコリーグレンにいたフィアナ騎士団の二十四人は、フィアナ騎士団に何らかの問題が発生していたことを知った。彼らは急いで駆け付け、そのうちの一人が仲間に向かって言った。
「騎士団長! 彼女が脚で立っていた時にどのようにしていたのか教えてくれないのですか?」
「私にはできない、できるのは彼女を見ていた者だけだ」

【ムレアルタッハの歌】
我らが東の丘状の塚にいたとある日のこと、
四方を見まわしてアイルランドを眺めた、
粘っこい重苦しい海を越えて我らのところへ来た、
重苦しく灰色でない怪異。
開いた口から西に突き出た2本の歯は、
彼女の足元から四尋(7.3m)離れていた。
アルヴィンがいの一番に、
激しい戦いぶりの手で殺された
その人々が近寄る前に。
それからゴルが喋った
彼は決して遅れをとらぬ英雄
「彼女のところへ儂に行かせてくだされ、
武芸を彼女に披露してやろうかと。」

老婆は彼を斬りまくって、彼を後ろに追いやった。そしてその時にフィンは勇気を失った。それから彼女の踵の下の地面を切り崩して彼女の帯のところを地面に落とし込ませせるように命令した。彼女は炎のように上り下りして立ちふさがった。しかし我らはあらゆる憎悪を受けたにもかかわらず、老婆を殺して勝鬨を上げた。
海の鍛冶師は風上で太陽を背にしていたところ、ムレアルタッハが殺されるのを聞いた。彼は海に漕ぎ出て、一人でロッホランに帰り着いた。
マグヌスが彼にあって、老婆をどこに置いてきたのかを訊ねた。
「彼女は殺されましたわい」
海の鍛冶師は言った。
「哀れにも彼女は殺されました。しかしながら、彼女の勇敢な最期を見るべき時に、あなたは逃げたのです」
「ああ、彼女が殺されるとは!」
「地面の穴に飲み込まれたり、あるいは滑りやすい茶色の湖に溺れない限りは、儂のムレアルタッハを殺せる者たちはこの宇宙にはおらんかった」
「フィアナ騎士団以外に彼女を殺せる者はいなかった。彼らには決して勝つことはできぬ。黄色い髪を丸く結った者たちから逃げることが出来た者は一人としていない」
このようにして老婆は旅を終えたのだった。

【第二部異伝】
フィアナ騎士団が東の塚にいたある日、
アイルランド中を見回して、
波を越えて近づいてくるのを見た、
それはおぞましい妖怪―重々しく揺れる物。
その不敵な亡霊の名は、
赤禿で白い後ろ髪のムレアルタッハ。
彼女の顔色は暗い灰色で石炭のような顔、
顎には真っ赤な出歯、
顔には無気力な一つの目、
それは鯖を追うルアーよりも早く動いた。
頭には黒と灰色の剛毛が生えていて、
まるで霜が降りる前の低木のよう。
名高き武名のフィアナ騎士団を見た時、
その悪者は真っ只中にいることを切に望んだ。
怒って攻撃し虐殺して、
彼女は熱心に感謝をして振舞った。
彼女は乱痴気騒ぎで百人の英雄を殺し、
その粗野な口からは大きな笑い声が聞こえてきた。
****
お前は貧相な頭の前髪を失うだろう、
オシーンの立派な息子を求めた代償に、
****
彼らは、彼女が来た道を引き返すならば、補償をすると言った。彼女はアイルランドにある貴重な宝石をすべて手に入れても、それを手に入れるまでは承諾しなかった。
オスカー、オシーン、フィン、
ゴル、コラルの首を
****
彼らは激戦のために囲いを作った、
野原の亡霊が変わってしまわないように。
フィアナ騎士団の四人の最も優れた英雄たち、
彼ら全てと彼女は戦い、
順番に見ていった、
炎のきらめきのように。
幸運なるマックールは立ち向かった、
真っ向からそのおぞましい者に。
彼女の胴体はその激しい攻撃に晒され、
ヒースの頂上に彼女の血の雫が落ちた。
彼女がそうしたのだとしても、それは避けられない戦いだった。
このような試練を彼は受けなかった、
ロン・マクリーヴァの鍛冶場の日から。
彼らは老婆を槍の切っ先で持ち上げて、
バラバラに切り裂いた。

―物語は北部地域(ロッホラン)へ移る―
数多の人がいるロッホランの辺境へ。
あの鍛冶師は思うところがあって行った、
上級王の宮殿に。
「間違いが起こった」と海の鍛冶師は言った。
「赤のムレアルタッハが殺されましたわい」
「穴だらけの大地が彼女を飲み込まなければ、
あるいは広いむき出しの湖に溺れなければ、
宇宙の何者であれ、
誰が白い後ろ髪のムレアルタッハを殺すことができようか」
「ムレアルタッハはフィアナ騎士団に殺された
恐れを知らぬ一団は、
憎悪も心変わりもなく、
黄色い髪を丸く結った者たちの上に立つ」
「もう一度言おう、
毛のない(?)ムレアルタッハは殺された、
美しいアイルランドから発とうとしなかったからには、
丘や、隠れ家や、島から、
儂が船の交差した柱で離陸しなかったからには、
美しく調和のとれた力のあるアイルランドから。
海で蹴ることができなかったなら、
海の岸壁から離れる時に、
儂は陸地に掻き竿を差し込もう、
留め具を外すために。」
「アイルランドの五大地方を離れた船員の多いことよ、マグヌス!
アイルランドの五大地方を離れうる多くの船は海上ほどにない。」
集められたのは百六十八隻の船、彼らは大勢だった、
ムレアルタッハの贖罪金を取り立てるために。
****
彼らは、ホウスの丘の港に上陸した。
よく慕われていたモーナの息子のフェルグスが伝言に行った。引き返すのであれば満足のいく補償をすると彼は申し出た。
彼は八百枚の戦旗を提供しようと言った、
それは美しい色合いで、戦仕立てとなっている、
そして革ひもにつながれた八百頭の犬、
そして八百の調査者(?)、
そして八百人の短い髪で赤い頬の者たち、
そして八百の総赤金の兜も。
けれども彼らはオスカー、オシーン、フィン、ゴル、コラルの首を得られない限りは引き返そうとしなかった。
****
「お前たちはお利口に海を渡って行け、
さもなくば損をするぞ。
激しい嵐とともに、海を渡る時に使った最も大きい船でも、
お前たちの体に十分な量の血があれば、お前の背に浮かべるだろう」
ホウスの丘の戦いの日―
そのとてもとても凄まじい日を彼らは戦った。
数多くの者が首を垂れて、
首はむき出しさせられ、
一人も逃げることはできなかった、
五十人を除いては。
海の潮の流れの如く逝った、
彼らを突き動かす鬨の声とともに。

マグヌス大王

オシーン
『お前のことなんか気にしないぞ、ぼんくら僧侶!
お前の讃美歌隊も全くだ、
そいつらの間抜けた暗愚な魂は、光の歌を拒む。
フィアナの栄光が広がり勲の詩を滔々と語るのに目もくれない。』

聖パトリック
『高名なフィアナ騎士団のフィンの息子よ。
あなたがたの栄光は広がります。
私が天なる神に讃美歌を歌う一方で。』

オシーン
『お前は私の顔に泥を塗るのか。
お前の当て推量で図々しくも、私の一族の輝かしい栄光に、讃美歌が比べられるとでも!
愚かしくも私がお前を生かしておくのは、あまりにも辛抱強い老いを物ともしないため、私がどれだけ寛容なのかを知るため、そして怒りによって自省するためだ。』

聖パトリック
『お許しください、偉大なる長よ。悪気はなかったのです。
あなたの歌は甘美で、格調高い旋律と高尚な技法です。
あなたの高貴な一族は弥栄であります。
歌ってください、甘美なる詩人よ。あなたが心に決めた歌を。
私は喜んで付き添います。その素敵な歌をお聞かせください。』

オシーン
『昔々、海に囲まれた野原で黒褐色の鹿を私たちが追いかけていた時のこと。
私たちは遠くに艦隊が現れたのを見た。それは海原を進んでいた。
私たちは素早く狩りを止めて、西へ東へ、すぐさま伝令が急行した。
素早い行軍にフィアナ騎士団の威信をかけて、団長のもとに馳せ参じるために。
愛らしいマーナが産んだ、強大なる名声を得た団長のもとに、七つの勇敢な部隊が我らに加勢に来て、浜辺に参集した。
それから、アイルランド戦士の鑑たるフィンは、名声と征服の栄冠を得て、掻きたてるような栄光の勲へ、周囲の英雄たちに下知を下した。

フィン
「私の隊長の中であの侵略された浜辺へ行き、勇敢な敵に立ち向かうのは誰か。彼らが探索する目的とは何なのか」
それから誤った考えを持ったコナン、禿げ頭のモーナの息子は喋った。
そして彼の怒りっぽい気性によって彼の下卑た口調は荒くなった。

コナン
「アイルランドの戦士たちの長よ! 誰があっちの海軍を寄越したんだ。
ひょっとするとうちの素晴らしい王様に見合うような、王や英傑の自慢の種なのかもしれないぜ」

フィン
「彼らの傲慢な主に面会させるために平和的な詩人、フェルグスを遣わそう。彼にはお手の物で、もしかしたら武力行使が避けられるかもしれない」

フェルグス
「お黙り!呪われた舌、ハゲ、つむじ曲がりの馬鹿者!
私が行くも留まるもあなたの思うがままなのですか。
でも、向こうの侵略された岸に私は喜んで行きましょう。
そして彼らの目的を探るために、大胆な敵に会いましょう」
林立する刃がきらめく中を、若きフェルグスは行った。
彼は武骨な声を遠くまで響かせて、離れた敵に挨拶した。

フェルグス
「何処より参られた軍勢か、フィアナ騎士団の武勇に立ち向かいに来たというのでしょうか。
なにゆえ、アイルランドの守られた海上に舵を取るのですか」

使者
「赤き楯のメヒーの息子である我が軍の頭の猛きマグヌス、彼はロッホランの強大な王笏を振るう者にして強大な軍勢を指揮している」

フェルグス
「なにゆえ、軍事力を使い我らの海岸を探索しているのですか。
もしも穏便に彼を招くのなら、快適に過ごせるでしょう」

獰猛で傲慢に勝ち誇って、怒れるマグヌスは素早くこたえた。

マグヌス
「ワシはクウァルの息子から人質を取るためにやって来た。そして彼の妻と犬を利益としてもらおう。
彼のブランの足取りは風の如し。彼の妻は気立てが良く可愛らしい。
私の強靭な武力を証明して、それらを今にでもいただこうか」

フェルグス
「勇猛なフィアナ騎士団は果敢に戦い、あなたの自慢が実現してブランが目に映る前に、その軍勢は破れるでしょう。
フィンは、彼の妻が奴隷となって貞節を守れなくなる前に、高慢なロッホランの血によってアイルランドの碧き海の潮位を上げさせるでしょう」

マグヌス
「ではそなたのたおやかな手で誓うがよい。
フェルグスよ、ワシに聞かせてみろ。
フィアナ騎士団の栄光が眩くとも、お前たちは敢えて果敢に立ち向かうことができると。
さもなくばブランはすぐにでもロッホランの丘を越え暗褐色の鹿を追うことになり、力づくでお前たちに恐怖を教えて矜持を打ち砕くぞ。」

フェルグス
「あなたが武勇を恃みにしてその力を大声で喧伝しようとも、軍勢を恃みにして数によって私たちの浜辺を埋めてようとも、あなたの思い上がりにアイルランドの長は従いませぬ。私たちのブランが走る前にロッホランの丘を越える鹿はおりません。」

優しいフェルグスは使者の役目を終えて、いつも通りの穏やかさで帰っった。彼の心は不変の太陽の如く、彼の顔は晴々としていた。そして彼の父親である名誉ある寛大な輝かしい長の前に行った。

フィン
「なぜ私が、死の言葉を勇者の耳に入ることを躊躇するというのか。恐れを知らぬ心を持つゆえ、どのような知らせも聞こう」

フェルグス
「勇ましいマグヌスは即時降伏を命じて、決断の時を迫っております。
さもなくば凄惨な戦場を力で味わわせてやろうとのことです。
鹿を追って弾むように快速のブラン。
大広間を美しく飾る父上の優しい恋人。
そして彼の腕前と人を惹きつける勇敢な魂を証明すること。
これらの彼の厳しい要求で勝ち誇っております。さもなくば島の隅々まで彼の槍があなたの土地を荒廃させ、野に血肉で浮かばせると」

フィン
「私から優しい恋人を引き離して異邦の広間のお飾りして、快速のブランを引き離して異邦の鹿を追わせる?
ああ、まずこの生命の息吹を止めよう。この刃は無用の長物となり、地に倒れ伏し、死んで冷たくなる。この腕は無力となる。
ゴルよ、恐るべき軍団はこのような横柄な要求を耳にしてもなお冷静に黙ったままでいるのか。復讐のために飛んでいかないのか。
我らで向こうの高慢な軍勢を壊滅させ殺戮して追い払わない、奴らの傲慢さと今日という運命の日を後悔させないのか。」

ゴル
「この殺戮の腕によって、クウァルの息子よ、すぐに我らの剣は抜き放たれ、戦場を制するだろう。向こうの王は、幾多の波間の船団を我らの海岸に展開させている。彼こそがこのようにあなたの力を侮辱して我々の勇敢な軍勢を挑発しておるのだ。
すぐにでもこの腕が運命を決するだろう。そして、この復讐の刃によってプライドを持つその獰猛な黒い首級は分相応に塵にまみれるのだ!」

オスカー
「そうはならない!  向こうの王が強く高名であろうとも、このオスカーの腕前が証明されるだろう。すぐに彼の審判の十二部族は俺の兵の前から逃亡し、驕った王は、彼の猪の島を見ることなく死ぬだろう。」

マク・ルガド
「いいや、私のだ! 向こうの王は私の敵だ。奴の傲慢を阻み、栄光を失墜させるのは私の務め!
黒いロッホランの王と出会い、戦うのは私だ。危険こそ甘美であるからには、自ら進み喜んで命を危険にさらそう。」

ディルムッド
「いや、私が輝かしい栄光に向かって駆けて行こう! さもなくば死んでやる!
向こうの見知らぬ男に会って奴の自慢の腕を試すのは私だ。
私が戦おうというからには強かろうが奴はすぐに屈服するだろう。そうでなければこの両目は向こうの戦場で永遠の夜のうちに閉じられるだろう。」

フェーラーン
「私は今、光景を思い浮かべている。あのムーア人の(?)王とただ一人で決闘することを夢見ているのです。
そしてついに、幸運にも彼の黒い首を打ち、私の魂が私たちの名声を予感し、栄光が広がるのを見るのです。」

フィン
「武人たる諸君の魂に祝福あれ、願わくば勝利が諸君の功績を遠く離れた国まで伝えて名を馳せんことを。
しかし我が勇敢なる騎士諸君。運命のふるい分けがどうなろうとも、危機に際しては騎士団長ただ一人が長であり、そしてマグヌスは私の獲物だ。
彼の戦いをやり遂げる力が強かろうと私はそれに挑もう。その力からも怒りからもアイルランドの長は逃げも隠れもしない。」

それから各々が戦争用の剣を身に着けて、力を誇示しながら我らの軍勢は行進して、隊列を整えて戦いに心血を注いだ。
幸先の良い武器が我々の周りで煌めき、佩剣が下げられ太ももを飾り、戦闘用の槍が男らしい肩に掛けられていた。
隊長たちは誓った信念を証明するために、それぞれ熱烈な勇気を持って輝いている。我々は海岸にいる海岸に立ちはだかる敵に立ち向かうために出発する。
歓楽は夜を支配しない。私たちの食卓を明るくする蝋燭もない。サフランも、ごちそうも、ワインも、歌も暗い時間帯には何もない。
ついに我々は、朝露の上に灰色の朝日が昇るのを見る。東の空の一日目の夜明けにロッホランの軍勢を目の当たりにする。
私たちの前の混雑した岸辺には彼らの陰鬱な旗が上がり、彼らの艦隊には敵方の多くの長と王族がいた。
そして護衛あるいは襲撃のために多くが誇らしげで威厳のある盾と武骨な鎖帷子をまとい、誇らしい武具を振り回している。金色に輝く鋲付きの剣が多くあり金色の輝きを放っていた。そして多くの絹の旗が見事なまでに威風堂々と空を舞っていた。
そして饗応のフィンは戦いで名を馳せた多くの首長を率いており、多くの兜が勇士のしかめっ面に影を落としていた。
戦闘の隊列を切り崩すための多くの戦場の斧があり、多くの光り輝く槍が堂々と高くそびえ立っていた。
多くの軍事的名声を持つ長や強大な権力を持つ王子たちがその記念すべき日に、我々の旗の下に集結した。
竿を振ると、東方の富を象徴する宝石で飾られて輝きを放ち、空に日輪旗<ガル・グレーネ>が翻った。そして地位も名声も次いで高いゴルの旗<フラン・トリグ>が揚げられた。それは主の名に付き従い、敵にとっては恐ろしい存在である。しばしば、死闘に立ち会って、その力で勝利し、隊列の上に高く美しく翻り、激戦を制したのである。
遂に我々は動き出し、その時衝撃が走った! そして、鬨の声があがった。
岩から岩へと木霊する叫び声が響き渡り、海岸を揺らした。
十倍の力で神経は張り詰めて、誰もが胸を炎で輝かせていた。隊長たちは皆、喜び勇んで進み、約束された栄光へと駆けて行った。
敵は後退した。我らは猛烈に突進した。自由のため、さもなくば死ぬために。各々の武器は復讐に燃え、勝利に息をのんだ。
血塗られた戦場ではほとんど勝敗を決した。戦列を飛び抜けて、黒いロッホランの王とクウァルの息子が飛び出して炎のように現れた。(マグヌスは)敗走する軍勢に向き直って怒りと悲しみの眼差しで見て、それから怒れる空から降り注ぐ太矢の如き速さで、彼らは復讐のために猛烈な勢いで駆けて行った。
どちらの長も、自らの全軍から発する怒号じみた声援を受けた。そして賢者(パトリック)よ、疑いたくなるような恐ろしい光景が繰り広げられた。
まるで二人の筋骨たくましい炎の息子が暗い金床で出会ったとき、雷のような音を発して絶え間なく腕によって金槌が打ち力強く鳴らされるかのようであった。王たちは激しく争い、怒りからそのように剣を振るい、彼らの武器からそのように雷が鳴り響き、輝く炎が昇っていった!
黒いロッホランの引き潮が終わりを告げるまで、悲惨な戦いが繰り広げられ、手は血に塗れていた。
強きフィンの足元に彼は横たわり、血で染まった野に縛り付けられていた。もはや、その武勇を誇ることも、敵意を持って武器を振るうこともない。
それから、性根が卑しいハゲのコナンが話した。

コナン
「槍の王を捕らえておけよ、正義と復讐の一撃で、俺が我々の将来の不安を取り除くまではな!」

マグヌス
「度量の小さい男だ、お前は! お前には慈悲も誉れもない。
お前の歓心を買わないように、私は自らの魂を貶めるだろう。
英雄の好意の下で、英雄の腕の下で私は死ぬのだ。」

フィン
「私にとって栄誉なことにそなたの武威を屈服させたからには、
今や私の武器はそなたの敵を撃退するし、訴える者を傷つけることもしない。
武運に恵まれなかったと言えども、そなたは英雄であるから。
それゆえ、名誉を損なうことなく自由の身として立ち去るがいい。
さもなければ、選べ。豪傑のマグヌスよ、そなたの行く道を選べ。
寛大な敵と和平を結ぶか、敢えて再戦するか。
このように挑み、挑まれる永遠の戦いに身を投じるよりも友誼を結び和を講じるほうが良かろう。」

マグヌス
「我が武器を、フィンよ、そなたに振り上げることは生涯決してないぞ!
メヒーの息子はそのように恩知らずな戦いを決してしない。
雪の丘の上には、ワシの若い衆がまだ残っていたが寛大な敵に対して不毛な戦いを続けることもない。
彼らは腕に覚えありと喜び、名声を栄光で高め、そして多くの戦利品を持ってにぎやかになって、そして希望に沸いた。
死体の山の悲しき不運、運命の時よ!
あまりに強大なアイルランドよ、お前の力の前に、青白い犠牲者が、ここに横たわっておる!」

このようにしてアイルランドの波音が鳴る海岸で激戦に勝利した。
そして、僧侶よ! 強き手の偉大なるクウァルの息子はこのように振舞ったのだ。
ああ、私の耳にとっては、熱心な聖職者が祈るところで聞く讃美歌よりも、あの日の大勝利の余韻がはるかに甘美だ。
僧侶よ、お前はその熾烈な武勲と武力によって知られる戦い、私が語るロッホランの恥ずべき物語を聞いた。
そしてその手に汚点のない僧侶よ!
お前が岸辺に居たら、我らの騎士団長が活躍できた戦を見ることができたものを。彼らの振るった武威を。
ロイガレの心地よく流れる小川から、お前が戦いを見ていたら、フィアナ騎士団は比類なき力を授けられたという感想を持っていただろう。
お前が私の物語を知ったら、記憶の傷から血が流れ、悲しみが私を押しつぶす。
それでも私はかつての戦功について語り、かつての名声の中に生きよう。
今や昔、人生という流れは凍り付き、私は全ての喜びを失った!
この萎れた手では剣を振るうことも、槍を握ることもできない。
お前の部下の僧侶たちの中で私は最後の悲しい時間、その憂鬱な情景を引きずる。詩篇は今や勝利の高尚な歌の力を埋め合わせなければならないのだ。』

解説

訳文中にヴァイキング(ロッホラン人)を形容する黒い、暗いという言葉がありますが、これはヴァイキング内の派閥を表していたとされます。黒い外国人(ドゥブガル)と白い外国人(フィンガル)という言葉に表されるように、アイルランド人がヴァイキングを白と黒で区別していました。何を基準にしてドゥブガルとフィンガルを区別していたのかは諸説ありますが、一般的には比較的初期のヴァイキングをフィンガル、後期のヴァイキングをドゥブガルとしているようです。

そして、文中にマグヌスをムーア人の王と呼ぶ箇所がありますが、これはRig bfear ngormという言葉を訳したものです。字義をそのままに直訳すると青い人々の王となりますが、実際には黒人の王の意味です。これは黒い人(fear dubh)が悪魔の意味になるため、黒人を青い人と呼称していたことによります。
しかしマグヌス大王の出典である『Reliques of Irish poetry』では、なぜ黒人(ムーア人)が出てくるのかは定かではないとしています。
もしかすると、上記の黒い外国人(ドゥブガル)を黒い人と言い換えようとしても、悪魔の意味になってしまうため、便宜的に青い人と言い換えたものなのかもしれません(この推測は個人的な見解です)

さて、ここで紹介した物語ではいずれもマグヌス(マヌス)というロッホランの王が敵役として登場していますが、マグヌスは北欧人にはありふれた名前でした。アイルランドで最も有名なマグヌスといえばノルウェーのマグヌス裸足王です。
このようなロッホラン人たちがアイルランドの物語に登場するようになるのは、「アイルランド人と外国人の戦争」というプロパガンダのためにやや誇張された年代記が書かれてからのことです。そしてその流れはフィアナ騎士団の物語にも編入されることになります。

出典

Reliques of Irish poetry : consisting of heroic poems, odes, elegies and songs
Waifs & Strays of Celtic Tradition ...: Argyllshire series ..., Volume 4

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