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フィアナ伝説:蝋燭の岩

リムリックから西に数マイルのところに、かつて厳めしいキャリゴグネルの城があった。裂けた塔や破壊されたアーチの通路が、その市に続けられた包囲戦を悲しく物語っていた。

しかし時間というのはあらゆる物事を大いに安らげるもので、近頃の乱行を目の当たりにしたことによる心痛はすっかり慰められていた。蔦が裂けた塔の周りを這って傷を隠し、巻き付いて支えていた。アーチ付きの通路は裂け目を橋渡しするような茨の長い枝によってつなぎ直されていた。そして砕けた控え壁は裂け目や破損から繁々と生え出る野の花によって飾り付けられていた。

岩の上に堂々と据えられていた、廃墟と化したキャリゴグネルの城壁は今や単なる平和な風景の中のロマンチックな記念碑となっている。その崖下の一方は平たんになっていてコーカス・ランドと呼ばれる沼地が尊きシャノン川に接していた。反対側には聖職領の家屋と周囲の開拓地があるキルキーディの小奇麗な教会区が見え、少し離れたところにターヴォーの神聖な森とバリーブラウンの小さな村の不揃いな土壁の小屋があった。

さてキャリゴグネルの岩の上に、その城が建つ前だったか、ブライアン・ボルーが建設を行う前だったか、そこにはグラナという名の老婆が住んでいた。

彼女は周囲一帯を無人にしてしまっていて、巨人で恐ろしい風貌をしており、眉は顔に深く垂れ下がるようにおどろおどろしくうねりながら繋がって、その縮れ毛の下の双眸は邪悪な外見の迫力を見せつけていた。皺くちゃの額から鉤鼻がしなびた両頬を分けるように突き出ていた。薄い唇は残酷さと凶暴さを表すように歪み、出っ張った顎はおぞ気がする髪の房で覆われていた。

殺しは彼女にとって遊びだった。竿を持つ釣り人のように、老婆グラナは苦にもせずに執拗に見つめていたので、犠牲者が死ぬことが不寝の見張りの報酬となっていた。毎日夕べになると彼女は魔法の蝋燭を岩の上で灯しており、誰であろうとその灯を見た者は翌朝の日の出までに死んだ。数えきれないほどの犠牲者が彼女を楽しませた。その灯りを見た者は次々と死んだ。このようにして一帯は死に絶え、キャリゴグネル、つまり蝋燭の岩という忌み名の由来となった。この時は生きるのも恐ろしい時代だった。しかし、エリンのフィアナ騎士団は虐げられた者たちの仇討ちをした。

彼らの名声は遠く離れた岸辺にも轟き、業績は百の詩人に歌われた。彼らは危険を盛大な宴への招待と言い換えていた。魔法の罠が彼らの進みを止めることは敵の剣によることくらい稀なことだった。フィアナの英雄たちの勇気を失わせるのは多くの息子を持つ母、夫を持つ妻、兄弟を持つ姉妹だった。戦いにおいては彼らの進むところ切断された四肢が痙攣し、首が刎ねられ地を転がった。彼らは木々を根こそぎにする暴風の如き勢いで突進した。鬨の声は轟く―雷鳴の如く、衆人を遥かに上回る獰猛さは怒り狂うようで、大海原の荒波のような激発は恐ろしいものだった。

声を上げてグラナの死を招くの蝋燭を消すように命じたのは偉大なるフィンだった。

「そなたに任せよう、リガンよ」

と言って、ロッホランの魔法使いルノによって三度魔法をかけられた帽子を彼に授けた。

夕方の星が輝き、岩の上に死の蝋燭が灯されると、リガンはその下にいた。灯火のかすかな明かりを見てしまったからには彼もまた非業の死を遂げ、老婆グラナは日の出とともに彼の末路を喜ぶはずだった。

リガンがその明かりのほうを見た時、魔法の帽子が彼の目を塞いで視界を遮った。岩が急こう配だったが、彼は細心の注意を払って身軽に切り立った斜面を登り、老婆が気づく前に、頭部を守りながら蝋燭をつかむと並外れた力でシャノン川に投げ込み、川の水でシューッと音をたてて永久に灯りを消したのだった。

それからリガンの目を塞いでいた魔法の帽子が飛んでいくと、彼は蝋燭の後に彼を捕まえてさらってしまおうと腕を大きく広げている老婆を見た。リガンはすぐさま岩から西へちょうど2マイルの距離を荒々しく驚異的な跳躍力で飛んだ。飛んで逃げたのをグラナは見つけると岩の巨大な欠片を引き裂いて、まるで鍛冶師のふいごが動くように幅広の胸部が激しく膨らんで波うつほどの恐ろしい力をこめてリガンに向けてそれを投げつけた。

とてつもなく重い石は誰も傷つけることなく地面に落ちて、リガンは怒り狂う老婆の暴力を抜け出して跳び去ってフィンのもとに凱旋した。

「勇敢な英雄であることよ、そのうえ名高く、学識があり、
白い歯で、品位があり、度量が広く、行動力がある」

老婆グラナについてはこれ以外のことは聞いたことがない。しかし老婆の指の痕跡が深く刻まれまだ見ることのできる石は実在している。石は背の高い男性よりも高く、四十人力であってもその石が落ちた場所から動かすことができないだろう。牧草地が枯れ、鍬や犂が土くれの山を砕き、城壁が崩れ落ちて滅びるとしても、エリンのフィアナ騎士団の名声は岩と共に語り継がれるであろう。そしてリガンの石は業績の記憶を残すのにちょうど良い記念碑である。

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