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バレンの民話:ロン・マク・リーヴァの伝説

キルナボーイ教区の北部は、アイルランドで初めて刃の武器を作ったといわれている鍛冶師ロン・マク・リーヴァが飼っていたグラス・ゴヴネハと呼ばれる聖なる牛のスリーヴ・ナ・グラシェの山の近くにあるティースカッハという町の土地だった。
彼はダナン神族の生まれで、彼のすぐ近くに住んでいる者以外のスコット人には知られていないこの山の洞窟に住んでいた。
このロンは三本の手と一本の足を持つ素晴らしい存在だった。
その両手は普通の位置にあったが、両腕がハンマーを振う間に金床に載せた鉄を回していた第三の腕は彼の胸の真ん中から生えていた。
彼はそのいで立ちからわかり切ったことではあるのだが、普通の人間と同じように歩くことはなく、腰と太ももの弾む力によって台座から跳ね飛び、滅多になかったことなのだが、彼が海外に行くたびに谷や丘を飛んで越えていったのが見かけられていた。
彼は技能が求められるずっと前からアイルランドに住んでおり、それ以前の時代ではアイルランド人は鉄や鋼の武具を用いずに石や固い火打石、青銅の先端をつけた棍棒で戦っていた。
ロンはグラス・ゴヴネハと呼ばれる値打ちのつけようもない牛に支えられており、彼女(牝牛)は美しい小川や生い茂る牧草地が豊富にあり鍛冶場からそう遠くないスリーヴ・ナ・グラシュの山で放牧されていた。
この牛は彼がスペインから盗んできたのだが、それと様々な場所で過ごした後にやがてここに腰を落ち着ける決心をした。
それというのも遠く離れた自然の要害であり、近寄りがたい立地であることで敵から守られており、また、ここ以外ではグラスを十分に養うことができるほど肥沃な他の物静かな土地がアイルランドにはなかったからだった。
この牛は絞った乳が入る容器がそれほど大きくなかったのだとしても、どんな入れ物であろうと満杯にできて、近隣ではグラスが一回の搾乳で満たすことのできない入れ物は見つからないと言われるようになった。
とうとう、二人の女性がこの点について賭け事をして、ある女性はアイルランドには鍛冶師の牛が満たせない入れ物はないといい、もう一人はできると言った。
この賭けは保証できる監督下に置かれ、後者の女性はスリーヴ・ナ・グラシュにざるを持ちこんでロン・マク・リーヴァの同意を得て牛の搾乳をした。
そして見るがいい!
牛乳はざるの底を通り抜け、地面にこぼれて溢れるやいなや≪セフト・スロー・ナ・タイスタイー≫と呼ばれる七つの小川となった。
溢れることを意味するティースカッハはスリーヴ・ナ・グラシュの西に広がる町の土地の名前になった。
グラスの大量の牛乳の”洪水”によって形成された水路を清らかなる水が流れ、そのうちの一つは冬の間に素晴らしい滝を作った。
スリーヴ・ナ・グラシュの東にはグラスのベッド≪レーバ・ナ・グラシュ≫と呼ばれる場所が見られるのだが、そこではこの牛が毎晩眠っていたと言われている。そしてもう一つ、その近くには子牛のベッドと言われる場所があった。
この牛の蹄は逆さになっていて、追跡者(多くは彼女を連れ去ろうとした)は彼女の進む道で騙されてしまった。
今日でも彼女の蹄の跡はスリーヴ・ナ・グラシュの近くの地域のあちこちで岩に残っているのを見つけることができる。

その渓谷の中のガラド・ナ・ケールタンという野原にロン・マク・リーヴァの鍛冶仕事の燃え殻と灰が見つかる。

この鍛冶屋には七人の息子がいて、一週間で毎日に一人が順番に一日中この牛の世話をしていた。
彼らは尻尾をつかんで彼女の番をして、彼女を振り向かせなかったが、日没まで彼女が放牧したいところならどこへでも彼女を放し、彼らが彼女の顔を彼女のベッドに向けた後、彼女はじかに住処へ帰った。
彼女のベッドと呼ばれるその場では草が育つことも育てることもできなかった。
この山の頂上のレーバ・ナ・グラシュを越えると、多くの貧しい家族らが住まう驚くべき支石墓がある。
それは農民たちにディルムッドとグラニアのベッド≪レーバ・ディアルマーダ・アグス・グラーネ≫と呼ばれていて、ディルムッド・オディナが彼女の夫フィン・マックールからグラーニアを連れ去った時に彼女を保護するために作ったと信じられている。

話をロン・マク・リーヴァに戻そう。ダナン神族は征服されて妖精塚≪シイ≫で魔法使いや魔女として、あるいは洞窟や根城で盗賊や強盗≪トーリー≫、浪人として生きることを強いられていたので、彼は長い間、スリーヴ・ナ・グラシュでひっそりと隠れて住んでおり、その技能をどんなことにも利用することでスコット人戦士たちには全く知られていなかった。
しかしついに彼はアイルランドの君主に仕えることに決めて、ホウスの丘と今呼ばれているベン・エディン・マク・ガンリーに戦士たちと共に駐留していたフィン・マックールの名声を聞きつけた。
ある晴れた朝に彼は話し合うために出発した。
全ての谷や丘を飛び越えて有名なベン・ヘダールの岬に着いたので旅に大した時間はかからなかった。
そして彼がフィアナの長の前に参じた時にその場で慣例として、名前と出身地と技能と仕事について尋ねられ、その質問に彼はこのように答えた。
「私はロン・マク・リーヴァだ。 私はあらゆる技芸の妙技に精通しているが、私の専門技能は鍛冶技術であり、現在私はロッホランの王に仕えている。」
「私はあなたがたに”私が鍛冶場に着くまでに追いつかねばならない”という制約≪ゲッシュ≫を課した」
それから彼は踵を使って丘を越え谷を越えてフィアナの誰も追うことができないだろうと確信してスリーヴ・ナ・グラシュに遅滞なくたどり着いた。
だが細く硬い脚のカイールテという名前のフィアナで最も速い者に彼は追われていたのでそれは間違いだった。彼はレーバ・ナ・グラシュの彼の鍛冶場のまさに入り口で追いついて、手のひらでロンの後頭部を軽く叩いて言った。
「お待ちを、鍛冶師殿、お一人で洞窟に入らないでください。」
「よくぞ成し遂げた、そして歓迎する。輝かしいフィンの真の戦士よ。」
ロンは言った。
「私のダナン神族を攻撃することに手慣れているあなた方を訪ねたのは魔法や呪文といった目的のためではなく、あなた方に強力な剣と刃の武器を作って容易に敵を倒し名声を高めることができるように私の鍛冶場に来させようと誘導していたのだ。」
カイールテと鍛冶師は一緒に鍛冶場で働き続けて、三日目の終わりにフィンと他に七人の戦士が加わり、鍛冶師は八振りのよく鍛え上げられた鋼の剣を彼らに売り渡した。
モーナの息子たちのゴルとコナンは彼ら自身のためのいくつかの剣を作り終えると彼らがあまりにも力強かったので鍛冶師の金床を壊してしまった。
それから後、ダナン神族の一派が拠点を構えていて素晴らしい緑地と美しい丘につながる主要な峠道≪コラ≫に見張りが配置されているキン・スリーヴに、フィンと七人の戦士たちは進んでいった。
これらは、バリーポートリー城近くのコラ・マク・ブイリン、そこから西に1マイルのコロフィン、コロフィンから西に1マイルのコラ・マク・エオグハイン、さらに西のコラ・ナ・マイディデの土手道だった。
フィンと七人の戦士たちはそこを根城にしていたダナン神族の一党を攻撃し、鍛冶師が彼らのために作った剣で細切れにした。
そしてキン・スリーヴの頂上には今でもフィンの座≪スジェ・フィン≫と呼ばれている場所があり、ダナン神族の骨が埋葬された墓からは日常的に出土している。
鍛冶師ロンと彼の牛が最後にどうなったのかはわからないが、その後まもなくして牛はアルスターの男に盗まれ、自活のために交易に頼らざるをえなかったと信じられている。

ドニゴール州のトーリー島の道の向こう側にあるデリーのバリーナスクリーンとキャバン州のグレンガヴレンで私が書いたこの牛についての同様の話をご覧ください。
この牛はアイルランドの伝承の宝庫のようですが、これまで文献に彼女の記述が見つからなかったのは不思議なことです。
グラスチームラッハと呼ばれる牛はタラの古代地誌で作家によって言及されており、その丘に彼女を称えて塚が建てられたようですが、私が知る限りでは彼女についての伝説は現代に伝わっていません 。


John O'Donovan and Eugene Curry, 'The antiquities of County Clare': letters containing information relative to the antiquities of the County of Clare collected during the progress of the Ordnance Survey in 1839. Ennis, Clasp Press, 1997.

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