フィアナ伝説:ケシュコランの魔法の洞窟

アイルランド人の勇敢で壮麗なフィアナ騎士団とともにバスクナの子孫、トレンモールの息子のアートの息子のクウァルの息子のフィンによって、リイニーの国の中で、ブレフネの州内のグレンダランの道なき険阻や木の実と果実の豊かなカーブリー地方、カイルコナーの森の強かな隠れ家、モイコナルの広大な平原といったコランの境界の至るところで盛大な狩猟が召集された。
それからフィンはケシュコランの頂きにある狩場の丘に座った。その時に二匹の猟犬、ブランとスコーラン、そしてモーナの息子のコナン・マイルだけが彼と共にそこに滞在していた。猟犬の遠吠えや、若者のはっきりとした歓声や、運動する戦士の叫び声や豪傑の野太い声や、フィアナ騎士団のさまざまな口笛に耳を傾けることはフィンにとって喜ばしいことだった。なぜなら、国境を接する国々でさえ、彼らが発した狩猟の叫び声は自由に聞こえたからだった。これらによって鹿が野から追い立てられ、アナグマが巣穴から追い出され、鳥が飛び立つように狩り立てられた。そしてその時に猛々しい執拗な猟犬が紐から解き放たれて丘を進んで行った。
しかし、その時にコランを支配していた統治者であるトゥアハ・デ・ダナンの長のイムデルの息子のコナランは不当な犬の鳴き声に気づや否や、フィンに狩猟の復讐をしに行くように三人の娘に命令した。その女性たちは丘の洞窟の入り口を探して隣り合わせに座った。そして三本の曲がりくねったヒイラギの枝の上で、同じ数の出来た異教の魔法がかけられた糸の紡錘をぶら下げて、それを洞窟の前で左回りに巻き始めた。ほどなくしてフィンとコナンはその洞窟の端まで来ると、三人のおぞましい魔女がその入り口に座っていることに気づいた。彼女らの髪は荒れ放題だった。目は水っぽく充血していた。三人の口は黒く不格好で、鋭く刺々しい湾曲した一対の犬歯がどの邪な女性たちの歯茎にもそなわっていた。そして見にくい老婆の顔を骨ばった首が支えていた。六本の腕は極端に長く、その全ての指を飾っているのは根本が太く先端が鋭い牛の角のようにおぞましく獣じみた爪であり、六本のがに股な足は毛むくじゃらであり、三人の手には三本の固く鋭い糸巻き棒があった。
その鬼婆たちを見るためにフィンとコナンは紡錘を通り過ぎた。そこで彼らは死の身震いに囚われ力を失ってしまったので、その勇敢な魔女たちによって不可解なほど速く縛られた。そして別のフィアナ騎士団の二人組とネヴァンの息子たちが来た。彼らは糸をたどってフィンとコナンがいる場所に行った。そして彼らも力を失って、同じ魔女たちにきつく拘束された。その後、これらの戦士たちは洞窟内に運び込まれた。
しばらくしてオスカーとマク・ルガハがそこに来て、善良で高貴なバスクナ氏族の者たちを伴っており、モーナ氏族の者たちもその場にいた。だが新たに発揮された女性たちの力に誰一人として全く及ばなかった。そしてコクランの一族が現れたが糸を見ると同じように力と勇気を失った。手短に言ってしまえば、スウォールの一族と全てのフィアナ騎士団は争うことなく呆気なく囚われてしまったのだった。それで魔女たちによって彼らは助けもなくきつく拘束された囚人のように、暗く不気味な穴の中に、暗く複雑な迷宮の中に移された。
しかし洞窟の入り口の前では離れて行ってしまった領主や飼い主たちを求める猟犬たちがけたたましく吠えていた。丘の斜面にはここまではるばる運ばれ縛られていた骨の裂けた傷だらけの鹿や完全に死んだ猪、切り刻まれたアナグマ、苦しめられた兎が横たわっていた。
そこにあの大きく不敵な女戦士たち三人の魔女たちがやってきて、手には三本の大きな溝のついた硬く切れ味の良い剣を持っていて、フィアナ騎士団の者たちが拘束されていた場所に向かった。彼女たちはもしかすると殺してしまえるフィアナ騎士団の誰かはぐれた者を見つけることができるかもしれないとは周囲を見回したがそうすることはできず、躊躇せずにフィアナ騎士団をバラバラに切り刻もうとその要害の中に入ろうとした。しかしその後すぐに、武器の扱いに熟達している者であり、背が高く白い歯の容貌魁偉なる戦士を見つけた。彼こそまさしく、怒り狂った獅子にして戦いの狂気にして襲撃の日の燃え盛る松明、コノート王カルブレの息子のマガハの息子のケトの息子のシャズベShaidbeの息子のアイド・キン・クラリの息子の詩人アイドの息子の黒膝のガラズガラズ・グルンドゥブの息子のマホンの息子のコーマックの息子のモーナの息子の気高き魂のゴルである。三人の黒く恐ろしく不気味な魔女たちは彼に気づくと、たまらず彼に会いに行き、双方ともに追い詰め合って勢いよく残酷な戦いを繰り広げた。ともあれ、英雄の怒りは燃え上がり、無礼で狂った完全に醜い魔女たちに対する必殺の優しからぬ一撃を繰り出し、ついにその時正面にいた対の魔女、カイウォグと赤い頭のクレンに真っすぐ剣を振り、凄まじい一太刀で正確に同じ大きさになるように両断した。この斬撃はこれまでのアイルランドでも最も強力な斬撃の三指に入るものだった。つまりそれらは、クーリーの牝牛のための大襲撃の最後に赤きロスの息子のフェルグスが放って三つのミースのマイルはげ山を斬り落として一掃した太刀筋、そしてコナル・ケルナッハがマガハの息子のケトに放った太刀筋、そしてイムデルの息子のコナランの二人の娘のカイウォグと赤い頭のクレンを殺したゴルの太刀筋のことである。
他の二人の子をの首を刎ねたその時、コナランの年長の子であるイアラン・ニー・コナランがゴルを後ろから羽交い絞めにした。しかし彼女がそうしたにもかかわらず、ゴルは力づくで彼女を正面に来させて今度は彼の番だとばかりに長い腕で締め上げた。このようにして彼らは組み合った。勇敢に力強くつかみ必死に奮戦したが、とうとうゴルは剛力でひねって彼女を地面に放り投げた。彼女を盾の紐できつく縛り、細切れにしようと彼は剣を抜いたが彼女はこのように話した。
「決して戦いで後れを取らない戦士、戦争でも一騎打ちでも決してたじろがぬ男よ、おまえの寛大さと勇気による保証にわらわの身柄と命をゆだねよう。それにフィアナ騎士団の一人として血を流すことなく保護できたほうが絶対によかろう。わらわが崇拝する神々にかけて、差し出すものの全てがおまえの期待に添うことを誓約しよう」
それから王者の戦士は彼女の拘束を解いた。そして彼らは二人でフィアナ騎士団とフィンがきつく拘束されている丘に行った。ここでゴルは次のように述べた。
「まず真っ先にフェルグス・フィンベルとフィアナ騎士団の学者から解放しろ。そしてその後にフィンとオシーンと九十二人のモーナ一族とフィアナ騎士団を同じように解放せよ」
このようにして魔女は彼らを解放した。すぐにフィアナ騎士団は洞窟から立ち去って、丘の斜面に座った。そしてフィアナ騎士団の詩人であるフェルグス・フィンベルがゴルを見て彼の成し遂げた功績を褒めたたえた。
そしてすぐに彼らは近づいてくるもう一人の邪悪なおぞましい生き物を見かけた。彼女は、理不尽な見た目の奇形であり、毛むくじゃらで灰色の眉毛とまつ毛の毛先には小さなリンゴか大きなスモモ(のようななにか)をしっかりとくっつけていて、こぶができた脈や筋でいっぱいの節くれだった老婆の姿をしていた。彼女の両目は水っぽいにも関わらず頭の中で燃えていた。
不気味に青みがかった巨大でぺちゃんこな鼻は黒く歪で皺くちゃな口元を乗り越えており、その裂けた口には恐ろし気な乱杭歯が生えていた。腕は細いが筋肉は頑丈で、軍用犬のような恐ろしく長い爪をそなえていた。強く壊れることのない鎧を身に着け、太ももには幅広の溝が彫られた直刃の剣、そして肩から戦士の図案の楯を提げていた。
このような出で立ちで彼女はフィンの前に立つと、彼の部下の中から一騎打ちさせることを誓約させた。そしてフィンはオシーンに言った。
「息子よ、向こうにいる恐ろしい魔女を追い払ってまいれ」
しかしオシーンはこのように答えた。
「私は別の姉妹たちから手ひどく扱われていて、そうすることはできません。彼女はコナランの娘のイアランであり、姉妹の復讐に来ています」
そしてこのようにして、オシーン、オスカー、コナン、マク・ルガハ、ディルムッド、カイールテ・マク・ロナン、カリル、そして他のフィアナ騎士団の隊長たちはこの魔女との戦いを断ったので、フィンは彼自身が彼女のところに行くと言った。しかしそこでモーナの息子のゴルが言った。
「フィン、あなたが醜い老婆と戦うことはない。それゆえ私が彼女と戦おう。『助けが最も必要な時こそ友情が証明される』というものだ」
さて、ゴルは早速彼女と戦いを交えに行き、彼らは勇敢に打ち合い、死闘を繰り広げて、その間にたじろぎだり恐れたりすることはなかった。だがとうとう、ゴルは楯の紐に手をかけて、恐ろしき剣を取ると一切の迷いのない太刀筋で盾芯ごと彼女の心臓を切り裂き、振りぬいた。このようにして彼女は死んだのだった。
ゴルはイムデルの息子のコナランの三人の娘を殺したその次に、ケシュコランに進んで行き、妖精の宮殿を煌々と燃やした。同時にそこで見つけた全ての宝物をフィアナ騎士団に引き渡した。このようになった後、フィンは自らの娘であるカイウ・クニースゲルをゴルに嫁がせたのだった。有名な子ども、モーナの息子のゴルの息子のフェドを出産したのは彼女であり、彼は17歳ちょうどでまさに同じ砦の中でフィアナ騎士団に殺された。
ケシュコランの魔法の洞窟はこれにておしまいである。

出典
Standish Hayes O'Grady, The Enchanted Cave of Keshcorran in Silva Gadelica. volume II, London, Williams and Norgate (1892) page 343–347


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