フィアナ伝説:フィンの少年的武勲

かつてトレンモールの息子のクウァルとルアグネ族のルガズ・コルの息子のウルグリウの間で、フィアナ騎士団の指揮権とアイルランド王宮の裁量権を争って戦いが起きた。クウァルはクル・コントゥインのコルク・オイーフェの者である。なぜなら彼の一族であるウィ・タイルシクはコルク・オイーフェに属していたからだ。そしてエルナ族のエハマンの娘のトルバは、クウァルが白い首のムルネと結婚するまで彼の妻だった。
さてクウァルとウルグリウはクヌハで戦った。そしてムレダハの息子の豪傑カルブレの息子の美しきエオハドの息子の赤のダーレと、彼の息子のアイドはウルグリウの側について戦った。ダーレの別名は曲がった首のモーナである。そしてルフェットとモーナの息子のアイドは、戦場で遭遇した。ルフェットがアイドを負傷させ、目を潰したことから一つ目という意味のゴルと彼は呼ばれるようになって、ルフェットはゴルに討ち取られた。そして戦場でクウァルの宝の袋を守る者がクウァルを負傷させた。クウァルはモーナの息子のゴルに討ち取られ、戦利品と首級が持ち去られたことによりフィン・マックールとモーナの息子たちの間に確執が生まれた。
そこから語り部は歌った。


フィンマグのムレダッハの息子の
荒々しいカルブレの息子の
美しく強いエオハドの息子の
赤きダーレの息子の、名の知れたゴル、
ゴルは数百のルフェットを殺した
クヌハの戦いで、偽りなく。
輝かしき武勲のルフェットは
モーナの息子によって討ち取られた。
彼によって偉大なるクウァルは命を落とした、
クヌハの戦いの軍勢の中で。
彼らが激戦に臨んだのは、
アイルランドのフィアナ騎士団の指揮権のため。
そしてタラの都のルアグネ族とともに
モーナの息子たちは戦った、
全ての強大な王の側にあることで
彼らに運命の島アイルランドのフィアナの軍役が委ねられていたのだから。
勝利すべきクウァルには息子がいた。
血塗れの硬き武器のフィン。
絶大な名声を得たフィンとゴル、
強大な彼らは戦った。
その後に彼らは和平を結んだ、
フィンと数百の武勲のゴル、
ルアハーのタラの豚をめぐって
バンブ・シナが死ぬまでは。
アイドはダーレの息子の名前だった、
ルフェットが誉れを以て彼を負傷させるまでは。
恐ろしい槍が彼を傷つけたので、
それゆえゴルと彼は呼ばれた。


クウァルは彼の妻のムルネを妊娠させていた。そして彼女は男の子を産み、ディヴネと名付けた。コンヘンの息子のフィアカルと女ドルイドのボドヴァルとリア・ルケアリアス・ルアフラはムルネのところにやってきて、男の子を連れ去っていった。なぜなら、母親は彼を一緒に生活させようとしなかったからである。その後にムルネはラヴレーゲの王、赤き手のグレオルと臥所を共にした。その縁でグレオルの息子のフィンいう名前でも呼ばれるようになった。さて、ボドヴァルとリア・ルケアリアス・ルアフラは男の子とともに、ブルーム山地スリアヴ・ブラズマの山中に入った。そこで少年は密かに育てられた。ルアグネ族やモーナの息子たちの頑健な若手たちや悪意を持った恐ろしい戦士たちや獰猛な勇士たちが、その少年とクウァルの息子のトゥルハを待ち伏せしていたのだからやむを得ないことだった。このようにして長い間、二人の女戦士たちは彼らを育てた。
それから六年が経過した頃に母親は息子のもとを訪れた。なぜなら、彼女は彼がそこにいると聞かされていて、そのうえモーナの息子たちのことを恐れていたからだ。しかし彼女は荒野を転々として、ついにブルーム山地の森にたどり着いた。彼女は狩り小屋の中で少年が眠っているのを見つけた。そして彼女は男の子を胸に抱きしめた。彼女はその時、妊娠していた。それから彼女は四行連句を作って息子を撫でた。
「安らかにお眠り――」
その後にその女性は女戦士に別れの挨拶をして、少年が一人前の戦士になれるように世話をするように頼んだ。そして少年は狩りができるまでに育った。
ある日、少年は一人で出かけて湖にアヒルの群れがいるのを見かけた。それらに射撃して、羽根を斬るとそれは恍惚に陥り彼は捕まえて狩り小屋に持ち帰った。そしてこれがフィンの最初の狩猟だった。
その後に、彼はモーナの息子たちから逃れるためにとある鍛冶師たちと共にクロタに行った。フス、ルス、マグ・フェアのレグナ、テヴレ、オルヴェ、ロギン。これらが彼らの名前である。そして彼の身にに物凄い不幸ハゲが降りかかった。毛が抜けて、禿のディヴネディヴネ・マイルと呼ばれた。その当時、レンスターにはコドナの息子のフィアカルという略奪者がいた。それからフィアカルはフィーグリで鍛冶師たちのところに来て、ディヴネ以外の全員を殺した。その後、彼はコドナの息子のフィアカルと共にセスキン・ウァルベルにある彼の家にいた。二人の女戦士が南のコドナの息子のフィアカルの家にディヴネを捜しに来て、彼は彼女らに引き渡された。そして彼女たちは彼を南から最初の場所ブルーム山に連れて行った。
ある日、彼は一人でリフィー川の平野のとある城塞に出かけた。そして城塞の緑地では若者たちがハーリングをしているのを見かけた。そこで彼は徒競走やハーリングでの勝負をしに行った。次の日、彼は再びやって来て、彼らの四分の一が彼に対した。そして再び彼らの三分の一が彼に対した。とうとう彼らは全員で対応したが、彼は全員に競技で勝った。
「お前の名前はなんだ」
彼らは言った。
「ディヴネだ」
彼は答えた。そして若者たちはそのことを城塞の男に話した。
「殺せる方法を知っているのなら、できるものならば殺せ」
とりでのおとこは言った。
「我らでは彼をどうにもできません」
「名を名乗ったのか?」
とりでのおとこは言った。
「言いました、彼の名前はディヴネです」
彼らは言った。
「どのような外見なのだ」
とりでのおとこは言った。
「美しい金髪フィンの子供です」
彼らは言った。
「では、ディヴネはフィンと呼ぶのがふさわしいだろう」
そこから若者たちは彼をフィンと呼ぶようになった。
彼は翌日も彼らのところにやって来て、彼らと勝負した。彼らは一斉にハーリング用の棒を彼に投げた。だが、彼はそれらの向きを変えて、そのうち七つを地面に投げて刺したのだった。そして彼はブルーム山の森に行った。
それから彼は一週間かけて最初の場所に戻った。そしてあの若者たちが近くにある湖で泳いでいた。若者たちは彼にやって来て溺死させてみせろと挑発した。そこで彼は湖に飛び込んで彼らのところに行き、彼らのうちの九人を溺死させた。そしてその後に彼はブルーム山に行った。
「誰が若者たちを溺死させたのか」
皆が言った。
「フィンだ」
彼らは言った。その出来事からフィンという名前が彼に根付いたのだった。
そしてある日彼が前に進んでブルーム山を通った時に、二人の女戦士たちの彼と一緒にいて、野生の鹿の群れを山の峰で見かけた。
「ああ!あれらの一匹も捕まえられないなんて」
二人の老婆たちは言った。
「できます」
フィンはそう言ってそれらに向かって駆けて、その中から二匹の牡鹿を捕まえて狩り小屋に運んだ。その後に続けて彼はそれらを狩るつもりだった。しかし女戦士たちは彼に言った。
「さあ、行きなさい、若者よ。モーナの息子たちがあなたを殺そうと目を光らせていますから」
そして彼は彼女たちと別れて一人で進み、ルアハーのレーン湖にたどり着いた。そこで彼はバントリーの王に軍役奉仕した。そこでは彼は自分のことを知らしめていなかったが、当時、彼に匹敵する狩人はいなかった。そして王は彼にこのように言った。
「もしもクウァルが息子を残しておれば、人はお前こそが彼だと思うだろう。だが、スコットランドアルバの王に従軍しているトゥルハ・マックール以外に彼が息子を残したとは聞いておらぬ」
その後、彼は王に別れを告げて、今日ではケリー州と呼ばれているカーブルゲに行って、その地の王に従軍した。それから、ある日、王が将棋フィズヘルをしにやって来た。そしてフィンにきっかけを与えられ次々と七連勝した。
「お前はなにものだ」
王は言った。
「タラの都のルアグネ族の小作農の息子です」
彼は言った。しかし王はこのように言った。
「違う、お前はムルネがクウァルに産んだ息子だ。これ以上ここにはいてはならぬ。私の保護下で殺されてはかなわん」
それから彼はウィ・クアナハいまのクーナハにあるクレンに進み、貴族の鍛冶師ロハーンの家に行った。彼にはクルスネという美しい娘がいた。そして彼女は若者に恋をした。
「お前が誰だか知らんが、娘をお前にやろう」
そして乙女は若者と一緒に眠った。
「槍を私に作ってくれませんか」
若者は鍛冶師に言った。それで鍛冶師は二本の槍を作って彼に与えた。それで彼はロハーンに別れを告げて、去って行った。
「息子よ、ベオと呼ばれる猪がいる道には行くなよ」
マンスター地方の中央部を荒らしまわっていたのがその雌猪だった。しかし、若者は偶然にもその猪がいる道を行くことになってしまった。そしてその猪は彼に突進していった。しかし彼の槍は猪を貫通して、殺した。それから猪の頭を持って鍛冶師に娘への婚礼の品として持って行ったのだった。これがマンスターの豚の山スリアヴ・ムク所以ゆえんである。
その後に、若者はトレンモールの息子のクリヴァルを探すためにコノートのほうに行った。道を歩いていると彼は女性の泣き声を聞いた。彼がその辺りに行くと、女性を見かけた。そして血の涙を流していたので彼女の口は真っ赤になっていた。
「口が真っ赤です、ご婦人!」
彼は言った。
「そうなるだけの理由が私にはあります、私の行くところに割って入って来た背の高い酷く残虐な戦士によって私の一人息子が殺されたのですから」
彼女は言った。
「ご子息の名前は?」
彼は言った。
「息子の名前はグロナといいました」
このため、グロナの浅瀬と、モインモイマインマギのグロナの土手道、及び口の赤さから赤い口の浅瀬とそれ以来呼ばれるようになった。それからフィンはその戦士を追いかけて一騎討ちによって殺した。彼はこのような人物であった。つまり、彼はクウァルの宝物である鶴革の袋コルボルグを持っていた。そこで斃れている者はリア・ルケアリアス・ルアフラであり、クヌハの戦いでクウァルに最初に傷を負わせた男なのだった。
それで彼はコノートに行って、荒れた森の中で老人になっていたクリヴァルと複数の年老いたフィアナ騎士を見つけた。そして彼らは彼のために狩りをした。それから彼は鶴革の袋を見せて、事の次第を最初から最後まで話した。どのようにして宝物の男を殺したのかを。フィンはクリヴァルに別れを告げて、ボイン川にいるフィネガスフィネーゲスに詩を習いに行った。彼はウルグリウやモーナの息子たちを恐れて、詩を習得するまではアイルランドの他の場所にいようとしなかった。
フィネガスはフェークの澱みの鮭を見張っていて七年間、ボイン川にいた。それはフェークの鮭を食べるのは彼であり、その時に分からないことがないだろうとの予言があったからである。そして鮭が見つかって、ディヴネは鮭を調理するように命じられた。そしてその詩人は鮭を少しでも食べてはいけないと彼に話した。そして若者は調理した後に鮭を彼のところに持って行った。
「鮭を少しでも食べたのか、少年よ」
詩人は言った。
「いいえ、ですが親指を火傷して後で指を口に入れました」
若者は言った。
「お前の名前はなんというのだ、少年よ」
彼は言った。
「ディヴネです」
若者は言った。
「お前はフィンだ。そして鮭を与えられて食べるのはお前だ、お前こそがフィンなのだ」
それで若者は鮭を食べた。そしてそれがフィンに智慧を授け、口に親指を含んで輝きの詩テインヴ・ラーイダを歌えばどのような知らないことも解き明かされた。
そして彼は詩人を形作る三つのもの、輝きの詩テインヴ・ラーイダ照光の智慧イヴァス・フォロスナimbas forosna、即興の詩作ディフェタル・ディフェネを学んだ。それから彼は自らの詩才を証明するために以下の詩を作った。


五月祭、比類なき季節!その時の彩りは素晴らしい。細い日差しがあれば、クロウタドリは心ゆくまで歌う。土色のカッコウが鳴く。おいで、素晴らしい夏よ!悪天候の苦しみは去り、樹木の大ぶりの枝は生い茂る。夏は川を分断し、駿馬の群れが水場を求め、草丈高きヒースが広がり、柔らかな白いワタスゲが育つ。鹿の心が騒ぎに驚き、穏やかに海が流れる。海が眠りにつく季節だ。そして世界を花が覆う。ささやかな力の蜂が花の収穫という善き荷を運ぶ。山の斜面の牛の群れが泥をつけて登る。ありは豊かな食餌にありつく。森の竪琴は音楽を奏で、帆船が集まる。完全なる平和だ。全ての高台の彩りは落ち着き、水が満ちた湖に靄がかかる。それに鶉秧鶏ウズラクイナ、活力ある詩人、談話。高く新しい滝が暖かな淵を歓迎して歌う。葦原の語らいが訪れる。軽やかな燕が空高く飛び、陽気な旋律が丘の周りに届く。柔らかく豊かな実が出来て、沼地は繰り返しどもる。
泥炭地はまるで鴉の外套のよう。カッコウは大声で挨拶して、斑点のある魚が跳ね、軽快な戦士が力強く跳ぶ。男は栄え、乙女は美しく強かな誇りをもって花開く。天から地までどの森も完全で、どの偉大で堂々たる平原も完全となる。季節の素晴らしさは喜ばしい。厳しい冬は過ぎ去り、白いのは全ての実り多い木、夏の喜ばしい平和だ。緑野がざわめき、小川がせせらぐ平原のただなかに鳥の群れは陣取る。あなたの熱い想いは馬を走らせ、整列した軍勢が周りに並ぶ。輝く槍が投げられて地面に刺さったから、その下の黄菖蒲キショウブは金色なのだ。気まぐれで小さなしつこい鳥が高らかに歌い、ヒバリは明澄な知らせを歌う。精緻な彩りの素晴らしきかな、五月祭!


しかし、フィンはフィンタンの息子のケセルンのところに更に詩を習いに行った。当時のブリー・エリー、つまりブリー・エリーの妖精塚にはエリーという名前のとても美しい乙女がいた。そしてアイルランドの男たちはその乙女のことで争っていた。男性が代わる代わる彼女に求婚しに行った。毎年のサウィン祭で求婚が行われた。アイルランドの妖精塚はサウィンの間は開かれて、妖精塚では隠し事はできなかったからである。そして彼女に求婚しに行く者は誰であれ次のようなことに見舞われた。つまり、彼らのうちの一人は殺されたのである。これはその機会に符合するように行われたが、誰がそのようなことをしたのかはわからなかった。
そして他の皆と同じように、詩人ケセルンは乙女に求婚しに行った。しかしフィンはその詩人の使者として用に出向くことを好まなかった。その時のクウァルの息子の名前はフィネガスフィネーゲスだった。そして彼らが求婚しに行くことになった時、彼らは三つの組に分かれた。一つの組には九人がいた。彼らは妖精塚に行き、彼らのうちの一人が殺された。そして誰が殺したのかはわからなかった。そこで殺された者の名前は詩人オルクベルだった。この出来事から、クロンファッドにあるオルクベルの墓フェルト・オルクベルというようになった。そこで彼らは別れ、フィンは彼らのところから去って行った。そして哀しみに堪えないことであった(?)。しかしフィンは苦々しく、大変な不名誉だと思っていた。
彼はマルグ山スリアヴ・マルガにある勇士、コンヘンの息子のフィアカルの家まで行った。彼の住処は当時そこにあった。それからフィンは彼に愚痴をこぼして、妖精塚でいかに彼らの間で男が殺されたのかを話した。フィアカルは彼にルアハー山地の陰のアヌの乳房山に行って座るように言った。
そこで彼はアヌの乳房山の間にある二つの砦の間に行って座った。
さてサウィンの夜にフィンがその間にいると、彼の周りにある二つの妖精塚が開かれるのを見た。そしてまさに二つの砦は、その城壁がそれらの前に消え去ったのだった。彼は二つの砦の一つの中に大火を見て、そこからこのような声が聞こえてきた。
「あなたの自慢の脚はどうですか」
「実にいい」
他の妖精塚の声が言った。
「我々からあなたがたに何か持って行こうか」
「私たちに贈られるものがあれば、見返りになにかお渡ししましょう」
そこにいる間にフィンは妖精の丘から男が出てくるのを見かけた。彼は手に捏ね鉢こねばちを持っており、豚と調理された子牛と一房のワイルドガーリックラムソンがその上に載っていた。その日はサウィンだった。その男はもう一つの塚に到着しようとフィンを通り過ぎた。そしてフィンはコンヘンの息子のフィアカルの槍を投げた。彼はマルグ山を狙って南のほうにそれを投げた。それからフィンは言った。
「槍が私たちの誰かに当たれば、生き延びることができますように。これは私の仲間の分の復讐だ」
それが飛んで行って、すぐに悲嘆に暮れ啼泣している言葉を彼は聞いた。
「バロー川でビルガによって、フィドガの息子のアイドが殺された。
コドナの息子、フィアカルの槍によって、フィンが殺した……」
それからフィアカルがアヌの乳房山にいたフィンのところに来た。フィアカルはフィンに誰を殺したのか訊ねた。
「私が投げた槍が何かしらの良い成果をもたらしたかは、わかりません」
フィンは言った。
「死んでいるやつはいるだろう。今夜そうしなかったのなら、来年の終わりまでどうにもならなかったように思える」
しかし、フィンは槍を投げてそれが誰かに中っていそうだと言った。そして彼は妖精塚で大いに嘆く言葉を聞いた。
(妖精塚からの声)
「この槍は毒です。そしてその毒を持った者も。
それを投げた者は誰であれ毒であり、それによって身を横たえた者も」
フィンはクルアハン・ブリー・ナ・エリーの妖精の塚の外側で彼の槍に誓いを立てる女性を捕らえた。彼女はもしも解放するなら槍を差し出すと約束した。フィンは女性を塚の中に解放してやった。そしてその女性は塚の中に入ると言った。
「この槍は毒です。そしてこれを投げたその手も。
これを塚の外に投げ出さなければ、土地は疫病に冒されるだろう」
直ぐに槍が投げ出され、フィンはそれを持ってフィアカルのところに行った。
「さて、偉業を為したお前がそれを持っていなさい」
フィアカルは言った。それからフィアカルは、フィンの仲間を殺した者が殺されたので喜ばしい理由だと言った。彼は言った。
「お前に殺された者はあの乙女に求婚しに来た男をことごとく殺していた。なぜなら、彼は乙女を愛していたのだから」
その後すぐにフィンとフィアカルは進んで行った。さて、フィアカルはボイン川の河口インヴィル・コルブサでフィアナ騎士団と待ち合わせの約束していた。それから彼はフィンに彼らの仕事は終わったので、彼らを家に帰すべきだと言った。そこでフィンは言った。
「あなたと一緒に行かせてください」
フィアカルは言った。
「お前には私についてきて欲しくない。お前の力が失われてしまうかもしれないからな」
「わかっています」
それから彼らは進んだ。フィアカルの首の周りには十二個の鉛玉があって、彼の力を強めていたため、素早くなっていた。フィアカルの走りは既にフィンよりも速くなかったのだがそれでも、フィアカルはその玉を取り出して次々と投げて、フィンはそれを一緒に取っていった。
そして彼らはボイン川の河口インヴィル・コルブサに到着した。その後、フィンは十二個の鉛玉の全てを持ってきて彼は喜んだ。その夜、彼らフィアカルとフィアナ騎士団はそこで眠った。それから彼らはフィンにその夜の見張りをさせて、少しでも怒号や叫び声が聞こえれば戦士を起こすように話をした。さて、その夜のある時、フィンが見張っていると北の方から叫び声が聞こえたが、戦士を起こさなかった。彼は一人で叫び声の方角のスリーヴ・ドナードスリアヴ・スランガに向かった。そしてフィンが真夜中にアルスターの人々の中にいる時に、彼は緑の塚で妖精の女の角(?)を持った三人の女性たちに追いついた。彼女たちは泣きながら塚に手をついていた。そしてその女性たちはフィンから妖精塚の中に逃げ込んだ。フィンはスランガの塚の中に入ろうとしている女性の一人を捕まえ、彼女の外套からブローチを奪い取った。その女性はフィンを追いかけて外套のブローチを返すように頼み、瑕疵があるまま妖精塚の中に入ることは自分に相応しくないと言って、報酬を約束した。
(この物語はここで途切れています)


脚注

※ルアグネ族
タラの近くに住む部族であり、上王である百戦のコンに従って各地で戦功を挙げた戦士たち。ルアグネ族を率いたルガズ・コルの息子のウルグリウはフィンの父のクウァルと敵対したが、後にフィンによってルアグネ族は壊滅させられ、ウルグリウも殺害された。

リア・ルケアリアス・ルアフラ/Liath Luachra
Luachairルアハーという場所にゆかりがあるリアスという人物。

モインモイマインマギ/Maenmaige
ゴールウェイ州のレア湖(Lough Reagh)周辺の領地。

フィネガスフィネーゲス/Finnéces

・フェークの澱み/Linne Feic

輝きの詩テインヴ・ラーイダ/teinm láida
illumination songと解釈される。詩人フィリの呪文。

照光の智慧イヴァス・フォロスナ/imbas forosna
knowledge which iluminateと解釈される。

即興の詩作ディフェタル・ディフェネ/dichetul dichennaib

※ワタスゲ/canach

※気まぐれで小さなしつこい鳥
名前が出てこなかったのかな…ほらアレだよアレ!気まぐれで小さなしつこい鳥!

※フィンタンの息子のケセルン
クーリーの牛争いに同名の人物がいる。

※哀しみに堪えないことであった
ní thaireは訳されていない。ここではníor tháire[no less sorrowful]を参考に訳した。

※アヌの乳房山/Dá Chích Anann
アヌは女神。女性の乳房のような形で東西に連なる二つの山。乳首部分に塚が立っている。

Photo : Gerard Lovett CC BY 2.0

※彼はマルグ山を狙って南のほうにそれを投げた。
フィンがいるのはアイルランド南西部ケリー州のアヌの乳房山であり、マルグ山はそこから見て北東方向のリーシュ州にある。そのため、南に投げても真っすぐ飛ぶ槍はマルグ山に向かわない。通常ではありえないことだが、どのような軌跡/奇跡か、この槍は仇に刺さった。

※フィアカルの槍
地の文では投げられたのはコンヘンの息子のフィアカルの槍となっている。しかし妖精塚の中から聞こえて来た声は、コドナの息子のフィアカルの槍だと言っている。

※アイド
『A Rí richid, réidig dam』及び『レンスター人による北部コンの半分への戦功』でもフィドガの息子アイドがフィンに殺されたと記されている。

スリーヴ・ドナードスリアヴ・スランガ
ダウン州にあるモーン山地の海に面した山。そこから直線距離で40kmほど離れているボイン川の河口から聞こえたのでフィンはとても耳が良い。

出典

Kuno Meyer (tr.), The Boyish Exploits of Finn, Ériu, 1 (1901) 180–190 (English translation).

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