フィアナ伝説:オスカーの剣

フィン歌集第20歌より翻訳
剣の由来を歌うもので、剣に対して呼びかけるような語りとなっている。
以下、汝(なんじ)は剣を指す。

本文

唸りを上げて振るわれる剣、汝が敵として胴体から首を斬り飛ばした者は多かった。
汝が最初に斬った者はドゥブ・グレンの息子、たくましいクリスィルだった。即ち、まさしくミネルスが汝をパロールの息子のサトゥルヌスの手に譲り渡した。
その剣は破滅をもたらした。多くの者を悲劇的に死なせた。良きつわものどもをこれ以上の惨状にした剣はなかった。
支配者サトゥルヌスの手にあった時の最初の名前はクロウ・カハだった。汝、青く透き通った刃の剣を以て幾多の戦いが起こった。
有名な剣撃であることよ、汝は勝利者である偉大なるサトゥルヌスの手によりルアの息子ポセイドンそして彼の五人の息子たちを殺した。
ああ、剣よ、戦果は絶大だった。
クロウ・カハよ、汝は支配者サトゥルヌスの手により激しいグリネの野の戦いででグリネとデルグとデルグリンを殺した。
汝はもう一つの傲慢な二人組も殺した。どの民がそれを許しがたいと判断したのだろうか。ティリスの山で、間違いなく、イリスとヤコブを(殺した)。
ユピテルが汝を彼の父親から盗んだ。討ちあいに強き剣、汝をついに彼は茶色いリンボクの林のドサイグ山で得た。
クロウ・カハを得ると、それから貴公子ユピテルは耐えきれずに彼と父親は戦った。
ユピテルの息子、猛きダルダノス、彼こそ母エレクトラと共に剣を世に知らしめた。それは栄光に満ちた冒険だった。
貴公子ダルダノスがクロウ・カハを手にすると、平野で茶髪のサーダンを殺し、剣の錆にした。サーダンには跡継ぎの一人の息子がいた。彼は高貴で見目も好く、諸部族に行軍は高らかに響き渡った。その名はゴラ・ガラヴァル。
ゴラはダルダノスに裁きを求めて行き、襲撃した。大事業であったが、折り合いをつけて彼らは婚姻同盟を締結した。
ゴラは最も輝かしい容貌のダルダノスに彼の娘を嫁入りさせた。彼女は身も心も美しいゴラの娘、ベー・フロハ。
ゴラの娘は白き手のダルダノスと子を為した。血色の良い顔の彼の名は、マナ・ファルイス。
マナはトロスにその剣をもたらした。それは沈黙の象徴ではなかった。トロスは九千人を殺し、トロイアの王権を手にした。
トロスは軍勢を斬り伏せた剣を勝利者イロスに授けた。イロスの手により東方で数多くの戦いが繰り広げられたのだ、剣よ。
イロスは戦に長けたその剣を風格があり正当な息子に授けた。それを以てラオメドンの手により軍勢は首を刎ねられた。
ラオメドン、彼の狙いは立派だった。彼は傲慢な戦士だった。
あの男、波立てる海の如きヘラクレスが拳の一撃で彼を殺した。
親しまれ愛される名誉ある戦士ではあるが、ヘラクレスはラオメドンの妻を拘束してギリシャへと連れ去った――彼はその時トロイア人の王だった。
死人の戦利品や武具や甲冑を一所に集めて、ギリシャ人たちは海を越えて血に塗れたラオメドンの首から遠ざかっていった。
ヘラクレスはギリシャ人の王にラオメドンの剣を嘘偽りなく授けた。それを授けられた栄えある統治者の名は絢爛たるイアソン。
二十年と二月の間、血色の良いイアソンがその刃を所持していた。彼が如何に二人の母親に殺されたのかということは不名誉なれども悲劇であった。
有名なアイソンの子イアソンが死んだ時、簡単なことだったのだが、ヘラクレスが愛着からラオメドンの剣を取り戻した。
ヘラクレスは悲しんでいるプリアモスを彼の父親ラオメドンのことで憐れみ、枷を外して彼を完全な自由の身にしてやった。
麗しいヘラクレスは言った。
「プリアモスよ、そのままでいてはいけない。お前の運命を嘆いてはいけない。ラオメドンのトロイを再建してやろう。」
ヘラクレスはトロイを再建し、約束を叶えたうえでトロアス地方の王女を妻としてプリアモスに与えた。
「過つことなく父上が生き残りギリシャの王となっておれば、ヘカベを妻として迎えることを私はこの上ない幸せだと思っただろうに。」
世界でも指折りの王である彼らは諸部族を治めるプリアモスに名剣とともに彼の父親の鹵獲品を返還するというもう一つの取り決めもした。
ヘラクレスはプリアモスを悲しみから立ち直らせた。そしてラオメドンのトロイを再建した。危害がなくなり、一年間そこをヘラクレスが守ることで一層安全になった。
ヘラクレスはトロイを再建した。それは比類なき都市だった。彼はラオメドンの息子プリアモスに大勢の軍団を残していった。
戦を好むヘラクレスはプリアモスに殺された。全世界に冠たる英雄は他ならぬ復讐で討たれたのだ。
トロイを破滅に導いたのはアレクサンドロスだった。プリアモスの妻が夫との間に産んだ息子だった。
彼が海を越えてヘレナを連れてきた時が嘆きや戦いの始まりだった。
アレクサンドロスは船にメネラウスの妻を乗せて東方へ連れてきた。それが悲劇的なことにたった一人の女性のためにトロイが掠奪の憂き目にあった理由だった。
嫉妬に駆られて船団がヘレナを求めてギリシャの地から出航した。彼らは激しく戦いって虐殺を行い、群集がひしめき合うトロイを滅ぼした。
嘘偽りのない真実なのだがトロイを滅ぼすために海を越えてトロイア勢と戦うべくして集結したギリシャ勢は千五百二十一隻の船にも上った。
その後、プリアモスはサトゥルヌスから受け継いでいた彼の利剣及び名槍≪シギン≫を自分より強いであろうヘクトールに授けた。
大いに羨望を以て語られたように、ヘクトールはこの剣によってトロイ周辺でギリシャ勢に四十八回戦って勝利を収めた。
プリアモスの息子ヘクトールのような英雄は決して愛すべき地球に踵を着けず、秘密を妻に話さず、固い大地を踏みしめなかった。
ヘクトールが危なげなくギリシャ勢と戦いに行った最初の日から、ヘクトールたった一人の手により一万人の戦士が墓石の下に葬られた。
ヘクトールは血濡れた武器を持つアキレウスとの決闘で裏切られて死んだ。そして彼の剣はアンキセスの息子アイネイアスに受け継がれた。
王、アイネイアスはトロイを去り、イタリアへ向かった。海を越えた先でその剣により死んだ者は少なくなかった。
イタリアには巨人がおり、武器でその体に傷をつけることができなかった。二人といないような偉大な英雄の息子で、彼の名前は武装した豪胆なウァルガイスと言った。
勇敢で気前の良いトロイア人、アイネイアスは彼に会いに行った。彼は海を越えた先で偉大な英雄の息子を殺した。ウァルガイスという名は剣として残った。
アイネイアスには二人の嫡男がいた。明朗で物腰柔らかな兄弟、弟のシルウィウスとアスカニオスは詩人たちには確かではなかったけれど、彼らは高貴で恰好が良かった。
偉大なるアイネイアスは年老いると息子たちに信頼できる若者だったがゆえに本当に遺産を譲った。
愛情ゆえに、宝物をアスカニオスに、欠点がなく男らしい偉大なるシルウィウスには剣を譲った。
英雄シルウィウスはウァルガイスという銘の剣を手に入れた。活力や荒々しさと武勇は若者に宿り育まれた。
シルウィウスは二百隻の船で海を越えてトーリー島へ向かった。そしてその悲しい島からトーラの娘のベー・ミリスを連れて行った。
トーラの娘は強き手のシルウィウスとの間に息子を産んだ。トーリー島のニウルが彼の名前であり、彼の剣撃の踏み込みは力強かった。
そしてベー・ミリスは軍勢を骸にして土に還すウァルガイスをニウルに授けた。彼は海を越えてその剣を振るい砦でダーレを殺したのだった。
ユリウス・カエサルがベー・ベーサルと共にニウルの屋敷にいた時のことだが、彼は碧海の航跡王の娘に甚だなる好意を隠さなかった。
そしてニウルはダーレの娘、お淑やかなベー・ベーサルを嫁がせ、ベー・ベーサルは広く知られたように全世界の上王ユリウス・カエサルの子を産んだ。
ニウルにはカラドという美しい娘がいて、彼女の気立ては良かった。彼女には寛大な白き手のグリフォンの如きロヴノフタッハという恋人がいた。
カラドは彼女の父親の剣を持ち出して逢引きに行った。法を制定する女王がロヴノフタッハにその剣を授けたのだった。

カラドは彼が善良であるににもかかわらず、狂おしい要求をした。それは彼女が死んだ時に剣に彼女の名前をつけるということだった。
カラドは息子を産んで死んだ。彼女のフランスでの戦いぶりは獰猛だった。大地が彼女の姿を隠すと、ロヴノフタッハは嘆き悲しんだ。

ロヴノフタッハは紛れもない英雄であり、アイルランドから一人の女性を捕らえて連れ去った。彼女は善きカルブレの娘、海外にも知られる可愛らしい顔のフィンハイヴだった。
ロヴノフタッハは高貴で優しく善良な乙女を彼の砦に連れてきて、彼の貴重品や宝物を与えたのだった。
ロヴノフタッハはクーフーリンが彼女の恋人だという秘密を聞くと、偉大な妻のために偽りなくクーフーリンを殺したいと強く願った。
そして彼はサウィン祭にエウィン・ヴァハの軍勢を殺し、クアルンゲのクー(クーフーリン)から戦利品を奪い、赤枝の館を焼き討ちにしようとやってきた。
一人の英雄、アルスター人たちそしてアイルランド人たちに引けを取らないほど荒れ狂う力を持つ英雄であるロヴノフタッハが上陸した。
彼がバレの半島に来ると妙技のクー、小さな池から来たロイガレ、エルギンの息子ムンレヴァルの三人が防衛に充てられた。
ロイガレはそのフォモール族を見ると、恥も外聞もなく逃げ出した。その時、威勢が良いムンレヴァルの顔は色を失くして死人のようだった。
ブリクリウは同胞に言った。
「威勢はいいムンレヴァルよ、教えてくれよ。お前さんの分別を奪い去って意気地なしにしてしまったものは何だったのかな。
エルギンの息子ムンレヴァルよ、あのフォモール族はお前さんを臆病者にしてしまった。お前はアイルランドに二人といないような投槍の名手だって顔に書いてあるのがはっきりと俺にはわかるのだがな。」
ムンレヴァルは武器を放り出して、ロイガレは脱兎のごとく去った。
「どうしてクーフーリンを助けないんだ、猛々しいロイガレよ、クーフーリンがあのフォモール族に孤軍奮闘しているという時に。」
「ムンレヴァルよ、お前らしくないぞ。このままでは奥方もお前に愛想を尽かすだろうよ。それでもみんながお前はどうあるべきか知っているんだ。立ち上がれ、恥辱を雪ぐんだ。」
ムンレヴァルは荒れた海を渡ってボルグの砦にたどり着いた。そして海を越えて宝物を運び出しているとクーフーリンに出会った。
そしてクーフーリンは約束をしていなくともアルスターの貴族たちに宝物を分かち合い、すぐにそれらを与えてしまったので、ムンレヴァルは何にも得ることができなかった。
軍勢を斬り伏せてきたあの剣はクーフーリンがロイヒの息子に与えた。激戦においては目覚ましい切れ味だった。そのカラドホルグをフェルグスに与えたのだった。
好戦的なアルスター人たちはアドナルの恰好の良い息子たちと勝利を収めた時、スコットランドへ戦いに行った。
フェルグスはカラドホルグを荒々しく振るった。そしてそして七百人とイヴアルがその剣で死んだのだ。
輝かしい偉業といえばフェルグスは大勢の鬨の声が上がるアルスター人の戦いでロイヒの息子が勇士の一刀のもとにミデの三人のマイルを斬り伏せたのだった。

二度話されたことなのだが千七百人の英雄たちをアハルは大海を越えて率いた。全アイルランドの勇猛な人質たちは彼に奉仕すべくサーレスに連れてこられた。
そして決めごとを行うために全アイルランドの人々は明快なカスバドを伴い一団となってタラに行った。
カスバドは彼らから離れて脇に行って、真実の智慧により助言を行った。
「私にはわかった。アイルランドにはいないが、彼を留める武芸者がいる」
「激闘に出くわすというアイルランドの人々の勝利者とは誰だ。名高いそなたのドルイドの学識によって本当のところを教えてくれ、カスバドよ」
アウェルギンの有名な息子コナルは言った。
「それは私のことか」
妙技のクーは言った。
「それは私のことか」
フェルグスは言った。
「それは私のことか」
「間違ったことは言わないクーロイのことか。
フォーライの息子フィアウァンのことか。
武器を持つノイシュのことか。
ダワーンの息子フェルディアのことか」
「あなた方の誰も、向こうにいる晴れやかなアハルとは戦わない。予言されたように、彼は力によってあなた方に君臨する上王となるからだ」
「高邁な精神を持つカスバドよ、我らに助言をいただきたい。人質を差し出すか、力の限り戦うのが良いか」
「好ましい世界の人々がこの者に人質を差し出すことを考慮すれば、あなた方、アイルランドの人々がにとって彼が人質を取ることは恥にはなるまいよ」
アウェルギンの高名な息子、善良なコナルは言った。
「言ってやろうじゃないか、異国の者ごときにアルスター人の人質は差し出さぬ」
「アウェルギンの高名な息子、善良なコナルよ、激しい戦いでのあなたの腕前は素晴らしいけれど戦いで彼に勝ることはできない」
「王号だけを与えられたとしても、彼はあなたを軽くあしらうだろう。それに彼は私とカラドホルグ以外には横暴にどんな人質も荒々しく取ることはないだろうよ」
”"大勢の人々の長、パトリックよ、あなたは全てを知っている。
あなたが天に召されている時にはカラドホルグの物語には長く伝えられ残っているものもあるだろう。””

嘘ではなく、好ましいフェルグスがアリルの盲人ルガドによって殺されるまでそれを百十六年間所有していた。
弱からぬフェルグスが死んだ時にメイヴがその王の剣を手に入れて、よくよく考えもしないでイリアルにフェルグスの剣を授けた。
イリアルはエウィン・ヴァハを離れて、ベルヴェの知らせに接したり、愛する者の外観を見るために広大なロッホランに行った。
勇気あるルガネの娘に対するコナル・ケルナッハの息子の愛情は並々ならぬもので、彼女の得た物は大きかった。彼女は傲慢にもカラドホルグを婚礼の贈り物として得たのだった。
獰猛なルガネはカラドホルグを獲得した時にロッホランにある限り、彼の名前をその刃につけることにした。
トゥーレの善き息子たちがルガネを戦いで殺した。その男が死んだその日から男の名前が剣についた。
勇敢な男たちのたくましい身体のうえにいる鴉に汝が餌付けをすることはよくある習慣だった。
長い腕のルガネによって振るわれる、汝の一撃は防ぐことができなかった。
見目好く正しく身綺麗な若者、エヴェル・アルパが現れるまでの百十六年間、嘘ではなく、ロッホランにあった。
エヴェル・アルパには見目好く正しく賢い娘がいた。ベー・トゥネが彼女の名前で、金髪のブレッサルの王妃だった。
ブレッサルとベー・トゥネの息子、彼の英雄的な強打は決して防ぐこと能わずして禿鷲を間断なく食べ飽かさせる者、その名はオィングス・ガイ・フレフ(血の槍のオィングス)。
フィアナ騎士団のフィンの女性の伝令は暗い山の暗い伝令、彼女は昔は気立てが良かったのだが、荒れ狂う戦いの母となった。
その女性の伝令は海を越えてそれを彼女の祖父オィングスに持ってきた。それというのもその極限まで鋭い刃は見せかけの男の戦いには持ち込まれ刃を交えることはなかったからである。
汝の剣撃は戦争、決闘、喧嘩で決して防がれなかった。魔女の頭に砕かれるまで汝は宇宙の王の剣だった。
それが真っ二つに折れた時、名高いオィングスはそれを嫌うようになった。
それが転落と嘆息の予兆だったのだ。彼はその剣をオスカーに与えた。
その剣を獲得する以前からオスカーの腕前は良かったのだとはいえ、以降は彼が生きている限り防がれることはなかった。
四度語られた六百人の英雄、戦場の百二十人の王、そして音に聞こえし武勇の二十人の戦士を、オスカーはその剣で殺したのだった。
最初に振るわれた戦いからクル・ドレヴネの戦いまで、汝が優しく好ましい者たちを殺すことはいつも通りのことだったと私が保証しよう。
宇宙の最初の剣はゆるぎないの一撃の古物だった。
ペンを持つ聖パトリックよ、祝福してください。これぞゲル・ナ・ゴラン。
鍛冶屋の少年に呪いあれ、恥知らずにも彼はゲル・ナ・ゴランを売り払った。奴め、貴様の体に欠損あれ!貴様はあの剣を売り払うという悪事をしたのだ。
私を悩ませる貴様のような取るに足らない浅学めが、帯からあの剣を抜いた。
貴様はあの剣を処分してしまって、小姓の役目にこだわった。
あの盲人が取り乱したので、マイル・キアルが出て行かない限り、カイールテとフィンの魂に懸けて私がすぐにでもその聖職者(マイル・キアル)を殺すだろう。
私の心臓は張り裂けて、盲目になった。ああ、ああ、ペンを持つパトリックよ。野人を打ち倒す(?)私の息子の剣を持って行ったマイル・キアルめ。
今やアイルランドは老若男女の人口が多くなったが、この剣で殺されたのはそれよりも多いのだぞ、貴様、小姓めが!
オスカーのものになった日から多くの戦利品を獲ったとはいえ、それは私をその剣の歴史をどのように語り嘆かんと野外で駆り立ててきた。
我らが天にしろしめす主に乞い願わくは、あの剣を見るように主のために涙を流すことで私に罰を与え給わぬことを。
汝、剣よ。


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