プロローグ

 窓の外は、細い雨が降っている。姉の部屋の窓から見える木々は、細い雨に打たれて小さく震えていた。雨の日に屋内にいると、私がいるこの場所だけが、世界から徐々に切り取られていくような気がする。この部屋は、姉がいなくなった時から何も変わらない。

 父が亡くなって、母が亡くなって、姉がいなくなった。姉がいなくなった朝のことは、よく覚えている。確か、春だった。その日の朝ごはんを作る担当は私だった。たっぷりマーガリンを塗った食パンをトースターから取り出し、目玉焼きを皿に盛り付け、食卓に二人分並べた。姉のことを起こそう二階に上がり、部屋の扉を叩いた。いつもは返事があるのだが、その日は返事はなかった。もう一度叩くが、ノック音がむなしく響くだけだった。まだ眠っているだけかもしれないのに、どこかいやな予感がしてそのままドアを開けた。そこには、誰もいなかった。すべては昨日のまま、ただ姉の存在がぽっかりなくなっていた。心臓が、凍っていくような気がした。小学生のころから姉が使っていた学習机には、ぽつんと長封筒がおかれていた。震える手で、封筒を手にとる。表には、私の名前が書かれていた。私はふらついた足取りで、部屋を出て階段を下りた。台所には、冷え切った朝食が二人分並んでいた。食卓の椅子に座ると、封筒を破って手紙を取り出した。

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