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チャーハン神炒漢:ノー・モア・ヌベッチャーハン ⑧ END

目次

「決めた、加盟を退会する。違約金が発生するだろうが知ったこっちゃない。これ以上本社の下っ端なんかやってられない」
「店長……」
「安心しろ。今月のバイト代はしっかり振り込むぞ」
「ありがとうございます。でもあなたは」
「バイトに心配されちゃ世話ねえなぁ。まずは店を仕舞って、どこかに隠れて手を治すまでじっとしているよ。あの炒漢つー野郎、もし本気で本社と事構えたら、混乱で解約金も帳消しかもしれん。まー期待してちゃいないが」
「その……もし店が閉まったら、スライムはどうなるでしょうか?」
「あっ」

 二人は調理台の下にぶるぶる蠢いているスライムたちに目をやった。

「あぁ、そう言えば」店長は立ち上がって、キッチンのバックドアを開いた。そしてスライムたちに言った。「雑に扱ってすまなかった。お前たちはもう自由だ。行きたい場所どこにも行けよ」

 スライムたちは躊躇しているようにぶるぶる震えたが、しばらくすると尺取虫みたいな伸縮運動で地面を這って外に出て、排水溝に体を捩じりこんで都市の下水システムに入った。

「ふぅー、これで心置きなく店を仕舞えるぜ。しかし何度見てもやっぱ気味悪いぜあいつら」

 店長が心の重荷を降ろせて安堵している中、バイドは一抹の不安を覚えた。

(本当にこれでいいのかな……なんか取り返しのつかないことやってしまった気がする)

 彼の疑念は正しかった。いずれそれが証明される日が来る。

🍚

 中華料理チェーン店"元帥"、テツロー、センチ美、トマトンの三人が覇味庵を出たあと、口直しのためにやってきた。

「やっぱ元帥のチャーハンはうまいわな!」
「ああ、パラつきだけでなく、米がちゃんと水分があってもちもちの食感を保っている。味の素と味覇を思う存分使うところも好感を覚える」
「本当よく食べるね……」

 勢いよくチャーハンをかきこむ二人に対して、センチ美はさきほど食べた炒漢のチャーハンで満腹したためコーヒーゼリーを注文だ。自分のチャーハンを平らげたとトマトンはおしぼりで口を拭くと、神妙な表情でテツローとセンチ美に向けた。

「さて、実は私、二人に黙っていたことがあります」
「あ、はい。なんでしょう」

 相槌を打つセンチ美。テツローはスプーンを止めない。

「私は本当に、関西人ではなかったんだ。トマトンというのも、その場で適当に思いついたものです」
「そうなんだ。まあ薄々そんな気がしましたけどね。エセ関西弁ですし」

 センチ美の発言にテツローもチャーハンをらうんうんと頷いた。彼はもっと早い段階でチャーネットを通してそれを察知したが、チャーハン秩序の乱れと比べて些細なことなのであえて言わなかった。

「まじかいな?でもいいもん見せてもらいました。40代になってからこんなに心が昂ぶるのが初めですよ。∞を描いて空を舞うチャーハン!まさしく神業!」

 テツローはチャーハンを咀嚼しながら右拳を左掌に当て、抱拳のジェスチャーをとった。彼は食べ物が口の中残っている限り決して声を出して喋ない。マナーを徹している。

「そういうおじさんだってすごいじゃん。監視カメラのHDをハンマーで叩いてレモンジジュースかけてお湯で茹でてデータサルベージできなくしたでしょう?探偵かエージェントですか?」
「あれは昔Discoveryチャンンルで観た『人間蒸発の進み方』に真似てみました」
「へー」
「あとは電車に乗って、さり気なくスマホを落とせばFBIを完全に撒かれる……」
「FBIに追われちゃうの!?」
「政府の走狗は常に我々を見張っています。用心に越したことありませんよ。で、炒漢の兄ちゃん、あなたはこれからどうするです?本気で覇味庵とやり合う気かね?」
「ええ、そのつもりです」2皿目のチャーハンを食べ終えたテツローがスプーンを置き、ナプキンで口を拭いた。「覇味庵は胡乱な異界生物を用いてチャーハンを、いや食そのものを冒涜しています。由々しき事態です」
「相手は企業、険しい道になりますよ。何が策があっても?」
「いや。またない」
「ないんかい!」トマトンはずっこけた。
「僕がまた大学生で、社会に詳しくありません。なので社会人の知り合いと相談して方法を探ろうと思います」
「私なら私に任せてよテツロー君!」センチ美が会話に割り入った。「私は高校からバイトしてたから社会経験が」
「いや、きみはこれ以上この件に関わらなでくれ」
「えっ、でも、私は炒漢のサイドキックで……」
「サイドキックなど、頼んだ覚えが一度もない」

 パァーン!テーブルを叩いて、センチ美が立ち上がった。グラス皿の中でコーヒーゼリーがぷるっと揺れた。

「ああそうかよ!今まで散々巻き込まれて……キッチンに突入してチャーハンつくりに付き合ってやったのに結果がこんな扱い!?」

 大声を出したセンチ美に、店内にいる人間の視線が集まった。

(やば、ついガっとなって)注目を浴びていることに気気づいたセンチ美は怒りより羞恥心の方が上回って、違う意味で頭に血が登った。

「ッ……!」

 カバンを拾い、センチ美は逃げるように店から出た。気まずい沈黙がしばらく続いて、店内がいつもの賑わいに戻った。

「……知り合いでもない会ったばかりの人間なのでそんなこと言うのもおこがましいかもしれませんが、兄ちゃん、今の言い方はないぜ」

 トマトンの咎める視線を受け、テツローは素直に頷いた。

「わかってる……明日学校に行ったら謝ります」

 と言い、テツローはセンチ美が残したコーヒーゼリーを自分の前に取り寄せた。彼は食品ロスが嫌いである。

【チャーハン神炒漢:ノー・モア・ヌベッチャーハン END】


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