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ザ・モラエナイト DESPARATE REVENGE PARTY

悲劇が起きた。

東映アニメーションは社内インターネットが第三者からの不正アクセスにより制作が困難になり、3月13日に放送されるはずのデリシャスパーティプリキュア6話が延期となった。

まさに外道の所業。我々が待ち望でいたニチアサに靄がかり、プリキュア無き日曜日を迎えた全国の小さなお友達と大きなお友達が絶望に閉じ込めらるれごとく苦い思いを覚えた。

そんな中で喜ぶ者がひとり居た。

「クックックッ......やったぞ!おま国企業東映、ひいてはBANDAIに一矢報いた!クッキキキ!」

モニターの青白い光唯一の光源となっている暗い部屋の中、室内にもかかわらず仮面をかぶっている男が哄笑した。彼はウォールデゥエラー、略してWD。おま国撲滅看板を掲げている自称インターネットヴィジランテ、東映アニメーションに不正アクセスを仕掛けた張本人である!

「しかしこれはまた終わりではない、んぐっ、んぐっ」WDは仮面をずらし、ストロング系アルコール飲料とエナジードリンクをブレンドした危険飲料を呷る。「ハァーッ!BANDAIがブロック体制を完全に取り下げて、すべてのコンテンツを全世界にオープンするまで、俺の戦いは終わらることがない……」

アルコールと仮面を被ることでペルソナが強化され、万能感が溢れる。彼は自分の仕業に酔いしれていた。

(次は何をしようかな。そういえばサンライズの方もおま国がひどいそうじゃないか?そっちもお邪魔しちゃおっかなぁ~?おま国はこの世にあってはならん。視野を自分の国にしか向けない鎖国企業は全部、俺がこの手で懲らしめてやる)

野心が胸の中で燃えている。アニメ業界の重鎮たる東映をも突破できた。これで自分の実力が証明されたのだ。おま国なき世界に実現がそう遠くないだろう。

輝かしい未来を思い馳せ、ますますいい気になったWDはポーンウェブサイトを開いて、ズボンを下ろした。今日はいい日だ、いい日にはいいスターベーションに値する。そして突如にドアが開かれた。廊下のライトがWDの部屋に差し込む。

「おわっ!?」慌ててズボンを引き上がるWD、ドアに向かって叫ぶ。「ちょっ、ふざけんなって!ノックしろっつったろうクソバ.....ば?」

仮面の下で、WDの表情がこわばった。逆光ではっきり見えないが、その長身で細身のシルエットは明らかに彼の母親とは異なっている。人影は横のある電気のスイッチを叩いた。LEDライトが降り注ぎ、空き缶や弁当箱が散りばめた部屋を照らす。「うっ」WDはフラッシュライトを当てられた夜行性動物のように反射的手をかざして目をカバーする闖入者はゴミを踏み越えてWDに迫る。グローブをはめた両手がデスクの縁を掴んだ。

「アッ」

これから起こりうることに勘づいたWDは急いで机に置いたスマホを拾いあげて壁際に後退。

「フンッ!」

デスクがひっくり返され、PCとモニターが硬い音と共に床に転がった。デスクに飾っていたヒーローや美少女のフィギュアが死した古代帝王へ陪葬品の如く狼藉の中に投身していく。

「アアーッ!なにやがったんだてめえッ!」とWDは叫ぶ。見知らぬ人間にが部屋を侵入されるのは無論こわいが、ハッカーにとって命に等しいPCが粗暴に扱われキレない奴はいない!WDの怒りが恐怖心に打ち勝った!スマホを構えて撮影を開始。「晒してやる……晒してやるぞ!全世界がお前顔見たからな!ハァー!ハァー!」

闖入者は動じず、刃のような視線をカメラに向けた。WDはスマホの画面は闖入者を写しだす。ダークグレイの髪、顔の彫は深く、角度の鋭い鼻と顎はジャレッド・レトの面影がある。ピッタリフィットの黒いスーツの下はシャツを着ておらず、鍛え上げた胸筋と腹筋を曝けだしている。ふざけた格好だ。

「よぉ、ファッキンマン。あんた何者なんだ?FBIではないな?BANDAIの犬か?なんか言ったらどうだ?」
「……知りたければ、教えよう」男は固く閉じていた口を開いた。「私はモラエナイト持たざるの騎士、復讐の使者だ」

復 讐 の 使 者
モラエナイト持たざるの騎士

(レモングラスが効いたグリーンカレーが好き)

(は?こいつなに言って)あまりにも突拍子の発言に戸惑うWD。

「貴様のやったことは全部知っている」

モラエナイトと名乗った男はWDの仮面を掴みとり、紐を引きちぎった。稚気が抜けていない丸みのあるWDの素顔が露になった。

「光の届かぬ処で私利私欲を満たさんがために悪事を走った外道!デリシャスパーティプリキュア6話とキュアヤムヤムの登場を待ち望んでいた全国数100万人のファンの無念を知るがいい!時を行き来する貴婦人より授し、この-KILLER-やいばをもって貴様に復讐するッ!」

モラエナイトと名乗った男はスーツの裏探り、刃から柄まで真っ黒のナイフを取り出した。刀身には白い文字で-KILLER-刃をと書かれている。

「ひっ」

ナイフを見たWDにスマホを投げつけてフリークアウトする衝動か駆けられるが、理性がそれを制した。どうせフリークアウトして勢い任せで襲い掛かったところでフィジカル的に勝ち筋が薄い。だったらハッカーらしく最後まで戦い抜くしかない。

「お、おいおいおい、物騒だねぇ!そのナイフ本物?使うの?今ここで?インターネットで見られちゃうよ?よせって、今なら」
「問答無用」
「うげっ」

異物に体を侵されている違和感。WDは恐る恐る下に目を向けて、自分の胸にナイフが刺さってる事実を受け入れて、腰を抜かした。

「ぐぇぇぇ……」

力が抜けて、WDは壁際に座り込んだ。意外と痛みはさほどでもなかった。

(格闘漫画で読んだことある。人間は極限状態になると人体は痛覚を遮断して、本来以上の力を発揮するんだっけ?だったらおかしいな、力がまったく出ないや。所詮はフィクションか。なんか眠いよ……でも、こいつだけは)

「なんで、わからないんだ……」強烈な眠気に襲われ、薄れていく意識の中、WDは言葉を絞り出すだす。「BANDAIの鎖国体制……それで苦しんでいる海外の人たち……公正公平が……俺は……」
「だからと言って、他人の楽しみを奪っていいはずがない」モラエナイトはWDを見据えながら言った。「貴様は過ちを犯した、だが過去を変えることはできない。私ができるのは復讐を遂げて」
「くっさ、サイコ野郎が……正義ばど」WDは死力を尽くしてスマホを操作し、モラエナイトの顔にカメラをズームインした。「おめでどう、あんたもう、超有名人だぜ……」

ストップボタンを押して、送信。情報がインターネットの海へ散っていく。せめての抵抗を成し遂げたWDはここで意識が途切れた。スマホが手の中かから落ちて床にバウンドする。

「……」

モラエナイトは享受し終えた-KILLER-刃を抜いた。不思議なことに、刺された部位から出血がないところか、傷跡も見られなかった。モラエナイトは-KILLER-刃をショートソードに変形させ、恭しく胸の前に掲げた。

時を行き来する貴婦人マイレディ、私のわがままを許してくださり、感謝いたします。貴女に仕えし騎士はただいまより通常業務に戻ります」

成人男性が剣に語りかけるという痛々しい絵面。剣の刃にまたなんかの文字が浮かべて、モラエナイトはそれを読み取って頷いた。

再度-KILLER-刃を振り、タクティカルペンに変形させスーツに納める。彼は部屋を去る際にもう一度振り返って、横たわっているWDのPCを見た。HDを抜いて、東映に提供すれば、来週あたりにデリシャスパーティプリキュアの最新話が見れるじゃないかと思索するが、やめることにした。HDになんかの仕掛けがあったら二次被害になりかねない。それに彼は仕えているレディと自分だけのために剣を振るう信条だ。彼はプリキュアでも、ましてはヒーローでもない。彼は喪失より生まれし騎士、モラエナイトなのだ。

「ンッフ……ンッフ……ンッフ……ンッフ……」

日曜日早朝のジム。クレイトンはスクワットに励んでいた。背負っているシャフトは30kgのプレートを左右5枚ずつセットしている。合計300㎏超!

「ンッフ……ンッフ……ンッフ……ンッフ……ンッフンッッ!」

15leps終了。スキンヘッドからおびただしい汗が流れおちつつ、クレイトンは丁寧にシャフトを緩衝材を敷いた床に戻す。タオルで汗を拭き、息を整える。今日は例の事件でデリシャスパーティプリキュアの代わりにオールスターズメモリーズが放送されるが、彼自身は当作品のBlu-rayを購入し、セリフを暗唱できるほど再生したため、あえて視聴せず時間を有効利用してジムで鍛えることにした。

「クレイトンさん、おはようございます」

話しかけてきたのは深友みとも青年。クレイトンほどではないが、よく鍛え上げた身体の持ち主だ。

「ディープフレンドではないか。また少しでかくなった?」
「はい。最近は街で柄の悪い人と目が合っても逸らしくれるようになりました。優越感があります」
「そうか。でもメンチを切るのはほどほどにな。ケンカになって前科つけたら終わりだぞ」

その時、壁にセットしているテレビに7時のニュースが放送し始めた。生え際の高い男性キャスターが語りだす。

「おはようございます。ニュースの時間です。昨晩は台東区に襲撃事件が起こりました。被害者の鍬保利氏(男性27歳無職)は自宅の中で放心状態で発見され、室内は荒らされて模様が見られます。また、鍬保利氏は事件の一部始終をスマホで撮影した映像は犯人の姿を捉えていました。刺激的内容になっておりますので試聴する際はご注意ください」

画面が変わり、ぶれまくっている映像が映る。

『よぉ、(ピー音)。あんた何者なんだ?FBIではないな?(ピー音)の犬か?なんか言ったらどうだ?』
『知りたければ教えよう。私はモラエナイト、復讐の使者だ』

クレイトンは眉をしかめてテレビを見つめた。モラエナイト、きらやいば、時を行き来する貴婦人……犯人の男が言っていた妄言じみた言葉だが、何かが引っかかる。はっきり言えないが、相棒のサミーと似つかわしい何かを感じる。

『そのナイフ本物?使うの?今ここで?インターネットで見られちゃうよ?よせって、今なら』
『問答無用』
『うげっ』

映像はモラエナイトがWDを刺したところで停止し、画面がスタジオに戻った。

『警察は映像を解析し捜査をはじめ……』
「どうしたんすかクレイトンさん?顔がこわいですよ」
「うん?そうか?すまん」
「あっ、もしかしてアレですか?Pre-cure案件!」深友はそう言い、指をパチっと鳴らした。「がつんとやっちゃってくださいよ!あんな危なそうな奴……」
「そんなことするわけないだろ。すでに成立した事件はPre-cureの出る幕じゃない」クレイトンは頭を左右に振る。「Pre-cureはあくまで『未然を防ぐ』がモットー。コップと渡り合う気はねえんだ。それともなにか?探偵業を始めるための投資をしてくれるというのか?」

クレイトンの意味ありげな視線を受けて、深友は狼狽した。

「や、勘弁してください!もう十分に謝礼したんじゃないですか!」
「おしゃべりは終わりだ。身体が冷めてしまう。お前もトレーニングに戻れ」
「はい」

深友は12.5㎏のダンベルでインクラインダンベルカールをやり始めた。クレイトンはシャフトを両肩にかけてスクワットの準備に入るが、すく始まらなった。胸がざわつく。さっきのニュースは頭から離れない。

(あのモラエナイトという男、どうも普通ではない。危惧していた事態がようやく現実になったか……いや、今考えだって仕方がないか)

「ンンッフ!」

シャフトを担いあげ、クレイトンの大腿四頭筋は蠢く大蛇のごとく浮かび上がる!

(おれはあくまで暴力担当だ。もしもの事態に備えて肉体をベストコンディションにキープするしかない。あとはサミー、あんた次第だぜ)

相棒のことを思い浮かべて、クレイトンはさらに自分を追い込むことにした。

同時刻、Pre-cureのもう一人、サミーは自宅のリビングルームでオールスターズメモリーズを視聴していた。

「なぎさ……」

ちょうど小さくなったほのかに手を焼いているなぎさのシーンに入って、サミーは持っている安心毛布をしわくちゃに抱き込んだ。クレイトンと同様、彼もまたセリフを暗唱できるほどオールスターズメモリーズのBlu-rayを再生したが、何回観ても面白くて感動するので、地上波放送はなおさら見逃すはずがなかった。

(終わり)

*この作品はフィクションでありあらゆる思想を擁護する意図はありません。




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