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【閃光小説】帰郷【剣闘小説】

「「3、2、1、GOシューーッ!」」

ある日の昼下がり、プリズムストーン店内はベイブレードバトルで盛り上がっていた。

スタジアムの中 、2つのベイが外周を回っている。キラーが使用するのはコアとブレードに剣の意匠を持つ赤いべイはジフォイドエクスカリバー。突出した一枚刃に偏重心の1アーマーとザンサスディスクを加えて、とにかく一撃の重さに追求したアタックタイプのベイブレードである。相対するのはだいあが使う4枚の大型アッパー刃を持つに白いベイ、ガトリングドラゴン。コアにバウンド機能と可動する攻撃刃で連続攻撃に重点とするベイブレードである。

「追いつけ!エクスカリバーッ!」

ジフォイドエクスカリバーは仕掛ける、ソードダッシュドライバーの金属フラット軸がスタジアムの溝に引っかかり、加速。ガトリングドラゴンに迫る。パッチン!ファーストコンダクト!ドラゴンが吹き飛ばされて壁にぶつかる!

「いいぞエクスカリバー!」
「本気を出せッ!ドラゴンッ!」

ガチッ、衝撃を受けたドラゴンは可動刃が固定され、ブレードの形状が円形から楕円に変化。ベイブレードは楕円形はだいたい強い。

「ガチッ!ガチッ!ガッチンコだぁぁああああ!!!」

だいあが気合を込めて両拳を叩き合わせると、龍が目を開いかの如くにこめかみから青い炎が噴きあがる!ブレーダーの昂りに応えてガトリングドラゴンも虹色に輝きだす!これが仲間の思いを背負って戦うブレーダーが最終決戦で体得した由緒正しいベイブレー技、レインボーターボーだ!

「ちょっ、いきなりレインボーターボか!?そいつはもっと苦戦したり逆境になってからようやく出せる秘蔵の技じゃ」
「ガチ勝負だからよォ〜っ!ガットリング・スラァァッシュ!!!」

バチッ、ドカッ、広がったアッパー刃がジフォイドエクスカリバーを捉え、弾き飛ばす。エクスカリバーはロックが進む。

「いいぞドラゴン!このまま押し切れッ!」

さらに嵐じみた無慈悲の連続攻撃!ジフォイドエクスカリバーがセンターでサンドバッグ状態!これはいつバーストしてもおかしくない!しかしピンチを目前に、キラーは口角があがる。

「さすがだぜ、だいあちゃん。けどよぉ、攻撃を受けて強気なるベイはドラゴンだけじゃねえぜッ!」

バチッ、ロックが2コ進み、エクリカリバーコア内部に内蔵されていた金属パーツが解放され、遠心力でブレードの外側にスライド。ジフォイドブレードとザンサスディスクの攻撃刃が重ねる。コア、ブレード、ディスク、三つのパーツが一本の剣に合併し、偏重心に極まる究極な攻撃がドラゴンに襲いかかる!

「WRRAAAAAAAATH!!!エクスカリバァァァァーッ!!!」
『ジイェアアアアアアア!!!』

エフェクトがかかったシャウトと共に、キラーの全身から炎じみたオーラが迸る!ベイのコアのもまた炎を噴き、大剣を持った赤い甲冑の騎士のビジョンが現れる!

「千切ってやれッ!アルティメット・インパクトォォォーーッ!!!」
「ガチでいくからよ~~ッ!!!ドラゴォォーンッ!!!」

ガトリングドラコンの虹色の輝くがよりいっそう強まる!コアから光が噴き、龍がプリズマティックな翼を広げる!

両ベイが激突!スタジアムの中央にダイナマイト爆発めいた衝撃が起こり、店内にレベル8の強風が吹きあれる!

「ぬぉぉ……!」「むっ……!」

ふたりのブレーダーは鍛えられたコアマッスルで強風中で踏み締め、一瞬たりとも瞬かずに勝負の行方を見守る。

パリンッ、軽快なバースト音。光と風が弱まる。スタジアムの中にベイブレードのパーツが散りばめている。両ベイともバーストした状態。

「ダブルバーストフィニッシュ!ドロー!」

審判を務める青葉ユヅルが宣告した。

「うわぁ~」「ドローかぁ」

気が抜いたキラーとだいあがその場で座りこみ、自分のベイを回収した。

「いいバトルだったね。まるでアニメのOP最後のシーンみたいだった」
「思った!やはりベイブレードバーストはバーストして上等だよね」
「最近のベイはあんまりバーストしないからな。えっほ、叫びすぎて疲れたぜ。ちょっと休憩。ユヅルくん、スパーリングウォーター、ジョッキでお願い」
「ジャッジのあとはウェイター扱いですか……ここはドリンク屋じゃないんですよ?」
「別にいいじゃん?あたしって毎週コイン54枚をDCDキラッとプリ☆チャンにおたくに注ぎ込む太客だ、これぐらい特別してくれてもバチにあたらない思うぜ?」
「そうだよユヅル、お客さんは大事にしないと。あと私はメロンソーダで」
「だいあちゃんまで……はいはい、わかりましたよ」

 キラーは体がソファに沈み、尊大に手足を伸ばしてリラックスする。2分後、ユヅルはドリンクを持ってきた。

「はいどうぞ、ジョッキ入りのスパーリングウォーターです」
「ありがとう」
「そしてキラーさん、貴女あてに手紙がありますよ」
「手紙だと?こんな時代にオーソドックスな……」

キラーは自前のスキットルでジョッキにウイスキーを注いで即席ハイボールを作りながら手紙を手に取る。模様が一切ない白い封筒、赤黒い封蠟で留めている。蝋にはアルベルトのAとKが捺されている。キラーは目を細めた。

「ファンレターじゃない?早く開けてみようよ!」

後ろにだいあがキラーの両肩を揺さぶってはしゃいでいる。

「ちょっ、やめっ、ぶれる」

キラーはジョッキを傾けてドリンクを一口含んだ。封蠟を剥がし、手紙を取り出す。手紙にはこう書いてあった。

異域に流れ着いた魂の片割れよ、じき約束の時が来る
万遍死した地へ赴き、闘争に備えよう
契りの姉妹と共に待っている

「これはっ!?」
「くぇっ」

キラーがいきなり立ち上がり、後頭部がだいあの顎にぶつかる。

「いっったぁ~!舌が切れたらどうすんの?!」
「ごめん!でもあたし、もう行かないと!」
「行くってどこよ?この後はプリ☆チャン2本やる予定だったでしょう?」
「ああ。でも、急用できてしまって、BANDAIに帰らないといけない。たぶんあそこに数日間滞在する。だからしばらくプリ☆チャンはできない、すまん!」
「そっか。どうやらよほど大事なことだね。じゃいってらっしゃい!」
「ありがとう。お土産買って帰るから期待していいぜ!」

と言い終えて早歩きで店を出ようとしたキラーを、ユヅルが呼び止めた。

「ちょっとキラーさん!いけませんよこのまま行ってしまっては!」
「あぁ?なんだよユヅルくん?金づるがなくなって心配か?プリズムストーンはまたそこまで困窮してないだろ?」
「そうじゃなくって、貴女はさっき、アルコールを飲みましたよね?」
「あっ」
「まさかそのままトミーさんに乗って出かけるつもりですか?貴女のアイドル稼業や人生はどうてもいいけど、もし飲酒運転で人を轢いてしまったらそれはもう人として最低だし、ドリンクを出した僕まで罪悪感に苛まれる!やめよう飲酒トミーさん運転」

この上ないまっとうな指摘であった。キラーはバツ悪そうに頭を搔き、引き返してソファに座った。

「わかった。だったら6時間後、アルコールが引いてから出発するよ」
「時間はできたし、予定通りプリ☆チャンできるよね?」
「うん、やるか」

皆さんもアルコール摂取からのトミカーやゾイド運転を控えよう。

しかし結局キラーは捕まった。

プリズムストーンの出来事から8時間後、十分に休憩を取ってアルコールも代謝しきって、自前のデリカ(トミカー)の中でオンリーマイジュエルコーデを熱唱しながら界際道路を走っていると、ついテンションが上がってアクセルを深く踏んでしまった。そして後ろからサイレンが聞こえた。

「Oh shit」

ぼやきつつトミカーを停める。パトカーは進路を塞ぐようにキラーの前に停まる。警官が降りる。女だ。スカイブルーの制服に包まれるしなやかな長身。黒髪をポニーテールに束ねて、形整った鼻梁がパイロットサングラスをスタイリッシュに着けこなし、真っ黒のレンズが物言わぬ威圧感を放っている。

警官が運転席の横に立ち、BDPDと書かれたバッジを突きつける。

「どうも。スピード違反した自覚はあったか?」「どうもお巡りさん。いやぁすいませんねぇ」キラーはウィンドウを下げ、笑顔で対応する。「周りにほかの車が全然ないからついスピード出してしまって.......」
「免許と身分IDを」
「はい」

キラーさんは財布を探り、プリ☆チャンIDカードとトミカー運転免許を警官に渡した。

「キラーさん、34歳。プリズムストーン所属プリ☆チャンアイドルか。これからBANDAIに行くつもりか?」
「はい、その通りです」
「ほう、タカラトミーのアイドルがBANDAIになんの用だ?」警官の鼻梁に皺が寄せる。「まさか、企業スパイか?BANDAIが誇るアイドルコンテンツの数々、その精髄を盗みに?」
(何言ってんだこのポリ公は?面倒くせぇ……こんなところでで時間を食う場合じゃないのに!)

イラつくキラー。警官が発する敵意が彼女の闘争本能を刺激し、どうしても言い返したくなってきた。

「何言ってんですか?ていうかBANDAIこそプリティシリーズをパクって」
「今、なんて言った?やはり貴様は反BANDAか!?車から降りろ!」
「ちょっちょっ、何いきなりキレるんすかっ!?」
「2回も言わせるなッ!」

警官は銃を抜いて催促!

「ちょっ待って!わかった!わかったからまた撃つな……ぐあっ」
「貴様を連行し、署でその企みを暴いてやる!」

車から降りた途端にキラーは警官に組み付かれ、パトカーのボンネットに叩きつけられた。エンジン廃熱で熱された板金が鉄板焼きのようにキラーを苛む。

「アッッッツゥっ!!横暴だ!非人道的!これがBANDAIのやり方かよ!?国籍か?やっぱあたしの国籍が気に入らないってか!?」
「それもあるが!」

結束バンドで両手を縛られ、キラーはパトカーの後部座席に押し込まれた。デリカを場に残し、パトカーが発つ。キラーは怒りに燃える目で運転席の警官を睨む。

「やはりおま国かよ……BANDAIめ、あたしが離れた時からなにも変わっちゃいねえ……おいポリビッチ、これで終わりだと思うなよ。BANDAIにあたしの同士がいる。いかれた連中だ。あたしらは血よりも固い絆で結ばれている。あたしに何かあったと察知して殺到してくるだろう。警察署が血の海になるであろうぜ!」
「その同志というのは」片手でハンドルを握り、警官はサングラスを外し、ポリスギャップを助手席に放り、振り返った。「こんな顔だったりとか?」

警官の素顔を目にし、キラーは驚くのあまりに身が固まった。体格と髪色がかわったが、柘榴の果肉のような赤色の両目だけは見覚えがあるすぎるぐらい記憶に残っている。

「がっ、あっ、あんた、もしかして、あや、なんじゃ?」
「ンフッ、ンフヒッヒッヒッヒッ……」

警官は背中が震え、押し殺すのように笑う。そして、

「ギャアハハハハハハハハッ!!!イッヒヒャハハハハ!!!」

ハンドルを叩きながら爆笑!この間も車が前にすすんでいる。

「おい!前を見て走れって!」

安全運転を訴え、キラーは足蹴りするが、運転席と後部座席の間に設置された強化樹脂板に阻まれて思いが届くことなかった。

「ハァ……ハァ……ふぅー、面白すぎっ、笑った笑ったぁ」警官のあやが笑いすぎて出てしまった涙を指で拭う。「腹筋がつるところだったわ」

ようやく笑いが収まり、警官は再び振り返る。もちろん車は進んでいるまま。

「いやーご無沙汰ねぇ、まさかそこまで覚えていないとは思わなったよ」
「……やはりそうだったか。キャラが変わり過ぎてわからなかった……ていうか早く言えよ!それよりさっきまのなんなんだ!?あんなことする必要なくねッ!?」
「そりゃまあ、激しめのホームカミングサプライズに私怨が混じったみたいな?あんたは二年前、私に何も言わずBANDAIを去っただろ?その仕返しさ」
「むっ」

しばらくの沈黙。それに耐えきれれないキラーが話題を切り出した。

「ドッキリにしては大掛かりすぎないか?制服はともかく、車まで官憲っぽく改装してさ」
「うん?車は改装じゃない本物よ?マジもんの警官だよ私は」
「えっ、マジ?BANDAIの走狗になったってこと?けっ、さぞ快適に過ごしているだろうよ」
「そう。BANDAIに敵対する連中をサーチ&デストロイが仕事。なかなか楽しいよ」
「気に入らねぇ……で、これからどうするつもりだ?BANDAIに渡すのか?」
「そこまで非情じゃないよ。何も考えず生身でBANDAIに入国するであろうあんたが審査ステーションでハチの巣にされる前に確保し、目立たすかつ安全にBANDAI領内に連れていくという依頼だったからな」
「依頼だと?なるほど辻褄が合った。けどもっとほかにやり方があっただろう?」
「ああ、普通にやろうと思ったけど。あんたが昔の名前を捨てて外見まで変わって、おまけに敵性歌曲を歌っているところを見ているとつい頭に血が上がってからかってやろうと思った。これで借り返しなし、納得?」
「納得いかねぇよ……てかおまえの口から敵性歌曲なんてことばが出てくると思わなかった。怖いぜ。本当に変わったな」
「そうかもね。2年は短いそうで長い、人が変わるに十分な時間だわ」

招待状、ドライブ、暴力、旧友との再会。いろいろあり過ぎた。キラーは疲弊し、瞼が重くなってきた。

「にあ、なんていうか、その……また会えて嬉しいよ、あや」
「うん、私も」

車が法定速度で進む道の先、煌びやかな街ーーBANDAIシティが見えてきた。



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