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婦人科医のシズ先生:ジャイアントハリガネムシ

 七月のとある午後、一人の女性がエマージェンシールームに運ばれた。名前はサヨカ・ウィスドン、近隣住民の通報を受けて、家近くの堤防の上を徘徊しているところで保護された。

 サヨカの腹が妊娠8月と思われるほど膨らんでおり、膣口から血液まじりの粘液が流れていた。不審だと考えた警察はパトカーのサイレンを鳴らして彼女を病院へ運んだ。事情を聴いた医者は「若い妊婦が死胎してしまったせいで自暴自棄になり、投水自殺を図った」と判断し、とりあえず胎児の状態を確認に取り掛かったが、しかし診査が始まった途端、サヨカの身に異変が起きた。

「ARRRRRRGH!!!」
「もっと抑えろ!こんなんじゃ診察できないじゃないか!」
「もう全力でやってますよ!」
「暴れんな……暴れんなよ……」
「こんな力どっから出てくるんだよ!?」
「アーッ!離せェー!私は水の中に還らないといけないんだァー!!!」

 ER手術室内、手術台に寝かされているサヨカに医者と看護師合計4人がかりで必死に抑えるも、サヨカの細身から想像もつかない力で対抗している。

「おれがやります!一瞬だけでいい、しっかり止めてくだせぇー!」

 後方で待機していた麻酔医のイマハラはそう言い、注射器を逆手に持ちヤクザ鉄砲玉じみた構えを取った。

「やるのかイマハラ君ッ!よし皆、せーのーで力を集中だ!せーのー」
「「「フンッ!」」」

 四人が一斉に腰を落としてサヨカの手足に全体重をかけて動きを止めたと同時にイマハラが注射器を前方に推し出して突進!ERという高ストレス環境で共に仕事してきた者たちによる息の合ったチームプレイだ!

 しかしサヨカの腹が一回り大きく蠢いて、股間より黒い長虫が飛び出た。長虫が鞭のようにしなり、看護師の一人に巻きついた。

「ヒッ!?」
「なんだアレは!?」
「パラサイト!?なんて大きさなの!?」

 動揺する看護師たち!

「持ちこたえろ!我々は医療従事者だッ!たかがでかめパラサイト、恐れるに足らん!」

 もはや実態が自分では処理できるの範囲外だと悟りつつ、医者は同僚に鼓舞の言葉をかけた。エマージェンシールームは医療の最前線、手術室はすなわち戦場だ。マスクの下では誰もが不安な表情を浮かべているが、決して手を離すことがない。誰一人、生半可な気持ちで戦場に立っていない!

「ぶっ刺したらァーーッ!」

 イマハラが注射するまで、あと一歩!長虫が動きだした。「ウォッ」看護師を巻き上げて、モーニングスターのごとく振り回した。「ぎゃぷ」「ぐぉ」「がぅ」ボウリングピンみたいになぎ倒される医療従事者たち!瞠目したイマハラ、しかし突進はもう止められない。

「玉砕じゃぁああ!」
「アーーッ!」
「おぉくぼッ!」

 サヨカの踵がイマハラの顎にクリーンヒットした。イマハラはしりもちに倒れ込んで、噴出する鼻血がマスクを赤く染めた。

「水辺……いかないと……」

 ふらつきながらサヨカは手術台を降りた。ずるずるずる、黒い長虫が水っぽい音を立てて彼女の膣に戻っていく。

「畜生……カチコミで肺がドスで潰れたオヤブンが運ばれて、泣き叫んぶ興奮状態のヤクザが廊下にわんさかいた高ストレス状態をも耐えてぬいて歴戦のERチームがおなごたった一人で壊滅とは……!こうなりゃ仕方ねえ、救援を呼ぶしか」

 イマハラは壁に手をつけて、壁にセットされた『本当にヤバイ時以外押すべからず』とシールで標示している赤いボタンを叩くよりも早く、ウィーン、ガシャーン。手術室の自動ドアがスライドした。女性の医者が一人入室した。

「どうも、お邪魔になります。婦人科医のシズと申します。ここに中絶の必要があると感じて、参りました」

(続く)

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