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【剣盾レポート】もうきみの勝ちでいいじゃん

「おーい親友ぅ。お弁当持ってきたよー」
「おう、サンキュー。野営じゃカレーしか作れなくて飽きてきたところだぞ……何が入ってんだ?」

 ホップははいすいからもらったダークボールの絵がプリントされた円形弁当箱が開けた。中にはピエロギのような物体が4つ詰まっている。

「カレーを使った点心、カレーパフだよ!僕が作ったんだ!」
「結局カレーじゃねえか!!!」

 ホップの叫び声がまどろみの森をこだました。

 二人は仲良く祭壇の縁に座り、まどろみの森の神秘的な風景を堪能しながらお弁当を食べていた。

「どうよ、チャンピオンお手製、愛情弁当のお味は?」
「……うまいぞ。つーか愛情とかやましいこと言うな。お前はいい加減に公衆人物の自覚持った方がいいぞ」
「えっなんで、チャンピオンになったらもう愛について語れないの?アイドルは自由恋愛が許されないアレか?」
「拡大解釈されるんだよ」
「カクダイカイシャク……かくとうかあくタイプの技かな?」
「……つまりお前の発言は、聞き側の都合がいいように解約されることだぞ」
「ということは……僕は親友に愛情弁当を作ったと知られたら、僕が親友をとガチ恋しているって噂が広げるってこと?」
「だいたい合ってるけど言い方ァ!」
「ふっ、浅はかな。僕の親友愛は既に倫理と価値観を超えて超克の時空へ突入している。俗世の判断基準で僕に物申す奴は、キョダイゴクエンでチリに返さん!」
「はいアウト。そんな事公の場で言っちまうと一時間内で痛いキャラのレッテルが貼られるぞ」
「なに!?僕がジムチャレンジで築きあげたクールキャラが、いとも簡単に!?」
「そうだぞ。それだけじゃない。周りの人間にも影響が及んでしまう。アニキがチャンピオンになったら間もない頃うちも大変だったぞ」
「ムム、母さんと親友とおばさんとダンテさんとソニアとマグノリア博士とマリィとヤローさんとルリナさんとカブさんとオニオンさんとポプラさんとビートくんとメロンさんとネズさんに迷惑をかけるわけにはいかない。分かった。常人並みに振る舞うよ」
「スマホロトムの連絡先を順に述べただけだよな?キバナさん入ってないぞ?」
「キバナさんはむしろ話題が出て得しそうな感じだったので」
「あー、SNS強者だよなぁあの人」
「しかし、例え口に出さなくても、僕が親友に対する愛が変わらない」はいすいは濡れた目でホップを見つめ、真摯に言った。ホップは鳥肌が立った。
「だからそういうのヤメロォ!」

 はいすいはこれから発言に心かようと思った。

「ふぅー食った食った。そんじゃ、一バトルして……」
「いや、バトルしないよ?」
「なんでだよ!?じゃあ何しに来たんだよ!もう半年もここで突っ立ってたんだぞ!」
「それでいいじゃないか。親友は一度僕に勝って自分の実力を証明した」
 その通り、サジアンをゲットした直後、ホップははいすいにポケモンバトルで挑み、見事に勝利した。
「きみはチャンピオンより強い。勝利者たるその堂々の姿を、世間に見せつけようではないか」
「それは……だめだ」
「なんで?」
「そうはいかない気がするんだ。はいすいはアニキに勝った、そして俺がはいすいにかった。それじゃアニキの立場は?俺の勝利もほとんどははいすいがサジアン対策しなかったからだ。これが本当に正々堂々の勝利と言えるだろうか?違うだろ。だからはいすい、もう一度、俺と真剣勝負してくれ!」
「ふーむ」しかしはいすいは乗り気ではなかった。「聞くけど。もし僕がきみにずっと勝たないと、どうする気?」
「そんなわけが……」
「例えの話だよ」
「そうだな……はいすいが勝つまで、俺はここから離れないぞ!」
「それが脅しのつもりか……ハッ!」

 その時、はいすいの脳裏にエレキボールが走った。

(ホップは僕が勝つまでここから離れない、つまり僕がバトルしない限り、彼はずっとここにいる。不自由のキャンプ生活が続くなか、唯一外界との繋がりとなった僕にやがて彼が全信頼を置き、吊り橋効果で一気に距離が縮む!親友は身も心も僕の物になって……?)

「ふふ、ふふふんふんふふ……」
「おいそうしたはいすい、いきなり気持ち悪い笑い声だして。こわいぞ」
「きっと良からぬこと考えているんだよ」
「「ソニア!?」」
「ボーイズトークに割り込んで悪いけど。でもはいすいくんはそろそろホップ勝って欲しいね。もう半年もの間森のなかでタクシー役やらされていたわ」
「そうだぞ!はいすいが勝たないと、ソニアにも迷惑だぞ!」
「チッ、おんなァ、僕の邪魔を……」
「あれぇはいすいくん、今舌打ちしたァ?久しぶり大人の怖さみせちゃう?」
「……なんもないすよ」

 結局この日はバトルしなかった。

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