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鉱床マン #風景画杯

『お疲れさまです』

 とグループチャットに入力、送信。これで今日の仕事は終了だ。これで上司や得意先からか連絡が来ても明日に後回しできる。労働からの完全解放だ。自分は仕事の性質上、在宅じゃできることが本当わずかしかないんでほとんどドラマみたりゲームしたりしていたけどね。

 時刻は5︰30。夕飯のまでに少し時間がある。その前にいつものあれやるか。私は部屋を出て、トイレに入り洗面所に立った。脂っこく、自他認める不細工顔が鏡に映っている。けど私からすれば、自分の顔がポテンシャルに富む鉱床に見えた。

 ニキビ跡で月の地表のようにデコボコの頬。鼻はいちごところか、もはやごま団子鼻と言えるほど角栓が密集している。唇の周りは成長しきった角栓で皮膚に小さな火山のような突起が出来上がっている。そして一番気になるのは額、左眉の上のところがダンコブと見間違えるほど腫れ上がって、触れると痛みを感じる。とんでもなくデカいニキビだ。普通のニキビが富士山というのなら、こいつは火星のオリュンポス・マンスだ。張り詰めた皮膚の下に膿がマグマのように勢いを蓄えている。

 これを潰したらさそ気持ちいいだろうが、またやらない。こいつがまた本気を出していない、もっとビッグになれる気がする。もっと成長して、皮下の圧力が飽和状態になった時にこいつを破って、鏡に膿と血のミックスジュースをぶちまけたいから。あとちょっとで辛抱だ。

 ということで今日は他の場所を発掘する。まずは唇周り、育ち切った角栓に狙いを定めて、人差し指の爪で左右からつねるように絞る。にゅっと、角質と脂の塊が毛穴から飛び出た。それを指先に乗せて、観察する。角栓は椎状で、光を通すと琥珀のような透き通った橙色になっている。キレイだなぁ、いい形している。こんな不細工な私がキレイな角栓を育てるなんて、少し誇らしく思った。

 テンションが上がったので次々と角栓を絞り出す。きれいに抜けたやつもあれば、角栓が抜けたあとで毛穴から血と黄色い体液がでるやつもあった。角栓抜きは傷つかないに越したことないけど、

 次は眼窩と鼻梁の間の部分。ここは皮脂の分泌が旺盛だけど窪んでいるので洗顔する際はスルーされがちで、ニキビと角栓が良く育つ。おっ、涙丘の横に白玉のごとく熟した小さなニキビを発見!ぶちっと。薄い皮の包みが破れて、白い膿が飛び出た。小さいニキビは出せる量が少ない反面、一回できれいに絞り切れるので手間と皮膚への負担が少なく、得られる爽快感は時に中型や大型のニキビ以上だ。

 次はもう少し上に行く。眉毛をかき分けて、毛根をチェックする。眉毛は埃とゴミから目を守るという一大役目を担っており、汚れが溜まりやすい場所で角栓も頻発している。見ろ、毛根がぷっくりと隆起しているところがありだろ?この下にいいものが隠されている。にょっ。なんと、真珠のようなまん丸の角栓が出てきた!かわいいね!とてもこのブ男から出てきたものだと思えない。

 今度は下あごの、耳よりちょっと下の部分を手で触って角栓を探す。ここもよく洗い忘れるため角栓が良く育つ。おっ、いい感じの突起があった。どれ、絞り出してやる。お?おおー!?

 すごいことになった。毛穴からソーメンみたいな細長い角栓がびゅーーとうねりながら出てくるではないか!しかも結構長い、また出れそう?出れた。広げたら2㎝超えてない?これはとても珍しいタイプの角栓だ。毛穴があまり広がずに、角栓が狭い穴を通すとソーメンのように形成される。私は形にちなんでこのタイプの角栓を蛇玉と称しているが、この時代に蛇玉がわかる人がどれぐらいいるかね?だったらチュープから絞り出されるマヨネーズを想像してみよう。大体あの感じ。見た目、インパクト、芸術点、満足感、ともに上位を占めるいい角栓だ。はー、大満足。角質の神に感謝。

 今日はここまでにしよう。鉱床を一気に掘り過ぎると明日の楽しみが少なるからね。私は脂や膿や血や汗でギトギトになった手を洗い、殺菌成分のあるウェットティッシュで申し訳程度に顔を拭く。今日のおかずはハムカツに決めた。高脂肪をたべて、鉱脈がどんどん育つといいな。

(おわり)


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