活火山マン2

((ーーきみの正義は疑いようがない。しかし残念ながら、きみは弱い))

頭の中にテラン・テリゲント(D.A.G.G.E.Rの司令官的存在。頭脳機能199%使用できてすこぶる頭がいい)の言葉がよぎった。俺ってば退団のこと相当引きずっているみたい。

((はっきり言おう。この先に起こり得る戦いにおいて、きみは役に立てない……むしろチームの弱点になり得る。なのでD.A.G.G.E.Rを辞退して頂きたい。これはきみのためでもあるのだ))

テランの言うことは正しい。この数年においてD.A.G.G.E.Rが戦った敵といえば数億の兵を従わせる宇宙人軍閥、あるいは億年の眠りから目覚めた冥界の邪神、あるいは次元の秩序を書き換える邪法を駆使する魔女など、そんなヤバい連中を相手にニキビから老廃物を噴射したところでどうしようもない。正直自分がこれ以上ついていけないという自覚もあった。俺はテランの提案を受け入れて、ささやかなフェアウェルパーティが開かれた。

けどよテラン、俺は戦いをやめない。人喰いクジラが大きければそいつに纏わりついているコバンザメもまたたくさんのおこぼれを得られてぶくぶく肥える……譬え方が回りくどいか?つまり俺が言いたいのは、大きい悪ばかり注目しては小さい悪を見逃しがちになってはよくないってことだ。D.A.G.G.E.R(カーンとグレッシブにローバリーをードするクセレントな中)でなくっても、俺は俺のやり方でやらせてもらう。

「ぐがががっ……!」

死闘の末、俺はようやく半ヤマアラシ君にフロントチョークを決めた棘と化した毛髪が食い込んで凄く痛い。

「ぐぐっ……ぐひゃーっ!」

首を圧迫されつつも半ヤマアラシ君はもがいて鉤爪が生えた手で俺の背中をひっかく。これもまた痛い。だが手は緩めない。攻撃力が乏しい俺が彼を倒すにこれ以外にチャンスがない。 

「ぐっ、ぎぎっ……んは……」

締め上げてからおよそ30秒、半ヤマアラシ君がやっと頭が垂れた。ホールドを解けると、膿で塗れたヤマアラシ顔が地面とぶつかった。

間一髪の勝利。相手がめちゃくちゃ手強かった。ニキビで顔射して相手の嫌悪感を煽って、動きが雑になった途端に組技を仕掛けるのが俺の戦闘スタイルだが、あくまでそういった技が通用するまでの話。半ヤマアラシ君の変身はインパクトだが、人体からあまり逸脱してない。二段変身して巨大なヤマアラシになるんじゃないかと危惧したが、そんながことなくてよかった。

倒れているギャングたちの手足を結束バンドで縛った。あとは負傷の確認。左の腕から脇下にかけて腫れと出血がある。半ヤマアラシ君の棘がスーツを貫通して肉に達しただろう。俺のスーツは防弾・防刃仕様だが限度がある。破傷風が怖いのであとで注射を打とう。あと顔のニキビ多数消費したため傷口から黄色半透明な汁が垂れて元からブサイクな顔がさらにひどい様相になっている。俺はさっそくマスクをかぶった。

「ううっ」

突如に半ヤマアラシ君が喚いて、緊張が高まった。早い、もう目覚めてしまうか!?い、いまのうち関節2、3個破壊して数ヶ月から数年間自力でトイレに行けない体にした方がいいか?

しばらく身構えたが、彼は起き上がる気配はなかった。警戒しながら近いてみると、彼の胸に刺さっていたナイフがウマバエの幼虫のように蠢いて皮膚からせり出ているのを見た(ウマバエあるいはBolt flyで検索するととてもステキな動画が見られるんで是非)。棘に化した頭髪が元のドレッドヘアに戻り、皮膚を覆う毛が抜け落ち、顎が縮まって、半ヤマアラシ半人の怪物から闇夜の男の姿に戻った。

ほう、不思議なもんだね。見た感じあのナイフで自分を刺すことで変身する術か?とりあえずナイフを一本回収して、あとで魔術に詳しい知人に見せよう。今日は十分に自己実現欲が充実した、パトロールはここまでにしよう。あと始末は専門家に任せる。俺はスマホを取り出して911をかけた。

「もしもし警察ですか……はい、いつものニキビがひどい市民です。先ほど暴漢3人に遭遇して、対処しました。この場所に来て迎えてやってください……通り酷く汚れているのでシャワーを用意してあげてください。いや現場で待ちませんよ、忙しいんで。それでは」

向こうが大声出す前に電話を切った。さて、フライドチキンでも買って帰るか。

(続く)


当アカウントは軽率送金をお勧めします。