汝に罪あり

東京に悪魔に現れた。

山羊の頭、2メートル超えの巨体、6つの乳房、股間に逆さ棘がついたいきり立つ男性器、背中に大きな蝙蝠翼、手にはフォーク状の武器を持っている。悪魔がいかにも悪魔的だった。

明治神宮を更地にしたあと、悪魔は代々木公園を散策しながら手当たり次第に殺戮を繰り広げた。その様子はNHKによって全国放送された。それを見た悪魔崇拝者たちが悪魔の元に駆けつけて跪いた。

「嗚呼!大いなるサタン!崇高なる神敵!我々を貴方の僕としっ」
「やー……きゅー……」

サタニズムクラブ渋谷支部長のリッカ“ヘルファイア”戮璃央は話の最中にフォークで胸を貫かれて絶命した。その様子はNHKによって全国放送された。

「悪魔は何やら言葉を発しましたね。何を言っているのでしょうか?」
「や、きゅ。とかに聞こえますね?山羊のグリルが食べたいじゃありませんかね?」
「えっ、自分の頭が山羊なのにですか?」
「あら、私たち人間だって人間を食べたりするんじゃないですか?もちろんそっち方面の意味で。まあ悪魔ですからね。何を考えているのやら」

と民族学者のコメンテーターがこう言った。少しのあと、公園通りを降って駅に向かう悪魔の前にゲバブ屋”シャウェーマ”のオーナー、ヴィーヘン・アジャクドがラムの丸焼きを携えて悪魔の前に立ちはだかった。

「悪魔よ!貴様が欲する供物をくれてやる!わたしみたいな善良のムスリムを見逃してくれと願いたい!かわりにクリスチャンの偽善者どもを殺しっ」
「やー……きゅー……」

アジャクドが話の最中にフォークで引き裂かれて絶命した。悪魔が愛しそうに撫でると、ラムの丸焼きが立ち上り、ホッピングして去っていった。

「またやーきゅーとか言ってますね」
「うーん。悪魔は野球がやりたいじゃないですかね?」
「野球ですか?ではあの大量殺戮に何の意味が?」
「まあ何せ悪魔ですし、行動原理は見当てもつきませんよ」

スタジオ内でパーソナリティとコメンテーターがやりとりしていた頃、渋谷駅前ではSWAT部隊と悪魔が交戦を始めた。

銃弾が悪魔のに弾かれて有効ダメージを与えられない。悪魔は投げては手元に戻るフォークでSWAT隊員を殺戮していく。

「やばい!コイツ、バレットプルーフだぞ!」
「それでもやるしかないんだ!一つでも多く弾を撃ち込んで、一秒でも足止めするんだ!国民の尊い命を守る盾となるのだ!」

決死の思いで悪魔に対抗するSWAT隊員。悪魔はフォークの先端から発したとどめ色の怪光線を射出した。それを受けたハチ公銅像はメキメキと変形し、背中に翼が生えたダイアウルフ型ガーゴイルに変貌した。

「人間ハオレヲ裏切タッ!」

美談には裏がある。いくら待っても故主が現れなかった。ハチの純粋の心に澱んだ怨嗟が怒りとなり人間に牙を剥いた。ハチはSWATを薙ぎ払って、暴徒鎮圧装甲車を引き裂いた。その時、現場指揮官の籐仁警部は警視総監直の指令を受けた。

「なに!?そのまま悪魔を神宮球場に誘導しろって……それまでにいくら犠牲が出ると思うんです……わぁったよ!やりゃいいんでしょう!慰問料、覚悟しといてくださいよォ!」

SWAT隊はヒット&アウェイ戦術に切り替えて、悪魔を神宮球場まで誘導した(途中に21名の隊員と201名の一般人が犠牲となった)。マウンドで悪魔を待ち受けたのは日本籍に帰化した衆売タイタンズのエース、キョウヘイ・グレートキャニオンであった。

「うれしいぜ、デーモン=サンよ」グレートキャニオンは不敵にチューインガムで風船を膨らませた。「野球が御所望だ?いいぜ、きっちり三振きめてHELLに叩き返してやらぁ!」
「やー……きゅー……」

しかしグレートキャニオンが投球より早く、悪魔はフォークを投擲してグレートキャニオンを観客席に釘付けた。悪魔の重大ルール違反によって、グレートキャニオン生涯最後の試合はノーヒットノーラン、パーフェクトゲーム勝ちとなった。

「おめえらは適当なこと言うから被害が広がったじゃねえか!」
「グレートキャニオン返してよ!」
「パーソナリティとコメンテーターを吊るせ!」
「金返せやオラァ!」

くまの手と松明を持った怒れる群衆がNHKの外で集まった。

「我々は、重大のミスをしていたかもしれません……」
「さっきからミスしまくっていましたよ!あと”我々”って何ですか?私を巻きこまないでくださいよこれ以上は!」パーソナリティはショットガンに弾を積めながら言った。「でもライブ中なので不本意ながら一応お聞きしますけど!何が気づいたことあったんですか?」
「悪魔が頻繫に言っていたやー……きゅー……それは日本語ではないとしたら……Ye guilty……直訳すると”お前は罪人だ”という意味となります。悪魔は最初から私たちを裁きに来たのです!」
「えっ、でもguiltyって発音が[g]となりますね?これまで悪魔が発したのはどう聞いても[k]なんだけど」
「それはほら、悪魔の口の形は人間と違うし、濁点の発音が難しんじゃないかなって」
「何せ悪魔ですから?」
「口の構造も、訛りがあるかどうかもよく分かりません、はい」

とパーソナリティとコメンテーターがやりとりしていた間、太平洋上からB2爆撃機がテイクオフした。

(続かない)

当アカウントは軽率送金をお勧めします。