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チャーハン神炒漢:ノー・モア・ヌベッチャーハン EXTRA

 日本某所、覇味庵本社工場、社長謁見場。

 電気による証明がなく、箇所に設置して燭台と提灯の昏い光が昏いに漂っている線香の煙を照らす。鏡のように磨かれた大理石床が天井に書かれた灰をかき分けて天に翔け鳳凰の絵を映している。柱や梁の随所にも龍、饕餮、鰻、蝙蝠など獣の彫刻を彫とこされて、もはや会社より廟宇と呼ぶに相応しい佇まい。しかし廟宇と違い、元々神を奉る本堂がある場所がピラミッド状の高台になっており、その上に設置して天幕の中で胡坐を組んでいる白い人影がいた。一糸も纏わなず、出来たてのおもちのよう白肌に血管と毛穴が一切見当たらなず、バストとヒップは古の豊穣女神象めいて豊満でありながら、ウエストが程良く細って、腹筋が良く育ったアナゴの切り身のような縦三本線を描いている。

「嘶ゥーー……吼ォーー……」

 規律の呼吸を行い、女の瞼の下に眼球はせわしく動いている。レム睡眠状態ではない。彼女はいま天眼通を行使し、スライムの目を通して炒漢が覇味庵加盟店で引き起こした狼藉を全部把握したのだ。

 パッと目が開いた。紫色の目が数回瞬き、瞳孔が縮まる。胡坐を解き、立ち上がると、天幕の四方からぶら下っている蝉翼めいた薄く絹が螺旋を織りながら彼女の身体を包み、羽衣を形成した。しかし布地が極薄にため、ピンク色のところや突起しているところが透けて、むしろ全裸より扇情的に見える。彼女こそが祭暮娘々、覇味庵の社長、現世において萬劫身転魂廻大法唯一の掌門人である。

「チャーハン神、炒漢……余に邪魔だてる気か」

 女はダガーのような鋭利な顎を指で撫でて、ぼつり呟いた。

「娘々、いま”炒漢”って言いましたかい?」

 台座の下に、暗闇に溶け込んだ黒い功夫道着の人間が言った。頭に黒いベースボールギャップを深く被った上で顔の右半分を伸ばした前髪に隠れている。声が低くて中性的だが、胸の膨らみから女性だと伺える。

百鼎魔(ヒャクチョウマ)よ、かの者をご存知で?」

 娘々はその者を百鼎魔と呼んだ。そう、彼女こそがかつてとある中華料理店を支配し、無銭飲食などの悪さを働いたが、テツローが炒漢に覚醒したあの日に最初に粛清された妖怪ラクーンの半鼎魔だった。

「ええ、前に少々やり合ったことがありまして。チャーハンに執着しているチャーハン狂いですわ」
「詳しく聞かせよ」

 百鼎魔は炒漢に遭遇した話に自分に不都合の部分を省けて、脚色を加えて娘々に伝えた。

「たかが店一軒を奴隷にして、食料も半分しか要求しなかったのに、頭皮の半分が焼かれて永遠に消えない屈辱の印をつけられました。血も涙もありゃしねえ!」
「そのような狂人が、わが社を狙ってくるのか。くくく……よかろう、一指で捻り潰してくれる」
「娘々よ、この件はこのおれ私に任せてください」
「ほう。雪辱を望むか?」
「はっ、萬劫身転魂廻大法を経て、おれは100倍、いや200倍に強くなった!」」百鼎魔は憤怒に燃える目で娘々を見上げた。その背中に闘気が蒸気のように立ち昇る。「おれはいっときもあの時の屈辱を忘れられません。奴の首をもげて、脊椎をしゃぶりつくすまで!」
「よろしい。その復讐心を買ってやろう」

 娘々が手を貸さすと、部屋の隅からティーポットと小さめの中国式茶碗2つが飛来し、空中で茶を注いだ。外気功を極め、御剣の術にまで昇華させた娘々がなせる魔術的光景だ。

「春秋の習いだ。茶で戦士を送ろだそう」娘々が一つの茶碗を掴み、もう一つを百鼎魔の前に遣った。「茶園の主人が死んでも売らないと言うから殺して刈り取った阿里山茶だ。じっくり味わえ」
「おれにゃ、茶の良さがわからねえ」百鼎魔が茶碗を受け取り、スーッと茶湯を啜りきった。「んで、凱旋したら仔牛まる一本で絞ったスープで頼みますわ!」
「よかろう!何なら牧場で直に仔牛を選ばせようぞ!」

 娘々がも茶を一気飲みした!

「御意」茶碗をダッと床に叩き付け、百鼎魔は重厚なドアを押して退室した。社長謁見場が再び静まり返った。娘々が再び手を翳し、スマホを呼び寄せては素早くメッセージを送り、電話をかけた。

「もしもし、余だ……あぁ、先に送った加盟店が契約違反の症候を見せた。直ちに対処を……あぁ、構わん。違約を金払えない場合が堂に連れてこい。余が然るべき働き場を与えてやる。では頼む」

 通話を切った娘々が無造作にスマホを投げた。

「……これから千年に続く我が覇業、誰にも阻まらせぬ」

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