炒飯神太郎⑦

「よく聞け犬ども。人手が要る。できれば名簿に載っていない、死んでも誰も探さない惜しまない、政府に目をつけれられない使い捨てに向いた人間がいい」
「ならいい場所知っています!」
「ご案内しましょう!」
「ワンワンワンワンワン!」
「すぐに行きませんか?行きましょう!」

🐶

ここはサルベージ村。村と言ってもそれほど規模がなく。藁の小屋とテントが数個並んでいる野営地の規模。流民、札付き、不倫バレ、家出ティーンエイジャー。社会のはみ出し者がまるで牽引サルベージされたかのようにここに集まり、この互助的なコミュニティを作りました。来る者を拒まず、行く者を追わずのはここの信条。朝に仕事を分配してそれをこなし、夜には皆で焚火を囲んで飲食しながら談話して一日を終えます。ここでしばらく生活して何らかの啓示を得て、あるいは単に飽きて元の社会に戻ったりまた流浪の旅に出たり、メンバーが常に入れ替わっています。互いに気を遣い、だが決して親しみすぎない距離を保って暮らしている。ある程度のユートピア的会社がここにありました。

それも今日に終わりを告げます。

「なんつう調理法だ......こんなの見たことねえ」
「すげえいいにおいだ......」
「これほど大量の米、おれ、見たことがない!」

村の公共炊事場に集まっている住民たち。彼らの目は鍋の中で翻るチャーハンに集中し、チャーハンの動きに合わせて上下します。

一時間前、村に客人が訪れました。よくここら辺をうろつく悪童の四人、そして赤銅色の膚の若い男が一人。悪童たちは彼のこと流浪の料理人ーー炒飯神太郎だと紹介しました。サルベージ村の噂を聞いた炒飯神太郎は心が打たれて、自らボランティア志願して炊き出しにやってきたと説明しました。

村人は最初大した興味を示しませんでした。なにしろ世間の辛酸を嘗めつくした人間の集まり、居住志願者外でもないよそ者に警戒心を抱いて冷たくするのも当然です。しかし熱したラードにニンニクが投入され、熱気と共にアリシンが村中に拡散してから、状況が変わりました。誰もが手をやめ、炒飯神太郎に、いや鍋の中に意識を向けました。

村で出される食事は十中八九、その日に取れた山菜や菌類、貧しい畑から掘った根茎類野菜、川の魚、狩猟で獲れた獣の肉などを適当に刻んでポットにぶち込んでシチューにしたり、直火で焼いたりする、極めて素朴なものでした。資源が常に不足しているサルベージでは保存食を作れる塩がありません。ましてや調味など最初から望めません。けど生きたかれば食うしかありませんと、住民たちは自分にそう言い聞かせ、味気のないシチューを喉に流し込んでいました。

そんなストイックな食生活の中で、炒飯神太郎がラード、ニンニク、そして白米を持ってきて、彼らが心の中に秘めた美食に対する渇望を呼び起こしました。そしてそれだけではなありません。

「哼ッ!」

鍋を振るたびに炒飯神太郎の上腕二頭筋が発酵したパンのごとく膨れ上がる!つられて肩三角筋が割れる!力が体幹に伝わって大胸筋が戦慄き、僧帽筋、広背筋が蠢く!そう、彼は上半身なにも着ていないのです!

「あらま、いい男!」
「ふむ……相当苦心して肉体を絞ったと見た」

女性から垂涎の目、男性から尊敬の目。パフォーマンス付きの調理で村人がさらに目が離れられない!もちろん上半身裸の状態で料理を作るのは衛生的によろしくないが、この時代は彼を告発できる法律や厚生労働省が存在していません。

「哈ッ!」

仕上げに炒飯神太郎一際強く鍋を振り、チャーハンを間欠泉のように跳ねあがらせ、そして一粒もこぼれずにまた鍋に収まりました。

「ーー完成です」

炒飯神太郎が今日作ったのは青菜、枝豆、椎茸を入れた、さっぱりした野菜チャーハン。肉の類こそ使わなかったが、ラードで炒めたニンニクのにおいが香ばしくて食欲を促す。炒飯神太郎はチャーハンを土器の皿に盛り付け、村で一番年長の老人に渡しました。

「さあ、召し上がりなさい」
「ほぉ……これは、なんて香ばしい……いただきます。ぱく」

指でチャーハンをつまんで、口に運ぶ。咀嚼。嚥下。

「……なんちゅうもんを食わせんたんだ」

弛んだ瞼は見開いた。滲み出る、それは涙。

「こんな美味ぇもんがこのようにあるなんて……先が短いわしは息子の荷物委になりたくなくて、静かに余生を過ごすためにここに来たが、こんなもん食べたら生きる気力が湧いてきちゃうじゃろうがい!またわしは死なん!グルメの旅にでるぞい!もぐもくもぐッ!」

涙目ながらチャーハンを貪る老人!それを見て住人たちはしびれを切らしました。

「もうたまんねぇ!おいらにも食わしてくれよ」
「今は犯罪してても食べたい気分だ。もし食べれなかったら……どうにでもなってしまう気分だぜ!」
「はいはい皆さん急がないでー。順番に並んでチャーハンを受け取ってー」
「しばらく休んでから炒飯神太郎様はまた料理するんでー」
「グルルル……ワッフ!ワッフワッフ!」
「皆の分ちゃんと用意するからねー」

犬たちの仕切りのもとで、チャーハンが住民全員に配られました。

🐵

「炒飯神太郎様に報告。村人全員、チャーハン摂取済みです」
「そうか。ではーー」

炒飯神太郎はこめかみに指を当てて、精神を集中しました。

チャーネットに接続可能な生体端末を検知……
Char-Fiテザリング起動……
チャーネットに強制接続開始……
3、2、1……
チャーネットに強制接続成功。
チャーハン神を称えよう。

「う”っ」「ぐぇっ」「ぼぁっ」

先ほどチャーハンを楽しく食べていた村人たちは一斉に動きが止まり、目からハイライトが消えて、整列を始めました。米も碌に口にしたことなかった村人にチャーハンを振る舞い、味に集中して心の防衛機制が下がった際にチャーネット強制接続させ、己の意のままに操る僕にしたのです!

「さて、諸君」炒飯神太郎は腰の後ろに手を組んで、悠然と切り出した。「私は諸君がこれから一生、味わうはずのない美味を味わわせてやった。かけがえのない経験を与えた私に対してかけがえのないもので返すべし、そう思わんかね?」

と言い終わると単に、光のない目をした村人たちが我先に手を挙げました。

「ハイッ!我ら、チャーネットの尖兵なりッ!」
「炒飯神太郎様のためなら喜んで差し出しますッ!」
「チャーハンこそ世界一の米料理であると世の中に知らしめますッ!」
「チャーハン神を称えよーッ!」

村中に響き渡る炒飯神礼賛!悦に入って両手を広げる炒飯神太郎!彼がこれから向かう先にはどんな不幸とケオスが起こるのでしょうか。

(続く)


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