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チャーハン神炒漢 エピローグ&おまけ

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「ぎゃるるるお!」「ミャオーーッ!?」

 中華料理店後楽后(コウ・ラクィーン)、その後ろ、パイプが無計画の配管されて人が通れぬ路地で何かが転がり出し、通りすがりの野良猫は驚き、逃げて行った。

「ぐるるる……おのれチャーハン神……コケにしやがって」

 それは一匹のラクーンであった。しかしただのラクーンではない、その正体はついさっき厨房の中で炒漢と死闘を繰り広げた妖女半鼎魔なのだ。三味珍火を浴びた彼女は咄嗟に変化の術を解き、聖なる炎による浄化死は免れたが、炙られた毛皮は焦げて固まっている。

「ただでは済まぬぞ……この屈辱、必ず雪ぐ、今度こそズタズタに切り刻んでしてチャーハンにして喰ってやる!」

 怒りと憎しみを胸に秘めて、化けラクーンは都市の陰に身を隠した。まずは治療、そして修行だ。

🥚🍅🍚

「くくく……炒漢とはな。妙な胸騒ぎがして来てみれば面白い見が見れた」

 ビルの屋上、歩いていくテツローを見下ろす人影があり。その顔は少し前に店内でかに玉定食を食べていた客と同一人物と見られるが、真紅の着物に、完璧に焼き上げたオムレツのように輝く黄色い笠を被っている、現代社会ではかなり浮いてる格好、腰にはカタナとサーバル一本ずつ差し、下半身には厚手のタイツと革ブーツ、和洋折衷。彼の名はオムライ、オムライスの番人である!

「チャーネットとやら、どうやら俺にも使えるらしい。チキンライスが一応チャーハンの一種というわけか?けっ、不愉快だ」

 オムライは毒づき、カタナを抜き、夕日を反射する刀身をしばらく眺めた。

「炒漢よ、お前は何をなすために現世に現れたか知らないが、もしオムライスにちょっかい出したら、このオムライが相手に致そう。我が愛刀、袈茶伏に誓って!」

 情緒が高まったオムライは衝動的にカタナを振り回し、演武を始めた。ここの屋上は立ち入り禁止なので人に見られる心配はない。

🍲🍚

「ラストパート!」「ヌーゥンン!」「あとちょっと!」「ヌーゥンン!」「もう一回!」「ヌゥアアア!!!」「やったぜ!」

 カコン!250KGのプレートを掛けたシャフトが留め具に降ろされ、その下に、白人男性は荒く空気を吸って吐いた。バンプアップされた大胸筋が激しく上下する。

「仕上がってんな、ブル!こりゃ来月の大会は安泰か!」
「ふぅー」

 男は上半身を起こし、一気に1Lボトルの水を半分まで飲んだ。彼の名はブル・アンカーヘイヴン。アメリカ日本のハーフ、そしてボディビルダーだ。強靭の顎は母親に似ている。

「少し休憩したらレッグプレスだ。また体力は残っているな?」
「や、それはね、今日はもうこれで休もうと思って」
「なっ」

 コーチは訝しんだ。確かに体力について聞くのは自分だが、いつも限界ぎりぎりまでプッシュするブルの口からこんな言葉が出ると思わなかった。

「……らしくないぜ。何があった?怪我でもしたのか?」
「そうじゃない、カミサマが目覚めたんだ」
「はぁ?」
「今ワタシの最優先事項は、最高の餡かけ汁を仕上げて、チャーハンの上にかけることさ」
「はぁ?それはどういう……?」
「理解しなくてもいい。でもワタシは正気だと言っておこう。じゃあ、また明日」

 困惑しているコーチの肩を叩き、ブルはロッカーからバッグを取り出し、出口へ向かった。

「餡かけチャーハンを邪道と視るのか。とんだ老害思想だぜ、炒漢さんよ。ワタシがわからせてやる、この国で進化を遂げたチャーハンの凄さを」

 彼はなぜ炒漢とその発言を知ったのか、謎は深まるばかりである。

🔥🍚👹🍚🔥

 中央アジア某処。山奥のテンプル。

 肉切り包丁、麺棒、ダジン鍋などの道具を持った戦闘的料理人の彫像が並んだ前庭を通り、信者が集まる本殿に入りさらに東にある門を潜って長い階段を上げ下げするとようやく厨房に辿り着ける。中では性別、年齢、人種様々の料理人たちが忙しく動き回っている。ある者は生地をこね、ある者は包丁でヤギや鶏を肉塊に切り分け、ある者は汗ばんで大鍋を混ぜている。

 そして厨房の中央、井戸とも言えるほど大きなかまどの上に直径1.5メートルの土鍋の横に、190センチ近く、赤銅肌の偉丈夫が両手を広げた。するとかまどの底から火の舌が噴き上げ、鍋を舐め回す。内力による加熱だ!男自分も極度の集中で額から汗が流れ落ち、青白い頭髪は炎めいて揺らめく。

『完成だ』

 男はそう言い、熱さに構わず鍋の蓋を取った。凄まじい蒸気が鍋からふきだし、直後に厨房内は鳥スープの清い香りに満ちた。あまりのいい匂いに料理人たちは仕事を中断し、厨房の中央に目を向けた。鍋の中身はピラフ、炒めた米と具を、スープやダシを加えて炊けあげた。チャーハンと似ているが全く別系統の料理である。

「師父、どうぞ」『うむ』

 男は黒い調理服を纏っスーシェフ位階料理人からスプーンを受け取り、出来上がったピラフを掬い、口に入れて咀嚼した。塩味は丁度よく、鶏ガラの芳香が口腔に伝って鼻腔に充満する、米は炊け過ぎず弾力を保って……

「ヌッ!?」

 男は頭を押さえ、スプーンを落とした。予想がのでき事にスーシェフは狼狽えた。

比羅夫さま!どうしました!?」

 不安は波紋みたいに厨房内に広がり、料理人たちは騒ぎ始めた。底がこけ始めた鍋と揚げすぎだ揚げパンも放って、比羅夫の様子を見守り……

『喝ッ!!!』

 立ち直った比羅夫は吼えた!

『集中力が足りんぞ!誰が手を止まっていいと言った!』

「「「は、はい!すみません!シェフ!」」」

 気を取り直した料理人たちは己の不甲斐なさを恥って、各自の仕事に戻った。

『おまえもだ、サンムザイ。いちいち大げさすぎる。このぐらいのことで動揺するようじゃ、ニューヨークのランチタイムも耐えきれんぞ』

「……申し訳ございませんっ」

 シーシェフは帽子を取って最敬礼!

『よろしい。ではピラフを本殿に運びたまえ。信衆たちはもう腹ペコのはずだ』
「ハハーッ!」

 厨房を後にし、比羅夫は自室に戻り、マグカップにワインを注いだ。

(さっきの感覚、チャーネットが復活したか。となれば)

 ワインを一口含み、引き出しから古いマキモノを広げた。そこには、赤銅膚で赤髪の男と、赤銅膚で青髪の男が向き合う絵が描かれていた。題名は、「炒漢対比羅夫」。

『新たな炒漢、か』

 比羅夫は微笑み、ワインを飲み干した。

『来れるなら来てみるがいい、吾輩はどこへもいかぬ』

 新たなイクサの幕開けだ!

チャーハン神炒漢 第一章 半チャーハンの半分 おわり

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