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イヤーボルケーノ

生まれた時から左の耳の、付け根のところに小さい穴が開いていました。

指でつついてみると、汗を濃くしたような液体が出てくる不思議な穴でした。液体自体はにおいますが自分から出たものだし嫌いではなかった。むしろ嗅いだり舐めたりし、度々に親に注意されました。

小学校4年の時に、学校で健康検査を受けました。そこで耳の小さい穴には耳瘻孔という正式名称があると知りました。赤ちゃんがまたお母さんの腹の中にいて、耳の形成している時に異常が起きてこうなったと。主な原因は遺伝だそうですが両親も妹も耳瘻孔がありません。

耳瘻孔はあっても特に困ることがないので(むしろ体の楽しく方がひとつ増えてメリットすら言える)気にしませんでした。しかし大学2年の夏休みのある日、耳瘻孔あたりがひどく腫れて火山のように隆起し、押してみると穴から膿のようなものが溢れました。結構痛いし、熱もあるので、すぐ近くの耳鼻科に駆け込みました。先生によれば耳瘻孔に細菌が入って炎症を起こしたそうです。抗生剤を飲んで症状が治まりましたが、それ以来耳瘻孔からは液体だけでなく白っぽい分泌物も出るようになりました。これも結構臭い。妹にも嗅がせたけど「ヴォエッ!くっせぇ!チンカスみたいなにおいしやがる!」と言いました。高2の妹がチンカスの臭いを知ってることに少しショックを覚えました。お姉さん彼氏いない歴=年齢だというのに。分泌物のことを耳チンカスと呼ぶことにしました。

それから半年の間に2回も感染が起きました。耳瘻孔は一度やられると何度も再感染が起こるらしい。3回目の症状は前回よりひどく、腫れと溢れる耳チンカス以外に、瞼の裏側に膿のような粘質なヤニまででました。もう堪えられません。私は大きな病院に行って診てもらい、瘻孔の切除を薦められました。

手術自体は簡単なものだそうです。先生の話によるとまずは瘻孔に着色料を垂らして中に染み込ませて、それから染色した部位を切り取ってクリーンにするだけ。

早速手術を承諾しました。しかし手術に入って、瘻孔に着色料を入れるところまで行きましたが、手術が中止になりました。

「予想を超えた事態になりました」
と難しい顔の先生に告げられて、悪い想像が頭によぎります。もしかしてほかの重い病気だとか?
「貴女の瘻孔はどうやら、脳につながっているようです」
へ?
「とても繊細の瘻孔です。もっと精密な検査が要るでしょう。それまでに手出しはできません」
そうなんですか。じゃ、瘻孔から出てくる分泌物ってもしかして……
「まあ脳ミソでしょうね」
本当ですか!?大丈夫ですか脳ミソが漏れ出て!
「少量だし、人間は普段脳の10%しか使わないと言われますんで大丈夫じゃないですかね?」
ですかねって。
「とりあえず似たケースがないか調べますんで、来週また来てください」

はぁ、散々な一日でした。耳チンカスの正体はまさか脳ミソだなんて……ちょっとまって、つまり私の頭は耳チンカスが詰まってるってこと?

とか悩んでいる間に瘻孔がかゆくなってきました。押したい。中にたまっている耳チンカスを捻りだしてて楽にしたい……人間は普段脳の10%しか使わないと言われる。つまり残りあと90%。なら少しぐらい大丈夫ですよね……?


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