炒飯神太郎の日常 川編

ジャララララ......流水のせせらぎのなか、膝まで水に浸って、炒飯神太郎は閉目していた。

「嘶ゥーー」

息を吸いながら、上に向かって開いた両掌を肩甲骨の高さにゆっくり持ち上げる。

「吼ォーー」

息を吐き、両掌を下に向けて、押し戻すように丹田のところまでゆっくり下ろす。この動作を何度も繰り返し、体中に駆け巡る生体エネルギ、『気』を練りあげる。これが運功という、アジア武術によく見られる内功鍛錬の基本型である。そして。

「嘶ゥー、吼ォー……忿ッ!」

運功の姿勢を解いて、右拳を構える炒飯神太郎!その目は眼下にある茶色に染まった布、おじいさんのふんどしを睨みつける!

「恨ッ!」

バァァシュッ!渾身の瓦割パンチがふんどしに着弾!拳威の余波で水飛沫が舞い上がる。

「忿ッ!」

腰をひねって、逆の手。

「恨ッ!」

バァァシュ!拳がふんどしに当たる瞬間に握りしめて威力を増す!拳威の余波で水飛沫が舞い上がる。

「忿ッ!恨ッ!忿ッ!恨ッ!忿ッ!恨ッ!忿ッ!恨ッ!忿ッ!恨ッ!忿ッ!恨ッ!」

凄まじい連打!内力を込めた拳はふんどしの繊維に浸透して付着している汚れを迫り出し、周りの水が茶色に染まると代わってふんどしが白くなっていく。

「忿ッ!恨ッ!忿ッ!恨ッ!忿ッ!恨ッ!忿ゥンンン......恨ァァーッ!!!」

SPLASH!フィニッシュブローじみた一撃が振り下ろされ、川の中で水雷が起爆したかのように水が噴き上がった。空に虹がかかる。

洗濯済みのふんどしを拾い上げ、川辺に憩っているおばあさんに差し出す。

「師匠」
「うむ」

おばあさんはふんどしを広げてチェックする。まるで漂白剤溶液の中で2時間じっくり漬けてから洗濯したような潔白のさま。あばあさんは頷いた。

「合格だ。申し分ないクリーニング、が、手数がかかりすぎた。これじゃ現場では使えん」
「ハッ、精進します」
「どれ、お手本を見せてやろう」

あばあさん未洗濯のふんどしを持っては川に入り、気に入りの洗濯石の上に置いた。洗濯石は長年の洗濯によって表面が削られ、窪んでいる。

「かつて男装して少林寺に潜入したあたしが盗んだ唯一の技、それが金鐘罩だ」運功しながら、おばあさんは言った。「方丈に女だとバレて追い出された時はすでに18銅人中10人とも枕して秘技を聞きだしたのさ……ククク......」
「うっ」

頭の中に剃髪した若い頃のおばあさんと全身に金粉を塗ったマッチョ坊主と行為する画面が浮かんで、神太郎は胃から迫りあがってくるた今朝のチャーハンを横隔膜の力で抑えた。

「防御技だと思われていた金鐘罩だが、あたしは50年かけて研鑽して改良してきた。その結果が」

腰を落とし、右拳に力を籠める。ビビビっと、おばあさんの手が震え始める。

「筋肉の緊張と弛緩、すなわちジバリングという生理現象に、金鐘罩の硬化を加えーー」

炒飯神太郎は屏息し、目を見開く。音こそないものの、異常な速度でジバリングするおばあさんの右手はフルパワーで稼働する電動ツールのように細かく振動する!

(なんという振動か!もしそれに金鐘罩の硬気功を足せば、考え得る結果は!)

「震ッ!」

バッバッバッバッバッバッバッバーン!超振動拳がふんどしに触れた瞬間、洗濯石を中心に、川水が8回波打って噴き上げて、8つの同心円に波紋を刻んだ。

「これが顫拳センケンだ。己の振動で砕けて、穿つ。あたしのオリジナル技さ。理論上は全身で使えるけど、編み出したときはもう60超えでねぇ。片腕だけで精いっぱいだわ。ふぅー」

右手を握って放ってリラックスさせながら、おばあさんは炒飯神太郎にふんどしを渡した。清潔だけでなく、繊維もほぐれいて感触がいい。まるでホテルで使われるタオルのような安心感。これで顔を拭けと言われても不思議に嫌な感じだと思わない。おばあさんが長年をかけて極め、成し遂げた技だ。

「すごい……是非ともご伝授お願いしたいです!」
「おっ?興味を持った?じゃあまずは1分間1万回ジバリングから始めよう。それと神太郎、今日はサクラマスのチャーハンが食べたい」
「ハイ!獲りに行きます!」
「洗濯終わってからな」
「ハイ!」

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