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コーチ・フレイムヘッド(邦題:空に向かって撃ち放て!)③

 ちょっとしたトラブルがあったが、テープ起こしの作業は何とか終わらせた。17時28分。結構遅くなった。

 デーダをアップロードし、ノートブックを閉めた。少しストレッチした後、マスクとベースボールキャップを被り、外套に袖を通し、マフラーを回した。最後に眼帯の上にサングラスをつけたら外出の準備は完了……おっといけない、忘れるところだった。私は机の引き出しから小型の拳銃を取り出し、外套の裏側にあるポケットに入れた。これでよし。スニーカーを履き、外に出た。

 今日は天気がいい。傾け始めた陽射しで町が金色に染めている。秋とはいえ、また半袖で出歩く者がいるほど寒くはない。すぐにマフラーで首辺りが蒸れてきた。道の向こうにジョッギングしている若い男が私に気づき、ハンドサインでアイサツしてきた。私も手を振って返す。顔のせいで嫌でも私のことが知り渡っている。

 マフラーを緩めて、駅の方へ歩きだす。

 顔に怪我のない、いわば普通の人(最近は普通とか言いいだしたらPCの連中が騒ぐから気をつけるんだぞ)が私を見た時反応は大体3パターンある。

1.気まずく微笑んで挨拶してくる。しかしそれ以上接近してこない。「そのキズ気は私たちのせいではないから、お願い早くどっか行って」と言わんばかり。
2.嫌悪的な視線で見てくる。外見だけでなく退役軍人に対して世間が厳しいことも一役立っている。そう言う連中を睨み返すのがちょっとした楽しみになっている。大体の奴は私と視線を合わせたら5秒後目を逸らす。睨めっこ強いんだよ私は。
3.無視する。これが一番ありがたい。

 たまに親切に接近してくるもたまにいるが、漏れなく宗教の勧誘か、年々薄くなる補助金で身が窄まる退役軍人から最後の一滴まで絞り尽そうとする詐欺どもだ。

 さらに珍しく、敵意を剝き出して挑発する奴がいる。

 目の前の不良がそうだ。

「ういぃぃ~フレイムヘッドォ!ダメじゃないか日が明るいのにそんな格好で日が明るい内に外に出ちゃ。心臓が弱い爺さん婆さん発作してしまったらどうすんだ?弁償できんのこの税金ドロボウ!」

 ツーブロック少年がそう言った。お前また納税したことないだろ?隣にいる坊主頭で比較的に大人しい少年が友達に飽きながらもいつでも加勢できるように、あるいは止めに入るように身構えている。ちなみにフレイムヘッドは私に対する蔑称だ。言葉通り頭が火に焼かれた意味で。

「どうした社会を巣くうウジ虫!悔しかったら言い返して見やがれぇ!」

「ファー、すまんのう。坊の口が臭くて一瞬気が遠くなったわい」私は鼻を摘まみ、わざと老人口調で言った。「きっと、歯が生える前から親父さんに口をぶち込まれてカムをたくさん飲まされただろう。その味は病みつきになって、今でも夜な夜な親父さんのカムを求めるのかとも思うと、おばあさんが心配で心配で……」

「プフーッ!」

 坊主頭は我慢できず、クールの表情を崩して噴き出した。

「ハァ?カム?何それ」

 一方、つーぷロック少年はいまいち言葉の意味を理解していない様子であった。

「カム……つまり精液のことだよ。英語のAVとかあったろ、ギブミーユアカムとかさ」
「ああそれかァ!つまり……」

 お友達のヒントを得たツーブロック少年は私の言ったことをもう一度思い出し、理解できたのか。顔が茹でたタコのように赤くなり、肩が震えあがる。

「テッッメェーッッッッッ!!!」

 拳を握りしめ、怒れる悪鬼の形象で迫ってくる少年に、私は裏ポケットに仕舞っている拳銃に手を伸ばした。

(続く)


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