ストレス・オブ・ザ・ワイルド:気軽にお手伝い、大きな後悔
注意:うちのハイリアの英傑は口が汚いです。
「探すの手伝いますよ」
その軽率な一言で俺が今までにない後悔と屈辱を味わった。
ことの発端はシーカーストーンの写真機能を復活させ、カカリコに戻って(ここはまず一回パーヤの前で服を脱いだ)、昔の記憶を取り戻すため古い写真が写った場所を巡れる旅に出たところ。インパの家の近くに、いつも門番しているおやじが鶏舎の前で頭を抱えていた。そして俺は親切な勇者だ、困った人を見かけてたら放っておけない。
「何があったんですか?」
「……コッコが、コッコが帰ってこないんですッ!」
どうやらおやじが飼育しているコッコが村中に散らばって鶏舎に帰らず、それが逃げられた妻を思い出させて精神不安定になったそうだ。
「探すの手伝いますよ俺に任せてください。ちょうど探し物に持ってこいの道具持ってるんで」
「本当ですか!?せひお願いします!コッコを全部10羽見つけてきてください!」
シーカーストーンのサーチターゲットをコッコに変更して、ミッション開始だ。つってもあまり必要がないかな。早速反応が来た。1羽2羽3羽……順調に鳥を探し出し、フェンスに投げ込んでいく。まあ俺ぐらいの勇者にかかればこんなミニチャレンジちょちょいのちょいだよ。10分で済ませてやるわ。
~50分後~
えー皆さんこんばんは。ハイリアの英傑・リンクです。記憶がないです。俺は今、山麓の馬宿にいます。なぜここに居る原因は今から説明しましょう。
シーカーストーンはの力を借りて、コッコ探しは9羽目までは順調だった。しかし10羽めはどこを探しても見当たらなかった。
シーカーストーンからはずっと反応があった、当然だ、その方向に9羽が集まってるからな。俺は家の裏と床下を探ったり、崖を登ったり(ここでコログの実を手に入れた)、カエルの像にリンゴを供えたり(そしたらコログの実もう一つ手に入れた)、村人の家を荒らしたりした。
鳥が一切見つからないので、俺の機嫌が益々悪くなった。1羽いなくとも別いいじゃないか。畜産とは家畜の死亡と紛失によるロストが付き物。今回を教訓にして、残っている9羽をこれから大事にしていこうじゃないか!とおやじを説得しようとしたが、向こうはひたすら「コッコが……コッコが9羽しかいませんッ!」とヒステリーに繰り返して喚くだけ。なんなんだよこいつ……鳥が一匹なくしたぐらいこの様でよぉ。まさか動物性愛者じゃねえの?奥さんに見捨てられたわけが解った気がする。
このままでは埒が明かない。見つからなかったら、他の場所から調達するしかない。俺はテレポートを使って、馬宿に降りた。確かにここは鳥が歩いていた気がした。あった。後ろから迫って、持ち上げる。
「コォーッ!ココッコッココォーッ!」
鳥が狂ったように羽ばたいて鳴き声をあげる。宿の主人の視線を感じた。えっ、なに?なに見てんの?頭が高いぞ?厄災ガノン討伐、戦ったわけ?あーでも俺が負けたからハイラルがこうなったけどね。すまん。記憶にないけど。
よその目を気にせず、頭に鳥を乗せたままで、俺はカカリコ村へ向かって出発した。存知のとおり、鳥を持った状態では乗馬もテレポートもできない。頼れるのは己の足と揺るがぬ意志と指さされ笑われても決して折れぬ鋼鉄のメンタルだけだ。
「コォーッ!ココッコッココォーッ!コッコ!コォーッ!」
うるせえ!鼓膜が破れるわ!
俺は野をかけ、山道を登った。旅人に訝しんだ目で見られるたびにストレスで心臓が潰されそうな感覚を覚えた。時を戻してあの時の俺をトゲボコバットで殴り飛ばしたい。俺はイケメンで、英傑で、勇者だぞ?なんでこんなところで頭によりを乗せてマラソンするような奇行をしないといけないんだ?
『キュンキュン!ミログの実の匂いがするネ!くれよ~』
黙れボックリン!俺は今機嫌が悪い!
目の前に峽谷が見えた。ここを降りればカカリコが目前。やっと、やっとこの苦行と奇行が終われる!深夜なので外に人があまりいない、好都合だ。鳥をフェンスに投げ入れて、終了!FOOOO!
いやー、終わったわ。大変だった。あとは朝になっておやじに報告だけ。俺は焚火に当たって、朝まで待った。
そして朝、鶏舎の前でおやじ会いに行った。朝起きたら心優しい勇者がコッコ10羽取り戻してくれて、嬉しさのあまりに絶頂しているところだろう。
「おうおやじ。約束通り、コッコ捕まえてきたで」
「……何を言っているのです?コッコは9羽しかいませんよ?」
「は?」
おめえこそ何を言っているんだどう見ても10……アレ?
1…2…3……9!? 9しかない!!!?なんで!?何があった!?
「コッ、コッ、ココココココ……」
俺は過呼吸になりかけて鳥みたいな声を漏らした。え?こんなのってある?クエストに指定されたする特定の物体以外はカウントされないシステム?ニンテンドーがここまでやる?
今すぐにでもフェンスに飛び入れて大回転斬りをぶっ放したい気持ちを僅か理性で取りとめた。コッコにちょっかいを出すとやばい、ガノン以上の厄災が俺に降り注ぐと、歴代ハイラル勇者のゴーストが囁ている。
認めざるを得ない、口から出た災い、苦行の意味がない、俺完敗。
俺はもう一つのシーカーストーン、シュマ=ホーン呼ばれる道具を取り出し、[コッコ 居場所]で検索した。すぐに結果が出た。あぁ?呉服屋の屋根の上?
「マジかよ……」
振り返って見上げると、鳥がそこにいた。ウッソだろ?こんな近くに?そりゃシーカーストーンに誤導されるわ……いや、シーカーストーンに頼り過ぎて目が節穴になったのが俺か……はは、こんな状況を想定して鳥をそこに設置したのか?ニンテンドーにやられた。
とりま鳥をとっ捕まえて、警備任務中のおやじに報告した。
「気のせいでしょうか?さっきからコッコちゃん10羽分の音が聞こえた気がして動悸が止まらない……って本当ですかッ!?ありがとうございます!ありがとうございます!よかった、コッコちゃん……」
謝礼として50ルビーを貰った。俺はたかが50ルビーであれほど苦労したのか?神獣とは……人生とは……今更じゃあ怒って悲しむ気も起こらない。達者でなおやじ、バードに囲まれる楽しい人生を送ってろ。
アドバイスしてやろう。まずは家畜に過度な愛情を注ぎ込むのやめろ。ちゃん付けするな。たまに友達と出かけてヤギを山羊を撃ったりゴブリンの野営を爆発したりしろ。
鬱陶しくなってきた。またパーヤの前で服を脱ごう。
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