目を覚ませ僕らのCORONAはMEXICOじゃなくなっているぞ! 3

(スーパーヒューマンサムライスクワッド、間もなく始まる!)

⚡ S u p e r h u m a n   S a m u r a i ⚡

コリンズ邸の地下室、かつてチーム・サムライがここでバンドの練習をしたり、メタウイルスモンスターと戦ったり、何もせずただだべたりして、青春を謳歌する大切な場所であった。現在は主に物置として機能している。

一年ぶりにドアが開き、鼻につくカビとホコリのにおいにサムは顔を顰めた。パーカーの袖で鼻と口を覆い、ダンボールや家具を避けながら奥へ進む。部屋の中央に、防塵シートに覆われる物体が鎮座していた。

サムは息を止め、これ以上ホコリが舞い上がらないように慎重にシートを外した。シートの下にパーツを乱雑に組みあわせ、ケーブル剥き出しの廃棄物じみた機械があった。それはジャンクという、かつてグリッドマンの力が宿った、キロ・カーンとの戦いにおいで必要不可欠なコンピュータだった。

「頼むぜ、動いてくれよ……」

プラグをコンセントに挿し、起動ボタンを押す。ガギィー、ギゴォゴゴゴ、ピピッピポ、ズガガガ、ドッドドド……長い安眠から叩き起こされ、不機嫌にわめいているかの如く、ジャンクはあちこちから不穏な駆動音が立つ。

呻き声がしばらく続いて、一時はどうなるかと思ったが、30年物の骨董品が無事に起動した。ブラウン管モニター独自開発のOS画面が映る。

「生きてた!良かった......!」

第一関門がクリア。続いてサムはキーボードを打ち込んでデータを呼び出す。画面にティラノサウルス型ロボットの3DCGが映る。かつてグリッドマンと共にキロ・カーンの悪巧みの数々を破った頼れるサムライアタックビークル、合体超竜ダイナドラゴンだ。

「今回は頼むぜ、ドラゴン! 」

グリッドマンが去った今、ダイナドラゴンがサムひとりで動かせる最強戦力だ。シドからもらった出撃プロセスに参照し、コマンドを入力しく。

(いい?30年の時を経て、ジャンクはその名前に相応しいアンティークなのよ)

作業している中、シドの言葉が頭によぎる。

(今じゃそこら中のスマホより性能が劣るわ。例えばサムライアタックビークルを出せるとしても、今のインターネット環境じゃまともに戦えないかもしれないわ)
(わかってるよ、シド。でも僕は行く)

Enterキーを押して送信、ダイナドラゴンがドラゴンフォートレスにモードチェンジする。これで出撃の準備が整った。サムはジャンク正面に立ち、エレキギターを抱える。

「行くぞ……レッツ、サムラーー」

30年ぶりのサムライズが琴線に触れたか、ギターの弦を鳴らそうとする途端、昔の前の記憶が突如にフラッシュバックした。

『ぐはっ!攻撃が激しい!なんか防御に使えるものはないか!?』
「そう言われてもよぉ、昼メシのスペシャルドッグがマルコムの奴に台無しされたせいで今すごく腹が減ってアイデア全く思い浮かないぜ!」
「スペシャルドッグ……そうだわ!ドッグの形に見立てて盾を作ってましょう!ちょっと待って、グリッドマン!」
「ほう、パンの部分が盾になるわけか。ならばソーセージの部分を仕込み剣にしない?これじゃ攻撃力も補強してなりよりグリッドマンが剣闘士みたいに戦える、想像するだけでかっこいい!」
「なるほど、ナイスアイデアだねアンプ!採用するわ!」
「でも剣ならすでにグリッドマンライトセイバーがあるだろ?今更実体剣の必要ある?」
「いやあるね。今後の話にビーム兵器が効かない敵がでるかもしれないし、何よりおもちゃをたくさん売らないと番組の存続にかかわる。おれは別の星から来た人間だからわかる」
「アンプがまた変なこと言ってるわ」
『……いいから早くなんか寄越せっ!!』

(あとでタンカーとラッキーに謝ろう……だが今は!)

サムは鼻をすすり、沸き上がる感情を抑えた。気を取り直し、もう一度ギターを構える。悔しやと切なさを込めて、あの言葉を強く唱えた。

「――レッツ!サムライズ・ガイズ!!」

ズワァーーン!ギターの絃を弾いたサムは光に包まれてジャンクに吸い込まれ、ドラゴンフォートレスの中に転移された。

「ハハッ、昔に戻ったみたいだ!」

ドラゴンフォートレスのコクピットの中、サイバー戦闘服に身を纏い(腹周りがややきつい)、フルフェイスヘルメット被ったサムがいた。周りに無数のボタン類が点滅して90年代SFの雰囲気を醸し出す。

「ドラゴンフォートレス、テイクオフ!」

ドラゴンフォートレスはLANケーブル経由でコリンズ邸から電気システムに入り、さらに衛星回線に乗って数秒のうちにバドワイザー福建分社のサーバー領域に到達した。常に夜を保っている電子の空に穴が開き、中からドラゴンフォートレスが飛び出した。

「着陸するぞ!ダイナドラゴンにモードチェンジ!」

低空飛行する大型戦闘機は空中でティラノサウルス型ロボットに変形し、着陸する。30年の時を経て、合体超竜ダイナドラゴンが再びデジ・ワールドに立った。

「さて、忌々しいメタウイルスモンスターどこだ……?」

周りは見渡す限り真鍮色の醸造釜と赤と白塗装の貯蔵槽で構成された工業的電子都市で、メタウイルスモンスターところか、破壊された跡すらなかったい。平和な風景を目にし、サムは落胆した。

「てことは、本当なんだなぁ……メタウイルスモンスターがいないって」

メタウイルスモンスターの仕業ではない、つまりバドワイザーは合法的にセルヴェッセリア・モデーロ社の授権のもとでCORONAを中国の工場で製造し、販売していることとなる。タンカーの言うとおりだった。

(くそ……皆が前に進んでいるというのに、僕が、僕だけが、また昔に引きずって……!)

自分の不甲斐なさに悔むサム。その時、領域の中にアラーム音が鳴り響いた。BEEEEER!BEEEEER!BEEEEER!流石はビールだけあってアラート音もビール的。

「なっ、なにがどうなって……むっ!」

貯蔵槽の一基がカチャカチャよ変形し、ビール樽から手足が生えたようなロボットとなった。、バドワイザーのセキュリティシステムがデジ・ワールド内に構成したバドワイボットだ。

『不正アクセスを探知、エリムネイション』
「なんだか知らが敵だな?ちょうど今むしゃくしゃしているんだ、喧嘩なら買うぜーッ!」

サムは先制してダイナドラゴンのクローを振り上げてバドワイボットのボディをえぐりに行く!スパァーン!たくさんのメタウイルスモンスターを引き裂いてきた竜の爪がロボットの装甲を容易く破壊ーー

「おれ?」

ーーできなかった。それどころか白いかすり傷ひとつも付かなかった。30年物と現在進行形でアップデートされ続ける現行ソフトウェア、その性能差が歴然!

「くっ、ならこれはどうだッ!』

必殺のドラゴンロアを放とうと大きくじ開いたダイナドラゴンの口に、バドワイボットが拳を叩き込む!口内に爆発が起こる!

「ぐわあああああ!!」

コックピットが揺れて、サムは狼狽える。”中途半端なタイミングで必殺を撃つと負けフラグ”、古来から伝わる特撮の掟が勿論ここでも通用する!

『ディストロイ&ディストロイ』

バドワイボットは連続攻撃を仕掛ける。なんの変哲のないパンチ、なんの変哲のないきっく、だが一撃一撃がとてつもなく重い!ダイナドラゴンが圧倒されサンドバック状態!

「ひっ、ひぇぇぇぇーっ!!」

コクピットのあちこちに火花が飛び散り、煙がふきあがる!サムは己の甘さに悔やんだ。サムライアタックビークルは現在インターネット環境では多少の苦戦を強いられるけど、自分なら切り抜けると思っていた。しかし現実の壁は高かった。これほどスペック差があるとは思わなかった。

『バドワイザービールが30日かけてじっくり醸造してスムーズなのどごし』

自社商品をPRしながら、バドワイボットはとどめの一撃を繰り出さんと右腕を絞る。ダイナドラゴンのダメージが大きい、この一撃を食らったら確実に爆散するだろう。デジ・ワールドでの死亡はすなわち完全なる消滅を意味する。30年前にグリッドマンに変身して世界を救ったヒーロー、サム・コリンズ。彼の人生はここで終わるか!?

(タンカー、シド、アンプ、ラッキー……誰でもいい、来てくれ……!)

サムは心の中で仲間を呼んだが、誰も来ることがなかった。声に出していないからだ。たとえ声を出して何らかのテレパシー的な力が働いてな力サムの想いが仲間に届けたとしても、ジャンクがないとデジ・ワールドには入れない。助けてがくる確率は限りなく0%に近い。

絶望的に陥りかけるサムの脳裏に、赤のボディに銀の鎧を纏った夢のヒーローの姿がよぎる。生存本能に駆けられ、藁にもすがりたい心情で、サムははあの名前を叫んだーー

「助けてくれーッ!グリットマーーンッ!!!」

そしてあろうことか、電子の空に再び穴が開いた。

⚡ S u p e r h u m a n   S a m u r a i ⚡

(スーパーヒューマンサムライサイバースクワッド、CMのあとすぐ!)


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