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スペース・コーン・シップ #1200字のスペースオペラ

【同盟歴946アイ 12ワンス 25ダイ】
ついさっき最後の水を嚥下した。遭難から2ウェック、救難信号は出したものの、救助はおろか、宇宙海賊すら影を見ない。銀河の砂漠と言われるデルタ領域だけある。
妻と息子は5ダイ前コールドスリープに入った。私はギリギリまで待つとする。あと数ホアー待てばもしかして救助が来るかもしれない。可能性が限りなく0に近いが、それを賭ける他に方法がない。

【同盟歴946アイ 12ワンス 27ダイ】
渇きが耐え難い。空腹もつらいが、水なしで乾燥食糧を食べたら間違いなく喉に詰まる。とても苛立つ。マイナス思考が振り払えない。私は麻酔薬が入った注射器を長く見つめた。二本を打てば私は苦痛から解放される。一人分のコールドスリープエネルギーを省けば妻と息子がもっと長く耐える。悪くない。決めた。明日に状況が変わらなかったら注射を打とう。年末で家族だけの宇宙旅行なんて提案するんじゃなかった。出発してまもなく重力井に吸い込まれるとは誰が想像できたのか。

【同盟歴946アイ 12ワンス 28ダイ】
オウマイユーニオン。絶望しかけた私の前に救いの手が差し伸べた。あれは一本の柱状体宇宙船、表面に彩りの丸い突起が並んでいる。まるで巨大のコーンだ。私は興奮して回線を開き、濃い唾で粘っこくなった口を開いて通信を送った。相手はケツァル・コーン・アトルと名乗り、水と食料を分けてくれると言った。
妻と息子を起こし、目覚めて歩くのもおぼつかない二人に宇宙服を着させた。妻はコーン型宇宙船を不審がっていたが、飢えと渇きには敵わなかった。たとえ罠だろうと、何もせず、宇宙を漂うよりはましだ。
巨大コーンに隣接し、向こうのハッチを開けたと確信したあと、ジェットパックで向こうへ飛んだ。巨大コーンに入った途端、広がる光景で私は驚嘆した。通路、壁、天井、全部植物繊維で出来ている。人類が作った冷厳の印象を与える宇宙船とは全く構造が違う。でも不思議のことに不安は感じない、それところが懐かしい感じすらある。
船の主人と出会った。宇宙空間で薄地のドレスを着た、長身の逞しい女性だ。
『飢えているだろ。ついて参れ』
口調はやや尊大。私たちは食堂らしき場所に入り、蒸気漂うカップを渡された。黄色い透明の液体が入っている。
『コーン茶だ』
3日ぶりの水分だ。私は熱さに構わず、カップを空にした。全身の細胞が蘇えったみたいだ。感極めた私は妻と息子をハッグした。待つ甲斐があったのだ。私たちケツァル・コーン・アトル感謝を述べた。
『気にするな。好きで飢えている人を助けている』と彼女は言った。その後、彼女は自ら腕を振って料理をご馳走してくれた。コーンスープ、茹でコーン、タマル……コーンつくしだ。これほど料理が旨いと思ったことがない。

【同盟歴946アイ 12ワンス 29ダイ】
腹が重い……一気にコーン食べ過ぎた。

(終わり 本文1181文字)

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