見出し画像

ふたりはPre-cure  ④


「誰だてめぇ!」黒パーカーのガイはバットを手放し、一歩飛び下がると、腰に帯びているポリスバトンを取り出し、振って伸ばすした。パトンを持っている右手を戻し、右拳を前に突き出す構えを取った。素手の者に対する圧制の形。喧嘩慣れているな、とクレイトンは思った。木製のバットはパコンと声立てて地面に落ちた。

「サミー!なるべく早めに片付けるからしっかり要キュア者を守れ!」

 サミーはじむーに肩を貸し、立たせながら、クレイトンに向かって頷いた。クレイトンは手招きした。

「ようし、どこからでも来なよ、ボーイ」

「外人が……なめんじゃねえッ!」

 大振りに振りおろされるバトンを、クレイトンは左手を上斜めに突き出し、攻撃の軌道を変えた。さっきじむーがやろうとしたことと同じだが、その動作は長年の訓練と実戦の中で洗練され、嵐をも耐えてきた古木のように安定し、堅牢である。パトンが前腕の上を滑っていく。クレイトンはすでに後に構えていた右手に力を漲らせ、相手の鼻梁にめかけ稲妻めいた掌底を繰り出した。しかし。

(なにっ!?)

 いつの間にか、ガイは左手を顔前に翳し、スイッチナイフを逆手で握っていた。

(お前のような腕自慢野郎は必ず顔面へのカウンターを狙ってくると信じたぜ)ガイの予測が的中し、自分の勝利確信した。(来いよ!このまま刺されようが手を引っ込めようが、その隙に切り刻んでやる!)

 しかしクレイトンは腕の勢いを緩めない!

ぶっ、とば、せっ!(Pre-cure!)
ガ、チ、だ!(Pre-cure!)

「「ガアァッ!」」

 衝突!マッチョマン白人渾身の掌底を受けたガイが5フィート後ろへ飛ばされ、仰向けに倒れた。

「ジーザスクラストッ!」クレイトンは毒づきながら自分の右手を抑えた。ナイフの刃が掌を貫通し、手の甲から突き出している。「あぁ……クソがッ!ここはキューバのバーじゃねえぞ!」

 そして黒パーカーのガイは口と鼻から血がおびただしく湧き出て、前歯は二つ欠けている。クレイトンが刺されたまま殴り抜いた際、ナイフの柄に砕かれたのだ。

「クレイトン!やり過ぎだよ!死んじゃったらどうすんだ!」

「おれが破傷風で死んじゃわないか心配しろ!」

 クレイトンはボーチから小袋の薬剤を取り出し、歯でちぎって開封すると、中の粉末を右手に塗布した。

「おめえら!」さっき電撃を食らったもう一人男が跳ねるように立ち上がった。「よくもやってくれたな!無事で帰れると思わアァアァアァアァーッ!」痙攣!テーザー銃のワイヤーは付けたままだった。

「Pre-cure完了だ」クレイトンが掌に包帯を巻けながらサミーに言った。「現場が熱くなる前にずらがるぞ」

「そうだね……きみ、歩けるかい?」

「あんた達……ずっと俺のこと、見ていたのか?」

「ごめん、やはり見過ごせないから。お節介焼きだったかも知れないけど……」

「いえ、お陰で助かりました……」じむーが安堵な息を吐くと、鈴のこと思い出し、二人に尋ねた。

 「そうだ。その、友達が……俺と一緒にいた、女の人が……」「ガールフレンドのことなら、おれがここに入る前に見た。ずっと路地の様子を伺っていたが、近づくと離れていったぞ」「無事でしたか?」「まあ……無事だった、かな?」「そうか……よかった」

「「……」」

 クレイトンとサミーは無言で視線を交わした。彼らじむーが襲われる原因をある程度勘付いた。

 三人が路地を出ようと道路に向かう先に、鈴が前触れもなく横から現れ、路地に入った。

「あっ、鈴さんは!大丈夫で……」「やってくれたわね」「えっ」

 三人を横切りながら、彼女は吐き捨てえるように言った。その声は恐ろしいほど低い。

「早く起きろ!」彼女は靴の爪先でうめき声上げながら横たわっている二人を突っついた。

「クソッ……話は違うじゃねえかすすりん!ちびったぞ!」

「仕方ないじゃん!外人野郎に邪魔されたから。ガイ、立てる?」

「ああ……」

 二人はガイゆっくりと立ち上がった、その目は屈辱による怒りに満ちている。クレイトンは一歩前に進み出た。

「ちょ、説明してくれよ!鈴さん!」じむーは声を荒げて言った。「どういうことなんだよ!?」

「ほーっんと、バカだね、深友(みとも)さん」鈴は冷たくじむーを睨んだ。「そこの二人に尋ねてみては?」じむーは振り返った、Pre-cureの二人はバツが悪そうに目を逸らしたり、咳払いしたりした。

「あの、とても言いにくい事だけれど……」「Dude、あんたはカモだ」「言い方ァ!!」

 サミーはコントのツッコミ役みたいにクレイトンと肩を叩いた。じむーは足元が崩れて、無尽の深淵に落ちる感覚を覚えた。

「は、そ、なっ……だって?」同窓会での再会、他愛のない会話、デートの誘い、見せてくれた笑顔、全部俺を陥れるための罠だったのか?

「良かったね深友さん。素敵なヒーローに助けてもらってさ。デートはなかなかよかったよ。また会いに行くかもしれないから。たまには私のこと思い出して、震えて寝ろ」

「うん、あぁ……」じむーはほぼ放心状態だった。

「プッ! おい、がいひん」口に溜まった血を吐き捨て、ガイは刺すような視線でクレイトンを射止めた。「づぎ会ったらこふろす」

「おうよ」クレイトンは不敵に言い返した。

 三人は路地の奥に進み、闇の中へ消えた。

【次回はエビローグです】


当アカウントは軽率送金をお勧めします。