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ジャパナイズ

朝礼、総経理がこんなこと言った。

「諸君は既に知っているだろう。来年の2月は新年会および工場の竣工祝賀会が開かれる。そのおりに我がグループの会長と社長重役方々が日本からお越しいただくことになる。ここで諸君に願いたいことがある。私は外国から来た身で、みなみの国の文化を謙虚に受け入れるよう心かけているが、荒ぶる神々たる上層の方々はそんなもの知ったことではない。君らが普段通りの振る舞いを彼に見せれば、神々がお怒りになりこの中で誰かの首が飛ぶだろう。なので明日からは皆にジャパニーズスタイルマナーを学んでもらう。なぁに、簡単なものさ。せっかく日系の会社に入ったんだ、ジャパニーズカルチャーの奥ゆかしさを身につけるいい機会だぞ」

本当はもっと丁寧に話してくれていたが大体こんな内容だった。

翌日の朝礼にお勉強が始まった。

「おはようございます」
「「「オハヨーゴザイマァス」」」
「お疲れ様でした」
「「「オズカレーサマデシタ」」」

担当の日本人社員が日本語センテンスを読みあげ、他の人が復唱する。

「行ってらっしゃいませ」
「「「イテラシュアイマセー」」」
「ただいま帰りました」
「「「ダダーイマカエリマシタ」」」

会社はさながら初級日本語教室の様相を呈していた。総経理が社員に課する最初の任務、それが日本語でアイサツすること。アイサツはみなみの国においてもやはり大事だが、仕草と言葉遣いはジャパンと比べて大雑把で丁寧ではない。たとえ目上の人間に対しても「おはようございます」は「早(ざぉー)」、退社するときは「拝拝(ばいばーい)」で済ませることが多い。お辞儀はほとんどしない。社長の机の前にアイサツしに行ったりもしない。それが礼儀を重んじ今にも新しいマナーを生み出している日本人にはさぞ野蛮な民族に見えただろう。

私はこと通り文章を書けるほど日本語ができているので全然問題ないが、いい歳した社員たちがきごちない発音でリピートアフターミーやってる風景はどこかおかしくて、見ていて愉快なものだ。これが神々がご降臨になるまで続くらしい。

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