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BANDAIさん相変わらずBANDAIさんでむしろかっこよく見える

「ワッ、ダッ、ヘウ?」

モニターの前でグァンフアは訝しんだ。Youtubeのホームに、公式配信のデリシャスパーティプリキュア1話がPOPしたのだ。

(まさか......まさかのまさか?)

恐る恐るにマウスを動かし、動画をクリックする。動画。ページが変わり、プレイヤーが展開する。動画の枠に▶︎ボタンをクリックすると動画がローディングし始まった。観れる状態だ。

「マジかよォ!?」

プリキュアを、公式配信で、観れる。その事実はゲーミングチェアに座っている彼を仰天させた。それほど珍しく、嬉しいことなのだ。

「デリプリはNetflixなどでも配信されてるからそれほど驚くことないんじゃない?」と思っているあなた。すまない、事前情報の提出が足りなかったことを認める。では語ろう、彼のバックストーリーを。

チェン・グァンフア、名前は示す通り、彼は日本人ではなく、カイガイスタンだ。カイガイスタン(Kaigaistan)とは日本以外の土地に住んでいる地球人類の総称である。

彼はアルバイト留学ビサを取得し、日本で一年間滞在していた。長いようで短い、思いで溢れる一年だった。あいうえおのあも知らないで日本にやって来て、コミュニケーションが上手くいかなくて最初は大変だった。アルバイト先で要領が掴めなくて主任によくわからない日本語で怒鳴られた。飲み会でベトナムからカイガイスタン同僚に日本語を上達する方法を尋ねると「テレビみろ!テレビみたらなんとなくわかってくる!」と言われて、テレビをたくさんみた。中でもニチアサの番組が特に気に入った。そしてニチアサの番組の中でプリキュアが特に気に入った。気がつくよ自分がスーパーやコンビニでプリキュアの関連商品がないかと意識するようになり、プリキュアカレーをたくさん買って食べて「そのぬるいカレーばっか食ってんなオマエ」とネバールのカイガイスタン同僚に言われた。さらには休日一人で映画館に足を運びプリキュアの映画を観に行き、ネカフェで過去のプリキュアアニメを逐一履修していた。

ビサが残り一か月のとある日、サミエルというバイトする必要なさそうな中年白人男性のカイガイスタン新人が入った。同日にイジェクションと名乗ったコスプレっぽい格好の女が職場に現れ、グァンフアを抹殺しようとした際、サミエルは身を挺してグァンフア守り、死闘を繰り広げたりとか……それはまた別の機会に語ろう。

やがてビサが切れ、彼はそれなりの稼ぎとJLPTN3の合格証を持って帰国した。そしてプリキュアを自由にみれなくなるということを意味する。

日本に住んでいる幸せな読者は知る由もなかろう。アニメ、ゲーム、映画、プラモデル、ミュージックなど、エンターテイメントとホビーの業界を牛耳るBANDAIはカイガイスタンに対し、いかに厳しい鎖国政策を敷いてガイガイIPの持ち主を弾いてきたかを。

バンダイチャンネルはまず利用できない。カイガイからのIPをブロックしているからだ。そしてたまにYoutubeでやる期間限定放送もお住まいの地域では視聴できません。Netflixに検索をかけた結果はこうだ。

寂しい気持ちになったが、日本は極めてエンターテイメント自給自足の国だと。内需で収入が足りればわざわざの輸出したりしないと彼はそう思っている。だからデリプリがネットで配信するの情報が出たときもさほど期待していなかった。

しかし事実は予想を裏切った、いい意味で。

(感謝ッ……!圧倒的感謝ッ……!BANDAIさん!)

BANDAIがプリキュアチアフルアタックを食らって考えを改めたか、それとグリンチのように急に愛に目覚めて心が3倍大きくなったか、とにかく喜ばしいことだ。

(ではさっそく観てみよう......いや待て)

現在時刻は23時30分、明日は早起きしないといけない。もし今プリキュアを視聴したら興奮のあまりに睡眠不足になる未来が見えてくる。

「......明日にするか」

苦渋な決断だが、ポジティブに考えれば明日まで生きる目標ができた。期待を胸に収め、グァンフアは布団に潜って就寝した。

翌日!

「よしッ」

帰宅、腹筋ローラー、入浴を終えて、視聴体制は整った。動画の方はすでに後で見るに保存してある。

(デリシャスパーティ、ほとんど前情報見てなかったからな。今回はどんなプリキュアなんだろ。たのしみ~!)動画をクリック!

「んん?」

しかしモニターは昨日と違う画面を映した。

見慣れていた、拒絶的なメッセージ。

「そ、そんなァ……」

ヤラネーダにやる気を吸い取られた犠牲者のように、彼は全身から力が抜けて、チェアに沈み込んだ。

怒りはなかった。管理国家ラビリンスのごとく強大な統制システムを持つBANDAIに怒りをぶつけるところで、ノーザ・クラインに向かってプリキュア・ラブサンシャインを放つようなものだ(終盤の敵に初期の必殺技が効くわけがない。引いて無駄の足搔きを意味する)。

(どうしてこんなことに……もし、昨日は体力の分配を気にせず、視聴を後回しにしなかったら、正規ルートでデリシャスパーティ観れたというのに……)

今一番大事なことをやる。それを一年間唱えていたキュアサマーを見てきた自分がなにも学ばなかった……いや確かに現実はプリキュア以上に大切かもしれないが。

(あーもうめんどうくさい)

チェアから体を起こし、グールじみた足取りでキッチンに行って冷蔵庫から缶ビールを取り自室に戻って、それを開けた。

インターネットは広くて、深い。BANDAIがブロックを敷いて見せてくれないのなら、自分でブロックをこじ開ければいい、方法はいくらでもある。

アルコールで罪悪感を薄めて、彼はインターネットの闇へダイブするのであった.....


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