【剣闘小説】BARCODE REGION 1
「それでは今日の講義を始めよう。今日は我々の装備についてだ」
「あたしは装備に頼らねえ。裸だって勝ってみせる」
「そんなこと言うなら市場に連れて行かないぞ。当然私が出かける間に暇しているお前は厠の糞を掬ってもらうことになる」
「くっ!わかったよ……」
「よろしい」
夜が明けたばかりだが、ドゥームとストラウベリーは既に早朝の基本訓練を終え、庭の休憩場に座っていた。
「グラディエーターが闘技場に出場する最大な目的は試合終了まで生き残るであることに間違いないが、我々にとって殺し合い、観客にとっては娯楽であるを忘れてはいけない。あっという間に終わる、面白みのないショーなんて誰も見だがらない。だから絶対に勝てると確信した相手でも、たまには手心を施し、試合を盛り上げさせる工夫が必要だ」
「へー、前の試合は手加減したとでも言いたいの?負け惜しみにきこえるね」
「あれは油断した私の完敗だった。弁別するつもりはない。とにかく観客が満足できる試合に仕上げるかどうか、それは報酬にも影響がでる。おまえが負けて死ぬことは心配していないが、私の元に入れたのはあくまで稼ぐためであることを常に心においておけ」
「ウス、わかりましたよマスター・ストラウベリー」
「よろしく頼む」素直に了承したドゥームにストラウベリーは頷いた。「そして試合を盛り上げるにはもう一つ大事な要素がある。装備、つまりSwordとAmorのことだ。おまえは裸でも出れると言ったが、観客は剣闘、血と暴力を求めてコロシアムに来た。女の裸など娼館に行けばいくらでも見れる、おまえの貧相な肉体はなおさらだ」
「貧相って」ドゥームは自分の体を見下ろし、ストラウベリーを見た。ドゥームは身体がよく締まり、野生動物みたいにしなやかで筋肉に力を漲っているが、脂肪が少ないためか、外見的に地中海の陽の下で育った農家の少年と大して変わらない。それに反して、ストラウベリーの年月を重ねて鍛えてきたボディは鋼の筋肉を浮かべると同時に、豊満な胸とヒップも備えている、流れる金髪と相まって、まるで神話に伝わる戦女神のようだ。ローマ市民を熱狂させるだけある。
「どうかしたか?」「いや、なんも」「そうか、では続けよう。私のすね当てを見てくれ」
「臭そう」「おまえも人のこと言えないはずだぞ。後で風呂に入れ。裏側を見るんだ」「えぇ……これを持てというの……?うえっ」
ドゥームは顔をしかめてすね当ての中を覗き込んだ。
「ん?なんだこの棒が並んでいるみたいなもんは?」
「これはバー・コードという。帝国の承認を授けられた工房が自分の商品に刻み込む、識別の印みたいなものだ。だが本当に重要なのはその左下にある。もっとじっくり見よう」
「ん?なんか文字みたいなものが……?」
「それがBARCODE REGION 1の印だ。この領域(リージョン)を示す絶対的な……刻印みたいなものだ。我々のリージョンでは、これを刻まれた装備しか使用が認められない」
「リージョン?なんの話だよ?しかし人が命かけているところに煩いルールを設けるとか腹が立つというか」
「勿論それには理由がある」ストラウベリーは水を一口飲み、唇を潤すと、厳しい顔でドゥームを見つめた。「遥か昔、宇宙、次元、領域……様々な似ているが違う世界を行き来できる剣闘士達がいた。中でもヤーバン呼ばれたリージョンからやって来た一団は強大な鎧を身に纏い、無敵の剣を振るい、コロシアムからコロシアムへ、国から国へ、数多くのリージョンを蹂躙した。そのリージョンに元からいた剣闘士たちはヤーバンの暴威に対応すべく闇武器商人からヤーバン最新鋭の装備を購入し、一時は凌いだが、数カ月後、ヤーバン者は更に強力な装備を持ち込み、コロシアムを血で洗った。剣闘制度はもはや崩壊寸前……それが看過できないマルスとマーキュリーはヤーバンの神々と談合し、BARCODE LEGIONによる不可侵条約を結んだ。それ以来、各リージョンはそれぞれのバー・コードが与えられ、同じ世界ので生成されたバー・コードの装備しか使えなくなった。リージョンを超える剣闘士が現れなくなり、ローマに平和が訪れた」
きょとんとしたドゥームを一瞥したストラウベリーは咳払いした。「コホン。以上が私が聞いたバー・コードにまつわる昔話の一つだ。一応最有力説になっている。どうだ、これで納得できたか?」
つまりこうだ。もしデータカードダスアイカツはボーダーレスでやったら、比較的先進国の日本から有りに余ったカードを持ち込み、売り捌いて利益を得る者が出ると想像できるだろう。そしたら投機的な剣闘士が強力なカードを手に入れ、カードの販売を目的とする現地の運営会社の収入が減る。逆に日本で絶版したけど海外では現役排出中のカードをレリックとして逆輸入されたこともあり得る。当然万魔殿たるBANDAIと代理商がそんな事赦せるはずが無く、コードを国ごとリージョンを与え、制限をかけた。というのが自分なりに考えた結果です。
「ワーオ」ドゥームは頭を掻いた。「いきなり宇宙とか神とか言い出した時点で脳にキズが入ったかと思ったけど、最後に理に適ってるな」
「そうだ。だからお前も恥かかせぬよう。コロシアムでリージョン表示がない装備を持った闇武器商人から買わない、貰わない、使わないことだ」
「あいよ」
「では、手と顔を洗ってこい」ストラウベリーは立ち上がった。「朝食にしよう」
「どうも」
頷いて会釈し、ドゥームはストラウベリーから与えられた空間である貯蔵庫の一角に戻り、布団も裏を探った。
「つまりこれは使えねえってことか。ふーん」
彼女の手にはダンスフュージョン製の、BARCODE REGION 1が表示されないAmor一式があった。
追記:やはりとう腐さんがくれたカードは使えませんでした。(検証済み)
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