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コンビニ店員は大変だ

 今日の昼、会計が終わり、私はカードと缶コーヒーをかばんにしまうためレジから退かして次の客を進ませた。

「いらっしゃいませ、何になさいますか?」店員が丁寧に尋ねた。後ろに並んでいた白髪のおじさんはスマホしか手に持っていないので多分コーヒーかタバコか、それとも宅配便を取りに来ただろうと思ったが、彼の発言は予想外のものだった。

「あのすいません。フェースブックの自動再生機能はどうやって切るか知りませんか?」「ハッ、へえ?」近年業務は幅が広くなることにつれて全能の存在になりつつあるコンビニ店員もこの質問に対し困惑した模様。

「よく知りませんけど……」「そうか……じゃあきみは?なんか知ってるかね?」

 今度は私に聞いてきた。またかよ。実際私は近所を歩いたり、買い物に行った際は高確率で道を聞かれる。私は筋トレやっているので胸板がある程度厚いし、顔つきは温厚でメガネもかけているので、他人からはクラーク・ケントぐらいの頼もしさを感じたのだろう。でもごめんよおじさん。確かにFBはこの国にではメジャーなSNSだけど、大学時代アカウントを作った以来ほとんど触れていないんだ。

「いや、知りませんよ」

 このあとは得意先への訪問が控えている、それに絡まれるのが面倒なんで私はその場を離れた。自動ドアを出て、振り返ると、おじさんがまだ諦めていないらしく、スマホを片手に別の客になんか言っていた。

 車に戻ったあと、缶コーヒーを一口啜り、運転しながらさっきのことを考えた。FBに自動再生機能?そいうのもあるのか?実際どうなっているのかは知らないが、自動再生という単語は初耳ではない。そう、youtubeにはそういう機能がある。動画が再生し終わった後なにもしなかったら、関係があるようなないような別の動画が自動的に再生される。それが終わるとまた別の動画が再生される……動画が次々と再生され、延々と続いてゆく……そしておまえは動画をばかり観て、筋トレと小説を書くこともしなくなり、肉体と精神がしだいに弱っていく。気がづくとおまえはもう、腰抜けのカウチポテトになった。「いや、おれはこのままでいい。今の状態が一番快適だ。まだ見ぬ動画がある」おまえはそういい、友だちのバスケの誘いも断って、彼らがおまえの腰抜いた態度に苛立ってフーターズに行ってもおまえを呼ばなくなった。でもおまえは動画さえ見れるならそれでいいと思い、やがて老いてしぬ……なんと恐ろしいことか!自動再生機能はスカイネットやマトリックス的な敵対そんざいが人間を弱体化させるため作ったものと思えなくもない!でも私はそんな機能は遠い昔オフにしておいた。これで一時的に安心できるはず。

 あのおじさんはもしかして自動再生の危険性を気付き、助けを求めていたかもしれない。でもおじさんよ、コンビニの店員さんに尋ねても、門違いだと思うぜ?ほら、せっかくFB使ってんなら、直接メッセージ書いて聞いてみてはどうだ?熱心なフォロワーが動画まで作って丁寧に手順を教えてくれるかもよ。まあ今更なに言ってもあと知恵だがな。よし決まった、これからは自動再生の切り方を聞かれたら積極的に答えていこう。

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