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人情

とある雨の日のこと。午後の仕事が一段落つけ、私は人通りの少ない公園の周りに車を止めて、シートを倒してリラック状態に入った。道路の両端は赤いペンキで線を描かれている。この国では「ここでの駐車を禁ずる」という意味だ。つまり私は法を犯している。承太郎が言った、「バレなきゃあイカサマじゃあねえんだぜ」と同様、取り締まられない限り犯罪の事実は成立しない。そしてその権力を持つ警察も滅多にここに来ない。来たとしてもサイレンを軽く鳴らし、退散するようと警告をするだけ。

そういうわけで、ここは私のような外回りサラリマンやタクシードライバーにとって絶好の休憩場所となっていた。静かで木による日の陰もあるし、昼寝にうってつけさ。

しかしこの日はなんか違った。空気に漂う殺気を感じ、スマホゲームに興じていた私は頭をあげた。すると車の前に一人の警官がスマホを構えているのを見た。

(しまった)

そう思った私は急いでシートを起こして、ウィンドウを降ろし、営業職で鍛えられたスマイルで全面的協力の姿勢を心構えた。

「あっ、ドーモおつかれっ」
「最近のマッポは売り上げが欲しくて手段も選ばないなぁ?あぁ?」

社交辞令が遮られた、後ろに停まっている車の運転手に。

「断りなし写真撮りやがって……市民を搾取するのは楽しいか?」
「あぁ?先に交通ルール違反のはそっちなんだるるぉ?おぉ?」

そのまま警官と口論し始めた。後ろの車のプレートは赤いアルファベットと数字で書かれている。この国ではそれは営業用車輛を意味する。車の色がイエローではないことから、多分Uberのドライバーだろう。それより面倒事はごめんだ。私はすかさずエンジンを入れて、警官に尋ねた。

「あの、すいません、自分はもう行っていいすか」
「あぁ?おう、もう写真は撮ったし。行ってよし」
「アザマス。お疲れさまっス」

この国では交通ルール違反はまず警察機関が取り締り、それから色々手順を経て、罰金を書かれたチケットを発行する。違法駐車の場合は最高5000日本円に相当する罰金を科せられる。給料が多くない自分にとって相当の痛手だ。

しかし一ヶ月、二ヶ月が経った。未だにチケットが来ていない。警官が私の全面的協力姿勢が気に入って報告しなかったのか?だとしたらありがたい。それともあのUberドライバーが警官のヘイトを稼いてくれて私の件をキレイさっぱり忘れてくれたのか。とにかく来るはずの罰金がなくなって本当によかった。Be kind。いい態度とって損することはない。というのは今回の教訓です。

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