来たぞ我らのウルトラ鰻

 日本、どこかの川口。十六夜の夜。マリアナ海溝から北へ流れる黒潮に乗って、長い旅を経りここにたどり着いた今年最後のシラスウナギたちは岩の隙間に身をひそめ、つかの間の休憩を取っていた。

「はぁー長かったぜー」
「先輩たち、無事で上流に辿りつけたでしょうか?」
「もう途中でおっ死んだりして」
「もしくはもうニンゲンに捕まって死ぬまで肥育されてりして」
「アハハハ! ありえるぅ!」
「やあやあ皆さん本当にお疲れ様です~ 最初からに比べて結構数が減りましたけど、僕の言う通り遅れて出発して正解でしたね! 漁協が定まったギョキーも2日過ぎたので僕たちはこうしてのんびりヒレを伸ばして休めます!感謝してくださいよ!」
「うるさいぞ秀才。てか早く寝ろ。上流までの道がまた長い。世が開けたらすぐ出発だ」
「オレ、上流に行ったらステキな雌を見つけるんだ……」

 興奮が抑えきれず、修学旅行気分になっているウナギたち。月が静かに見守って……そして突然、パチ、パチっと、月明かりと異なった強烈な光が川面を照らした。

「なんだぁ? もう朝!?」
「なわけないだろ! 何がどうなってんだ!?」
「眩しいすぎるよ~」
「でもさ、なんか……」
「蠱惑的だ……」
「うん、なんか惹かれる……」
「行ってみよう」

 本能的に光の元へ向かうシラスウナギたち。光に心を奪われた彼らは後ろから迫りく網に気づいていない。

「「「うわぁぁぁーー!?」」」

 文字通りに一網打尽され、水から離れたシラスウナギたちは見た。頭から光を放っている巨人を!

「ターイリョー」

 ミツリョウシャーだ!こいつは環境破壊宇宙人ニンゲンの中でも特別に迷惑な存在。自分の利益しか頭にないため、水産資源の保全や法律など構わず密漁をやってのける、害悪中の害悪なのだ!

「イッカクセキーン」

 ミツリョウシャーは高出力水銀燈球を付けたヘッドライトで川を照らし、光に魅入られて集まってくるシラスウナギを掬い上げてはニトリの収納ボックスから改造した浮くコンテナに入れる。作業が粛々と進められている。

「おい秀才!なんだあれは!ギョキーがもう終わりじゃなかったのかよ!」
「た、確かに終わったはずだよ!漁協のルールは絶対じゃなかったのですか!やはり」
「クソ!このままじゃみんな捕まってしまう……なんとかできないのかよ!?このままじゃ奴らは不肖養殖業者に引き渡され、成長を促進する高たんぱく質のエサを与えられてぶくぶくと成長して、一番脂が乗る時に出荷され、頭に釘を打ち込まれて死んでしまうぜ!そして来年は海に還るウナギがなくなって海と河川の生態バランスが崩れてしまう!」

 僅かに水銀燈の誘惑に対抗できるシラスウナギもいたが、ミツリョウシャーとシラスウナギの相手じゃ身体の差があまりにも大きい。胸びれも尾びれも出ない!

「おお……大いなるクルゥルー様。どうか、どうかお救いくださいッ!」

 自分が何もできない以上、神頼みしかない。秀才は非ユークリッド幾何学構造の宮殿を思い浮かべ、深淵に眠られし神に祈った。そして大いなる旧支配者がそれを聞き入れたかように、シラスウナギのピンチに駆け付ける者たちがいた!見よ、海方面から、スクランブルに潜航してくるエイとライギョの形を模した2機の戦闘潜水艦。水中の平和を守るため、水生生物たちによって形成された戦闘的防衛組織、PACIFICが助けに来たのだ!

「デビルフィッシュ3からスネークヘッドへ。ターゲットを視認、武器使用の許可を求めますッ!」

 エイ型潜水艦の操縦席で、オレンジ調のパイロットスーツを着たのニホンウナギ。彼の名前はイグル。PACIFICに入隊して3か月の新人だ。

『こちらスネークヘッド、火器の使用を認める。イグル、オマエにとって初めての実戦だ。連携を忘れるんじゃねえぞ!』

 ライギョ型の重武装機”スネークヘッド”のメインパイロットであり、イグルの指導を担当していたスズキのシバスが無線でイグルに念押しした

「ハイッ!わかってますッ!」

 エイ型戦闘機のデビルフィッシュ3が加速し、ミツリョウシャーに照準を合わせた。

「ターゲット、有効射程に入りましたッ! 攻撃を開始しますッ!」

 デビルフィッシュ3がミツリョウシャーがに向かってマシンガンを掃射!続いてスネークヘッドもトルビートを発射!ダダダダンッ!ヒュ~カブーム!

「イッカクセンキーンッ!!?」

 しかし息が合った連携攻撃はミツリョウシャーに大して効かなかった。特撮の一話目で、防衛組織の兵器が怪獣にダメージを与えるためしはあまりなかったのだ。

「イッッカク!」

 ミツリョウシャーは網を振り回してデビルフィッシュに叩きつけた。

「うわあああああーー!!!」

 コクピット内に火花が散った。デビルフィッシュ3は機体から煙が噴き出して失速して川底に墜落していく!

「イグルーーー!!!」

 悲痛の叫び声をあげるシバス隊員。しかしその時、デビルフィッシュ3の墜落地点の近くに光の玉が弾けた。

「うわっ!? なに!?」

 瞼のないシバス隊員は鰓呼吸も忘れて目を見開いた。ウミホタルのような無数の光の粒が渦まいて、凝縮し、巨大なウナギの姿となった。

「光の……巨大魚?」
「マサニ、ウルトラまんッテトコロカシラネ」

 スネークヘッドの後席、サブパイロット兼ガンナーのデナガエビのヒラタ隊員が初めて言葉を発した。

(つづく)



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