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お肉仮面VS自然

🥩この作品は食人、動物が死ぬ表現が含まれています🥩

 電楽は死んだ。

「ハァー……!ハァー……!ハァー……!」

 そして今、お肉仮面は森を走っている。いったい何があったのか。

 今日は天気がよく、お肉仮面はInstagramにアップする写真を撮るため、親友の電楽と共に山奥にやってきた。林道に車を停め、丁度いい茂みを見つけた2人は早速撮影に取り掛かった。茂みにしゃがんで、肩以上だけを出してお茶目なお肉仮面の愛くるしい仕草を見て、電楽もまたキュンとした。そしてカメラを構えて、シャッターを切った瞬間。

 電楽の背後から、茶色の物体が飛びかかった!ピューマだ!

「マウワゥワァッ!」
「ギャッ」

 可哀想な電楽には全くチャンスがなかった。肉食獣の顎力を込めた鋭利な犬歯が難なく延髄を砕いた。電楽は絶命した。

 俯きに倒れた電楽を見て、お肉仮面は生存本能に駆けられて、走りだした。そして今に至る。

「ガハッ!?」

 ロングコートの裾が低木に引っかかり、お肉仮面は転倒した。彼は、周りを見渡す。ピューマが追ってくる様子はなかった。安心したと同時、電楽が襲われた際のヴィジョンが脳内にフラッシュバックした。何もできず逃げた己を恥じて、お肉仮面は震えて、泣いた。和牛リブロースで作った仮面に開いた穴から涙が流れ落ちた。

 しばらくして、気分が落ち着いたお肉仮面は立ち上がったここを出て、助けを呼ばねば。しかし困ったことに、必死で走っていたせいで、どうやってここまで来たかを覚えていない。携帯も撮影していた場所に置いたままだ。「コッコキェーッ!」頭上から鳥が鳴き声が聞こえた。山奥、一人、文明の利器なし。お肉仮面は心細くなった。コートのポケットを探り、いつでもお肉が食べれるよう持ち歩いているステーキナイフを握り、歩みだした。

 どれほど歩いたか。日が沈みはじめ、霧が出てきた。お肉仮面の心にも靄がかかった。見渡す限りはあるもの木、木、木。文明が一切見当たらない。お肉仮面は仮面を一口舐めて、鮮度の具合から、あと一時間で日が完全に落ちると判断した。真っ暗で、猛獣が潜んでいる森の中で一夜を過ごす、ゾッとする話だ。でも暗闇の中で下手に動きまわったらかえって危険。彼は昔テレビで見たベア・グリルスのサバイバル番組を思い出し、まずなんとか夜を凌げる場所を探すことにした。そこで彼は捨てられたキャンプを見つけた。

 潰れたテント、散乱しているタバコの吸い殻、ペットボトル、ビール缶、使い捨ての注射器など、ここに何があったか想像し難くない。普段なら人間の愚かさに憤ったところだが、少しでも文明の息がかかったものを見たお肉仮面は自分でもびっくりするほど心躍った。さらに半分ぐらい残っているミネラルウォーターのペットボトルを見つけた。、ギャップをひねり、すぐにでも中身を飲み干したい欲求を抑えて、一口を含んだ……プラスチックの味が染み出しているが、腐ってはいない。お肉仮面は数回を分けて水の飲み、渇きを癒した。

 夕日が木々の間から差し込んで、網状の影を作った。お肉仮面はそこら辺から比較的に真っすぐな木の棒を拾い、地面に刺した。その上にテントのシートを被る。簡易な住処が完成した。180cmのスレンダーボディを縮めて中に座り込み、やっと一息がついたお肉仮面は強烈な眠気を覚えた。

(だめだ。眠っている間にピューマがきたら……しかしベアは眠れたら少しでも眠れって言わなかったっけ?しかしお腹すいたよ……鉄板の上に、ジュージュー焼けたステーキが食べたい……電楽……俺は……)

 お肉仮面が船を漕ぎ、闇が訪れた。

 ジャリ……パリ……肉と筋が切られて、引き裂かれる音。電楽を食べている獣は頭をあげた。口の周りは血で赤く染まって、歯に肉の繊維が引っかかっている。電楽の顔は血色を失い、青ざめているが、その表情は激怒で歪められ、お肉仮面を叱咤した。
『よくも俺を捨てたな!?お肉仮面!なぜ俺が死んでお前は生きているッ!?』
「違うっ!」
『何が違う!?』
「仕方なかったんだ!」
『嘘つけ!お前がしなかっただけだ!あの時お前がピューマに立ち向かったら、少なくとも二人で死ねたはずだ!俺は寂しいよ!だからお前も死ねッ!お肉仮面ッッ!』
「アアアアアーー!!!」

「ぼ」

 目が覚めた時、空が僅かに明るくなっている。仮面を舐める。熟成は進んでいる。5、6時ぐらいか。いつの間に寝てしまった。生きてはいるけど全身がだるい、頭が痛い。空腹と悪夢のせいでお肉仮面がネガティブな気持ちに陥った。しかしいうずくまってもいても仕方ないので、寝床から出た。結露でシートにできた水滴を、お肉仮面はそれをできるだけ舐め取った。

 水分を取り込んで、すこし思考が回るようになった。木の幹に生えている苔から方角を推測し、出発。できるだけ一直線に歩み進んで40分ほど、お肉仮面は空気中に漂う酸っぱいにおいに気づいた。

(肉と、血の匂い)

 嫌な予感しかしないが、唯一の道しるべなので進むしかない。肉のにおいが強まり、予感が的中した。

 電楽、もとい田楽の死体があった。腹が食い破られ、内臓が散らばるという惨い死に様だった。お肉仮面は吐いた。空腹のため僅かな胃液しかでなかった。

「あぁ……電楽……すまない……うぅ……」

 いろんな感情が湧き上がり、お肉仮面は土下座ような姿勢でうずくまって嗚咽した。

『お肉仮面さん、無事でしたか』
「……電楽?」

 ふと、電楽の声が聞こえた。お肉仮面は自分の精神状態を疑った。

『良かった。山で野垂れ死んだかと』
(こんなにはっきり聞こえる。俺マジでやばい状況かな)
『幻聴だっていいじゃないですか。で、これからどうしますか?』
(どうするって、車で一番近い交番に行って通報……)
『腰抜けですか?』
「なに?」
(友人を目の前で殺した畜生を、このまま放っておくんですか?)
「したくない!けど相手は肉食獣だよ!俺にはとても……」
(肉食獣でも草食獣でも、生者も死者も、等しく肉です)
「あっ」

 お肉仮面の頭の中はスパークした

(相手が肉でしたら、肉を喰らう者であるお肉仮面が負けるわけないでしょう?)
「しかし俺は今腹がめちゃ減って……」
(肉なら、目の前にあるじゃないですか?)
「えっ」

 目の前にある肉、つまり電楽の肉だ。

「……いいの?」
(召し上がってください。そして僕の分まで、やってやるのですよ)
「わかったよ電楽、そこまで言うなら」

 お肉仮面はナイフを握り、電楽の肉を切りおろして、口に入れた。田楽の味、それはほんのり甘くて、優しかった。

「おぉ……おお!」一日ぶりの固体食、タンパク質が、脂が、カロリーが。血管にめぐって、エネルギーが全身に駆けわたる!

「ありがとう、田楽」お肉仮面は田楽の太腿肉を切って、穴を開くと、和牛リブロースの仮面を外して、顔に張り付けた。これで電楽とお肉仮面は一つになった。電楽肉仮面だ。

 スマホ、カメラ、車のカギを回収し、電楽肉仮面は向う。決戦へ。

「俺をお前、ふたりでやるんだ」

🥩 

 記憶に辿って、無事車の場所に戻ることができた。電楽肉仮面はトランクからガスコンロを取り出した(これは急の焼き肉のために備えた物)。網を敷いて、その上にもはや食用に適しない和牛リブロースを置いて、火をつけた。脂がバチバチと爆ぜて、香りが広がる。

 においに釣られ、ピューマが姿を現した。人間を完全になめ腐っているとうで、のうのうとガードレールをくぐって、歩いてくる。

「上等だ猫畜生……お肉ならここにあるぜ……」

 コートを左腕に巻きつけて、右手でステーキナイフを持ち、電楽肉仮面は両腕を開いた。

「欲しけりゃ、取って、こいやオラァァー!!!」
「マゥワッ!?」

 目の前にいる人間が発した殺気に驚き、ピューマ警戒した。電楽肉仮面を脅威だと認識したのだ!

「おらおらどうした?ビビってんのかおぉん!?子猫ちゅわんよ~」電楽肉仮面は踊るようにステップを踏んで、煽っていく。ピューマは人語を解さないが、自分がバカにされていると直感でわかった。獣は怒りを覚えた。

「マゥワァァ……」

 足の筋肉を緊迫させ、ピューマは急襲の姿勢に入った。そして。

「マオオオーッ!」

 放たれた矢の如く、電楽肉仮面一直線で突っ込んで、飛びかかった!(来たッ!)電楽肉仮面は頸部を守るよう押し出したコートを巻いた左腕に、ピューマが食いかかった。「マワッ!」「ヌォッ!?」まるで警察犬の訓練みたいに組み付いた一人と一匹、まず電楽肉仮面は驚いた。左腕に掛かっている圧力が凄まじく、まるで万力に挟まれているようだ。そしてピューマは思ったより重く、今にも押し倒されそうだ。

 しかし耐えた。電楽肉仮面は一人で戦っているではなく、電楽の意志、そして肉を背負っているのだ。

「肉のくせに生意気なッ!」

 肉の穴の奥に電楽肉仮面はの目が光った!ステーキナイフを握りしめ、ピューマの左目に突き刺し、柄のところまでなじりこんだ!

「マゥワァァッ!!?」

 片目が潰されたピューマは口を離して、狂ったように頭を振って、のたうち回った。電楽肉仮面は様子を見ながら、デジカメを肩から降ろした。

「ミャオァ……アウアオワーッ!」

 猫科の中でも視力秀でているピューマが半分の視力を失い、今や距離感がつかめず、バランスも取れず、歩いてもすぐ転んでしまう状態だ。電楽肉仮面はカメラの帯を掴んで、カメラを投石機のようにぶん回しながらゆっくり距離を詰める。

「フーンッ!」

 モーニングスターのように振り下ろされるカメラがナイフの柄に当たり、さらに食い込ませた!ナイフの先端が脳に達し、ピューマは数度跳ねて、動かなくなった。

「……」

 ピューマが完全静止したと確認し、電楽肉仮面は予備のナイフを取り出し、肉一枚を切りおろして、口に入れた。アンモニア臭がひどくて、肉が筋っぽくて噛みきれない。食えるものではなかった。それでも電楽肉仮面はそれを嚥下した。敵に対するせめての敬意だ。

「やってやったぞ。電楽」

🥩

 車の運転席に座り、電楽肉仮面はデジカメの電源を入れた。あんな荒い使い方してよく壊れなかったものだと思いながら、電楽が最後に撮った写真をしばらく眺めた。

おにく

(めっちゃいい写真じゃないか)

 仮面の裏に、お肉仮面は微笑んだ。

 エンジンをかけ、車が山道を降っていく。

「行こうぜ、俺たちならきっと上手くやってける」

 肉の穴から覗ける電楽肉仮面の目は鋭く、凄みがあった。

(終わり)


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