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男性ブランコと私記

 2021年10月2日(土)、何となくネット上での周りの話題についていくためにTBS系列が映らない辺境の地・秋田で、キングオブコントの放送終了後すぐ、TVerで見逃し配信を観ていたときのこと。

 画面にはメガネをかけた「ふつう」っぽい男性と、インパクトの強い女装をした男性の姿。

 「雷に打たれたような衝撃」とはこのことか、と思った。

 一目惚れ、一見惚れ、一ネタ惚れ、どの言葉を使って表現するのが適切なのか、未だに答えは出ていないけれど、とにかく、全てが「ドストライク」だった。どストレートにライク、ドストライク。いや、それを言うならどストレートにラブのドストラブ。

 中高生の頃は、街で一瞬耳にしただけのバンドも、雑誌で見かけただけのアイドルも、何だってすぐに好きになれた。しかし大人になるにつれて、「好き」へのハードルが段々と高くなっていき、「この人(たち)のことが好き」と言うためには、名前はもちろん、出身地や誕生日などを覚えなければいけないという思い込みに支配され、いつの間にか、新しく出会う誰かを、何かを、好きになることが怖くなっている自分がいた。

 しかしそんなときに、わたしのなかのその変な思い込みを全て突き破って脳天に突き刺さってきたのが〈男性ブランコ〉というコンビだった。月並みな言葉ではあるが、何かを好きになるのに理由も理屈も必要ないのだと、数年ぶりに思い知らされた。

 〈男性ブランコ〉というコンビに出会ってから、わたしの人生はさらに色を増した。かつて浦井さんが平井さんに宛てて書いた手紙 のなかの

ほぼ止まりかけていた僕の人生を動かしてくれたのは他ならぬまちゃです
【大感動企画】『届け、相方からの想い〜涙のビデオレター鑑賞会』【#吉本自宅劇場】 より

という言葉を借りて
ほぼ止まりかけていたわたしの人生を動かしてくれたのは他ならぬ男性ブランコです。
と伝えさせてほしい。

 男性ブランコと出会ったのは、何となく大学に入ったものの、未来が全く見えず、自分の好きなことをする時間を犠牲にして、課題、授業、バイト、課題、課題、の日々で頭がおかしくなり、もうこの大学には居られないと休学をして丸2年が経とうとしていた日のことだった。

 休学をして最初の1年は、とにかく「大学」から距離を置くために少しだけツテのあった会社でフルタイムで働かせてもらうことにしたものの、重労働に全くついていくことができずに体調を崩してしまい、半年で辞めることになった。そしてその会社での契約終了日の翌日、ぼうっとしすぎて、住んでいるアパートでボヤを起こし、大事には至らなかったものの、しばらく茫然自失の日々が続き、あれよあれよという間に、休学期間の「最初の1年」が終了した。
 2年目は、散々だった1年目を経て、「少しでも将来に向けてプラスになるように動くぞ!」と意気込んでいたものの、編入試験には落ち、楽しかったはずの新しい職場もしんどくなり、「もういっそ『大学生』という肩書きを一旦手放して、秋田からも出て行ってしまおう」ということで、丸2年の休学を経て、「大学中退(高卒)」という経歴を手に入れた。

 この2年間の話と男性ブランコに何の関係があるのか、という話ではあるが、わたしが「上京をするためにもう少し秋田での生活を頑張るぞ」と自分に発破をかける糧となってくれている。やれ飛行機代だ、宿代だとわざわざ考えなくても、何でもないような日にふらっと男性ブランコのステージを観に行くという夢が、今のわたしを生かしてくれているのだと思う。

 大袈裟でも何でもなく、ほぼ止まりかけていたわたしの人生を動かしてくれたのは他ならぬ男性ブランコなのである。

 閑話休題。冒頭で述べたように、キングオブコント2021で〈男性ブランコ〉というコンビと奇跡的な出会いを果たしたわたしは、手当たり次第に〈男性ブランコ〉というクレジットが入っている番組やYouTubeの動画を漁った。過去の劇場公演を見るためにFANYチャンネルの月額1980円のコースにも登録したし、FANYプレミアムにも登録をした。そうして、過去の公演や、YouTubeの吉本興業が運営する公式チャンネルがアップロードしてくれているネタなどを毎日のように観続けていた。

 そしてある日、2019年4月25日にオモコロで公開された、かまどさんが男性ブランコのコント『マチコちゃんと花』を漫画化した記事を発見した。わたしは高校生、下手したら中学生の頃からずっとオモコロが好きで、毎日特集記事を読んでいたし、かまどさんがコミカライズした『マチコちゃんと花』の記事も公開されてすぐに読んで泣いた記憶があった。3年も前に「出会っていた」はずなのに、その時点で〈男性ブランコ〉に興味を示さなかった自分に幻滅した。我が人生最大の汚点であると言うと少し過言ではあるが、わたしがもう少し綺麗に生きてきていたら、3年前のあのタイミングで男性ブランコに歩み寄ろうとせずにオモコロだけで完結してしまったことは人生最大の汚点になりえたのだろうと思う。

そしてさらに驚くべきは、キングオブコント2021の直前に観た『千鳥のクセがすごいネタGP』のなかの「あとは千鳥さん次第やな」枠で男性ブランコの『数学泥棒』を見ていたにも関わらず、そのときもただ「すごすぎ……」とただ感動するだけして、華麗にスルーしていたことである。

 本当に自分に都合のいいように言ってしまえば、そのときはまだ「何かを好きになる」ことを理屈っぽく考えていて、〈男性ブランコ〉にハマることを恐れていたのかもしれない。わたしは変に楽観主義的な部分があるので、きっと、最初の出会いと認識していなかった出会いからここまで好きになるのに時間がかかってしまったことも、自分の力ではどうしようもない運命だったのだろうな、と思うことにしている。出会うべきタイミングで出会うべくして出会ったという、ただそれだけの話なのだろう。

 ここで話がまた変わって、ZAZYさんのラジオのことについても少しだけ書きたいと思う。
 浦井さんがゲストとして出演された『芸人Boom! Boom! ZAZYの週明けにイチャモン』の第90回(2022年2月7日公開)に、「つのうさぎ」というラジオネームで

 わたしのなかで男性ブランコさんが空前絶後の大ブームです!
 わたしは男性ブランコのおふたりに出会うために生まれてきたんだ、と考えると全ての悩みが浄化され、今のところ、わたしが生まれた意味としていちばんしっくり来ています。
 浦井さん、一生愛し続けるので覚悟していてください!!!

というレターを送ったのは他ならぬわたしである。

 かの中島みゆきが、世に語り継がれる名曲『糸』において

逢うべき糸に出逢えることを人は仕合わせと呼びます

と歌っているが、わたしにとって、男性ブランコに出逢えたことこそが運命であり、“しあわせ”であると、つくづく思うのである。

 これはわたしと男性ブランコのおふたりの話だけでなく、浦井さんと平井さんを繋ぎ合わせた運命の話でもあり、陳腐な言葉ではあるが、この幾重にも重なった奇跡とも言える運命のもとで生きることができているこの人生が堪らなく愛おしい。

 一筋縄ではいかなくて、しんどくて泣き明かすような夜もあるけれど、この人生を諦めずに、これからも「脚が動く限りはちゃんと生きていよう」と思えるのは、男性ブランコのおかげです。いつもありがとうございます。

 ここまで読んでくださった方、長々とお付き合いいただきありがとうございました。
 短歌も詩も久しく書けていないけれど、なんだかんだ言って武藤はしぶとく生きていますので、生ぬるく見守っていただけたら嬉しいです。

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